第18話 パーティー戦

「ウゥ……アァ……!!」


 グミが反応した。コボルトの集団か?


「一旦俺がタンクとして前に出る! 二人は遊撃!」


 新宿ダンジョン一階の奥。もうすぐ二階への転移石というところ。難関ダンジョンらしく、早くもモンスターが集団で現れた。


 四体のコボルトが一斉に棍棒を振り上げ、俺のガラ空きの胴体に向かって振り下ろすが──。


 カキンッ!! と甲高い音が四重に響く。コボルト達がHPの壁に驚き、狼狽える。


 すかさず、グミとマリナが両サイドから襲い掛かる。鋭い爪と凶悪な斧が振るわれ、犬のような悲鳴が二つ。


 俺はバックステップしてステータス・スワップをしていた。


「退避!!」


「ウゥ!」

「はい!」


 急に下がったグミとマリナに、残った二体のコボルトは視線を泳がした。そこへ、攻撃力6000を超えた金属バットの横薙ぎ……。


 バッシャァァァアアー!!


 インパクトの瞬間、胴体が消し飛ぶ。少し間をおいて衝撃が全身にまわり、つま先から頭まで全て液体となった。ダンプカーと衝突したら、こんな風になるかもしれない。


「はぁはぁ……」


「す、素晴らしいです……!!」


 マリナが恍惚とした表情をしている。グミは淡々と魔石を拾っていた。


「やはりモンスターは前後列のスイッチに弱いな。上手く的を絞らせず、角野アタックで戦闘を終わらせるのが安全で効率がいい気がする」


「あぁ……満たされるぅぅ」


「一度、HPの壁でモンスターの意表を突いているのも大きいな。完全に注意が逸れているので、不意打ちしやすい」


「幸せぇぇ……」


「おい……マリナ。聞いているのか?」


 マリナのトロンとした目に光が戻る。


「はっ! すみません! 師匠のゴアシーンの余韻に浸っていました!」


「ウゥアァウゥ……?」


 少し呆れたグミの声。ダンジョンのある一角を指差している。


「おっ、二階への転移石だな。今日は一度二階に行って、そのまま入り口に戻ろう。明日は二階から攻略再開だ」


 二人の元気な返事を確認し、俺は転移石に触れた。



#



「じゃ、明日は10時からダンジョンアタックを再開する。よく、休むように」


「ウゥ!」

「はい!」


 新宿ダンジョンの石碑の前で解散し、JRに向かって歩きだす。マリナも方角が同じなのか、すぐ後ろを付いてくる。


 別れの挨拶した後に再会して気不味いやつだ。


 とりあえず、気付いてないフリして歩こう。



 グミと山手線に乗ると、まだマリナがいる。目を合わさないようにしよう。


 そして鶯谷。マリナも一緒に降りてきた。


「マリナの家は鶯谷なのか?」


「恵比寿ですよ」


 うん……? どゆこと?


「もしかして、ウチに住むつもり?」


「はい! だって私も死ぬ死ぬマンチャンネルのメンバーですよね? お風呂配信やらないといけないし……」


「いや、あれは"それぐらいやってもらうよ?"という覚悟の確認であってだな……」


「覚悟出来ています!」


 駅のホームに声が響く。


 とりあえず部屋は余ってるし、今日ぐらいはいいか。その内、自分の家に帰るだろ……。


「分かった……。ウチはすぐだ」


「知っています! ラブドリーム・ハチマンですよね? 鶯谷最安値ラブホの」


 今まで、配信中は名前を出さないようにしていたのに……。まぁ、バレバレだしいいかぁ。


 出勤を急ぐ風俗嬢に邪険にされながら三人、駅の改札を出た。


 どうやって母親に言おうか……。

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