第34話 死ぬ死ぬマンは死なない

 辛うじて、まだ眼球は動く。


 視線の先にはゆっくりと立ち上がる神野がいる。


 自慢の魔剣は握っておらず、代わりに奇妙な石を持っていた。


「ふふふ……。ふはははっ! 動かないだろ!? 死ぬ死ぬマン! 見えないだろうが、お前の身体は足元から石になっているぞ!!」


 身体が石に……どういうことだ……?


「まだ顔は動くようだな。驚いた表情をしているぞ? そのまま石像になるが、いいのか?」


 石像に?


「お前のことは研究させてもらった。HPの壁で防げるのは、ダメージを与える攻撃だけ。状態変化は防げない。俺の仮説通りだったな!」


 まぁ、そんなことだろうと思った。


「これはメデューサの瞳というレアアイテム! 使い捨てだが、その効果は強力。対象を石化するというものだ! お前はこの秋葉原ダンジョンで石像として永遠の時間を過ごすがいい!」


「ウゥ……!」

「師匠……!」


 グミとマリナの声が近くでした。俺を心配しているのだろう。


「この勝負、俺の勝ちだ!!」


 ハンターズ陣営が集まり神野を囲んで盛り上がる。きっと死ぬ死ぬマンチャンネルはアンチコメントで埋め尽くされているだろう。「ざまぁ」を連呼されているに違いない。


 それを今からひっくり返せるのだ。こんな気持ちの良いことはない。


 俺は……スキルを強く意識した。


【モフモフ化!!】


 身体が青白い光に覆われたのが分かる。そして創り変えられるような感覚。


「ウゥ……!」

「師匠……!」


 ふふふ。隙ありだぜ、神野。


「オオォォォオ!!」


「なっ……」


 武器も持たず、カメラに向かってコメントしていた神野に金属バットを振るう。俺の腕はモフモフだ。


 タイマンの話は何処へやら。ハンターズのメンバーが必死に俺を攻撃しているが、効くわけがない。金属バットは止まらない。


「オラッ!」


「あひっ」


 側頭部に決まり、神野の表情が怪しくなった。


「もう一丁!」


「ガッ……」


 ガクリと崩れ、地面に転がる。


 ──静寂。そして。


「ウゥゥアァ……!!」

「勝ったぁぁ……!!」


 グミとマリナが飛びついてくる。モフモフの俺の身体に。


「俺はどんなモフモフになっている?」


「師匠は熊になっています!」


 熊の腕力で殴られたら、いくら高レベルでもしばらく回復しないだろう。


「モフモフ化は使用者の身体を強制的にモフモフにするスキルだ。効果が切れれば、人間の身体に戻る。石化してようが関係ない。お前ら、本当に俺のことを研究してたのか……!?」


「「……」」


 ハンターズの二人は悔しそうな表情で黙り込む。


「さて、タイマン勝負は俺の勝ちだな。約束通り、ハンターズは配信チャンネルの名前の頭に"死ぬ死ぬマンに負けた"と入れてもらう」


「そんな約束してないだろ!!」


「この状況をみて、そんなことが言えるのか?」


 周囲をぐるりと囲むウェアウルフの群れ。ロープで縛られ、地面に転がされたままのAXXY三人。頼みの綱の神野は相変わらず失神している。


「生きて帰れるだけで有難いと思わないのか?」


「……クッ……」


「明日から、ハンターズ改め"死ぬ死ぬマンに負けたハンターズ"だ。いいな!」


「分かった……」


「よし! 視聴者の皆さん! 聞きましたよね! もしチャンネルの名前が変わってなかったら粘着コメントをお願いします!!」


 煽るだけ煽ってコメント欄を見ると──。



『ひどいゴリ押しwww』

『死ぬ死ぬマン、マジ性格わり〜www』

『オッケー! 粘着するね!』

『オラッ! ハンターズ! 早く改名しろ』

『死ぬ負けハンターズって略されるんやろなぁ』

『死ぬ負けハンターズwww』

『まさかモフモフ化が役に立つ時が来るとは』

『モフモフ化って全ての状態異常を解除出来るの?』

『タケシちゃん! 心配したわよ!!』



 ──コイツらに任せておけば大丈夫そうだ。


「よし! 面白い絵も配信出来たし、今日は帰ろう!」


「ウゥ!」

「はい!」


 元気な声が二つ。その後に狼男達の遠吠えが響くのだった。

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