第19話 帰宅
「いらっしゃ……タケシかい。おかえり……」
フロントに座る母親から声が掛かる。
「ただいま〜。じゃ、上行っちゃうね〜」
「待ちなさい!」
クソ。さらっと通り抜けようとしたが、やはり無理だったか。このパターンは二回目だな……。
今回は母親がわざわざフロントから出てきた。
「今度はなんのモンスターをテイムしてきたんだい? サキュバスかい?」
マリナの身体を下から上まで見ながら言う。
「いや、モンスターじゃない。人間なんだ」
「嘘おっしゃい!! お母さんは知ってるんだからね!! アンタ、女型のモンスターにエッチな格好させて配信してるんだってっ!! 一体では飽き足らず、二体も連れてきて……。死んだお父さんが知ったらなんて言うか……」
うっ……否定出来ない。
「お母さん。私は人間です」
マリナの声に母親が驚く。
「申し遅れました。橋本マリナといいます。師匠、タケシさんの弟子です」
「弟子……? なんの弟子だい?」
「ゴア配信です」
いや、ウチの母親にゴアとか言っても分からないよー。配信すらよく分かってないのに。
母親の額に汗が浮かぶ。
「ふ、ふーん。ゴア配信ねぇ。私も昔はよくやったもんだよ」
知ったかしたぁぁ!! めっちゃくちゃ分かりやすい知ったかぶりだぁぁぁ!!
「師匠は今、ゴア配信で最も勢いのあるお方です。私はそのサポートをする為に今日からこちらで寝泊まりさせて頂きたく。何せ、ゴア配信には様々な準備が必要ですし」
母親の額にあった汗が、いまや顎のところまできている。
「そ、そうだねぇ。ゴア配信は手がかかるからねぇ。マリナちゃん、しっかりタケシをサポートしてやってね」
「はい! お母さん!!」
なんとか乗り切った。
#
「師匠と同じ部屋がいいです!」
やはり言うと思った。その狂信的な瞳は、そうですよねぇ。
グミを見ると、「仕方ない」という表情をしている。
「ベッド一つしかないよ? グミは部屋の隅で体育座りで寝るけど、マリナはそういうわけにはいかないでしょ?」
「師匠と同じベッドで──」
「それは無理! 緊張して眠れないし! 視聴者からのヘイトが凄いことになるから!」
「大丈夫ですよー。流石に配信中に何もしないですし」
「そーいう問題じゃないの! 一緒のベッドで寝たりしたら翌朝にはTwitterで炎上するから! 暴露系インフルエンサーに切り抜き動画投稿されるから! "死ぬ死ぬマンが無理矢理メンバーに性行為を"ってなるの!」
「なら、私もグミ先輩と同じように床で寝ます」
「それはそれで問題なるから! とりあえず今日はベッドで寝て! おれはソファで寝るから! いいね!」
「はい……。ところで、お風呂配信はどうしますか?」
チラリ、グミを見る。もう「お風呂配信」という言葉を覚えているので、早速脱ぎ始めてしまった。
すまん。俺はチャンネル登録者が欲しい。
「グミと一緒に……お風呂配信お願いします……」
なんの照れもなく、マリナはメイド服を脱いでグミと風呂場へ向かう。
ふとスマホで【死ぬ死ぬマンチャンネル】を見ると、同時接続数が一万を超えているのだった。
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