第26話 大いなる帰宅

「いらっしゃ……タケシかい。おかえり……」


 いつものように、フロントに座る母親から声が掛かる。


「ただいま〜。じゃ、上行っちゃうね〜」


「待ちなさい!」


 クソ。さらっと通り抜けようとしたが、やはり無理だったか。このパターンは三回目だな……。


「アンタの後ろにいる集団は何だい!」


 飛び出してきた母親は怒鳴る。


「こいつらは見ての通り、狼男だよ」


 俺が羊男になっていることはスルーなんだ……。


「こんなに沢山モンスターを連れて、何をするつもりだい! 特殊性癖じゃ済まされないよ!!」


「3万人が見守るなかでこいつらをテイムしてしまったんだ。もう、ウチで飼うしかない」


 ウェアウルフ達がこうべを垂れる。


「馬鹿言うんじゃないよ! こんな沢山の狼男、ウチで養えるわけないでしょ? 食費はどうするんだい!?」


 それについては考えてある。


「こいつらには働いてもらうから大丈夫」


「働くったって、こんな姿じゃぁ──」


「お前達、人間になれ!」


 俺の指示でウェアウルフ達は人間化した。


「……」


 突然現れた全裸の男30人に母親が言葉を失う。


「確か、鶯谷のラブホは清掃員が足りないんだよね?」


「そうだけど……働けるのかい?」


 母親は首を捻る。


「大丈夫だって。今も言葉の通じない外国の人に清掃やってもらってるでしょ? こいつらなら時給500円で一日12時間働くよ?」


「ほ、本当かい!?」


 経営者の顔になり、瞳を輝かせた。


「ダンジョンなんて無給で24時間働いてるようなもんだからね。楽勝だよ」


 ウェアウルフ達が再びこうべを垂れる。


「わ、わかった! ウチで面倒みるよ! 組合長にも相談してくる!!」


 母親は鼻息荒く、外へ駆けていった。


 受付、どうするんだよ……。



#



「師匠、おかしいと思いませんでしたか?」


 狼男達を空き部屋に押し込み、やっと一息ついたタイミング。自室に戻ってソファに腰を下ろしたところで声を掛けられた。


 グミも何か言いたそうだ。


「ウェアウルフの話か……?」


「ええ。そうです」


 マリナ達は若干、気不味い顔をしている。ははん。あのことか。


「確かにチンコ丸出しは不味いよな。俺がウニクロで買ってくるから、心配無用だ!」


「いえ、そうではなくて……」


 チンコの話ではない……? では、何のことだ?


「ほほん。あのことか……?」


「えぇ……」


 何のことだよ!


「やはり不味かったか……」


「ですね。確実に狙われたかと」


 狙われた? ソファから背を起こし、前のめりで訊ねる。


「誰の仕業か分かるか?」


 マリナはぐっと考え込む。


「そこまでは。ただ、新宿ダンジョンを拠点とする配信者の仕業で間違いないかと……。今や、【死ぬ死ぬマンチャンネル】は最も注目を集めるダンジョン配信チャンネルです。快く思わない輩は当然いるかと」


 確かに目立ってはいる。


「邪魔する奴等がいれば、蹴散らすだけだ。この配信が俺達に対抗する配信者への挑戦状だ!」


 強く宣言すると、グミとマリナが瞳を輝かせた。


「ウゥ!!」

「ですねっ!!」


 成り行きで強がると、二人は満足そうに微笑んだ。

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