第27話 神野の怒り

「あの様はなんだ! おめおめと生き延びて帰って来やがって!! お前が死ぬ死ぬマンの邪魔をしていれば、今頃は奴はパーティーメンバーを失い、チャンネル登録者数も激減していた筈だ!!」


 ダンジョン配信者プロダクション「Dライブ」の会議室。


 ハンターズのリーダー神野は土下座をしたままじっと動かない男に、罵声を浴びせ続けていた。


「なんのためにお前の借金を肩代わりしてやったと思っているんだ! お前の命は、俺達が買ったんだよ!!」


「申し訳……ありません……」


 消え入りそうな声がする。


 ハンターズのメンバー二人も忌々しげな視線を男に向けていた。


「謝って済むわけないだろ! どう落とし前つけるんだ?」


「……」


「黙ってんじゃねぇ!」


 神野は椅子から立ち上がり、男の顔を蹴り上げた。鼻が曲がり、血が吹き出す。


「ずびません……」


「もう一度だけ、チャンスをやる。次しくじれば、お前の娘に協力して──」


「むずめだけは!」


 鼻血を垂れ流しながら、男は顔を上げる。


「それはお前次第だ」


「はい……」


 神野は男の前に屈み、前髪を掴んだ。


「死ぬ死ぬマンはもうすぐ、新宿ダンジョンの10階のボスに挑む」


「はい……」


「奴はまた、討伐記録の更新を狙う筈だ。ボスの攻撃をメンバー二人が防ぎ、その間にステータス・スワップ。そして一撃で仕留めに掛かるだろう」


「はい……」


「10秒だ。10秒でボスを仕留めることが出来なければ、奴等は詰む。お前はたった10秒、奴の邪魔をすればいい。出来るか?」


「でぎまず」


「失敗は許されないぞ?」


「わがっでまず!」


 もう既に、男に冷静な判断など出来ない。頭の中ではひたすら神野の言葉を繰り返すだけになっていた。



#


 

 新宿ダンジョン10階。転移石のある部屋の岩の影に、男は身を隠していた。


 保護色のマントを頭から被り、イヤホンをしてじっとスマホの液晶画面を見つめている。映されているのは、【死ぬ死ぬマンチャンネル】。


 その日はドローンカメラが故障したのか、死ぬ死ぬマンの首につけられたアクションカメラの映像のみで配信されていた。


 グミとマリナの姿は見えず、声だけが聞こえる。


『今日は新宿ダンジョン10階、ボス部屋に挑みます!』


 ダンジョンの入り口で目標を宣言すると、死ぬ死ぬマンはカメラを揺らしながら歩き始めた。


『では! 転移します!』


 来る……。


 緊張から息が荒くなっていた。心臓の音がやけにうるさい。


『さぁ、10階に着きました。皆、準備はいいな? 扉を開けるぞ!!』


 ダンジョン内が揺れる。


 スマホの画面に新宿ダンジョン10階のボス、ケルベロスの姿か浮かんだ……! 行くなら今だ……!!


 男はマントをめくって走りだす。そしてボス部屋の前に──。


「えっ……!?」


 信じられない光景が広がっていた。

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