第28話 闖入者

「えっ……!?」


 後方から声がした。


 人間二人、グール一体、ウェアウルフ三十体が一斉に振り返る。


 見たことのある鎧姿の探索者。確かこの前、モンスタートレインから助けた人だ。


 今からボス戦が始まろうという時に……。


「ウゥ! アァァァ……!?」

「師匠! あの男は……!?」


 ──まさか恩返しに来るとは。人間、捨てたものではないな。


「お前達、あの人を連れて来い!」


 正面のケルベロスを睨み付けながら、ウェアウルフ達に指示をする。


 横目で見ると、両脇を抱えられた鎧の人。


「助っ人、助かります!!」


「え、あっ、いや……」


「せっかく鎧姿なので、タンクをお願いしてもいいですか?」


 ウェアウルフ達がケルベロスの正面に男を配置し、素早く散った。そして三頭の犬をぐるりと囲む。


「なんと! 飛び入りゲストが! この前助けた鎧の人です!! 本日は視聴者ドッキリ、ウェアウルフ三十体でケルベロスをタコ殴り企画の筈でしたが、内容を変更して配信します!!」


 ケルベロスは周囲を囲まれて動けない。


 男は飛び始めたばかりのドローンカメラに向かってお辞儀をした。


 その様子をチャンスだと思ったのか、ケルベロスが飛び掛かろうとするが──。


 ガンッ!!


 背後から金属バットを持った狼男達がブン殴る。ステレオサウンドで響く犬の悲鳴。


「鎧さん! 攻撃もお願いします!」


「えっ……」


「早く! 今がチャンスですよ!!」


 ケルベロスは四方八方から殴られ、キャンキャン鳴いている。


 そこへ短剣を抜いた鎧さんが身体ごとぶつかっていく。


 鬼気迫る、魂の一撃。


 それはケルベロスの胸元に深々と刺さり、時が止まる。


「クリティカルだ!!」


 稀に起こるモンスターの急所への一刺し。


 ケルベロスはじっと止まったまま煙になり、大ぶりな魔石を残した。


「すげぇぇぇええええ!! ボス戦でクリティカルなんて初めて見ましたよ!!」


 ウェアウルフ達が鎧さんに近づき、肩をポンポンしている。お前、やるじゃないか! と。


「よし! 胴上げだ!!」


 号令をかけると、鎧さんは狼男のモッシュで揉みくちゃにされながら宙を舞う。


「鎧さん! 万歳!!」


 狼の遠吠えがボス部屋にこだました。よく分からないテンション。何故だかとても楽しい。



 一通りはしゃいだ後、グミとマリナを見ると随分と冷めた顔をしていた。


「どうした?」


「師匠……馬鹿なんですか?」


「えっ……!? なんで?」


「もうっ!」


 プリプリ怒るマリナの手をグミが引っ張りなだめている。


「なんかごめん……」


 必殺、とりあえず謝る! だ。


「師匠、配信の音声を止めてください。説明しますから」


 真顔をなったマリナの迫力に負け、俺は音声を切った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る