第35話 案件?

 ハンターズを「死ぬ負けハンターズ」に改名させた一件は「アキバ事変」と呼ばれてダンジョン配信者界隈を揺るがした。


 なにせ業界最大手のプロダクションの看板に泥を塗ったのだ。死ぬ死ぬマンチャンネルにはアンチが激増し、元からの住人とコメント欄でレスバを繰り広げている。


 また、ハンターズとAXXYの恋愛関係をバラしたのも不味かったらしい。街を歩いていると、「俺の夢を奪いやがったな!」と怒られることがよくある。しるかよ!


 ただ、マイナスばかりではない。


 チャンネル登録者は一気に跳ね上がり、通常の配信でも同時接続数五桁が当たり前になった。色々な声はあるものの、死ぬ死ぬマンチャンネルは伸びているのだ。劇的に。


 その証拠として、遂に我々にもやってきたのだ。案件が!


「師匠。さっきからソワソワしすぎですよ」


 新宿ダンジョン入り口。俺達はある会社の社長さんを待っていた。


「仕方ないだろ! 初めての案件なんだから! 俺はずっとこの日を夢見てたの! なあ、グミ!」

「ウゥ……!」


 案件慣れしているマリナと違い、俺達は舞い上がっている。自分でも笑ってしまうぐらい落ち着きがない。


 スマホを見ると、そろそろ約束の時間だ。


「死ぬ死ぬマンさん!」


 やたらと通る声だった。


 振り返ると、恰幅の良い男性がボディーガードを引き連れて歩いている。


「遅くなってすみませんでした! 小塚商会の小塚です」


「とんでもないです! 今回はお話を頂き、ありがとうございます!」


 小塚さんと握手をしながら、頭を下げる。


「こちらこそ引き受けて頂き、ありがとうございます! 今、死ぬ死ぬマンチャンネルは飛ぶ鳥を落とす勢いですからね! ダンジョングッズを扱う会社は何処も注目していますよ」


 そう。小塚商会はダンジョン探索者向けのアイテムを扱う会社である。それも、海外から輸入した変わり種ばかり。


「それでは小塚さん、早速ダンジョンに行きましょうか?」


「よろしくお願いします!」


 今回は小塚さんと一緒にダンジョンに潜り、様々なダンジョングッズを試す企画なのだ。



#



 新宿ダンジョン十二階。屈強な肉体を持つモンスター、オークが現れることで知られるフロアだ。


 分厚い筋肉の鎧は厄介で、毎年何人もの探索者がオークにやられて帰らぬ人となっている。それぐらい、危ないモンスターだ。特に、女性にとって……。


「ウゥ……!」


 転移部屋を出てすぐ、グミが反応した。モンスターの気配。


「来ます!」


 現れたのは一体のオーク。こちらを認めてニヤリと笑った。そして腰につけていた布切れを雑に外し、股間を露わにする。


「ブイィィィ……!」


 マリナに狙いをつけると、興奮した顔で走り始める。そう、オークは人間の女性に激しく欲情するのだ……!!


 俺は弾丸のように突進してくるオークの軌道上に立つ。


 ──カチンッ!


 HPの壁にぶち当たり、後方にゴロゴロと転がるオーク。


「今です!!」


 小塚さんの声がダンジョンに響く。呼応して、グミとマリナは手に持っていたアイテムをオークに投げつけた。

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