第16話 見覚えのある女の子

 角野さん(石像)の検証配信の反響は凄まじかった。


 ステータス・スワップという前代未聞の効果もさることながら、攻撃力4000以上でコボルトを殴る絵のインパクトがやばかったらしい。


 爆散するコボルトのスローモーション動画がTwitterで出回り、何故か動物愛護団体から【死ぬ死ぬマンチャンネル】に抗議DMが殺到する騒ぎに。犬じゃないから! モンスターだからね!!


 そして、二日後。探索を進めようと、張り切って新宿ダンジョンへとやって来たのだが……入り口で既に足止めされていた。


 いや正確に伝えると、足元で土下座をされている。女の子に。


「あ、あの何事でしょう?」

「ウ、ウゥアァァアァァ?」


 グミと一緒に困惑し、土下座を続ける後頭部に向かって問いかける。


「顔を上げてもよろしいでしょうか?」


「勿論です」


「では──」


 えっ……。この女の子はゴア系アイドル配信者の……!?


「ご無沙汰しております。橋本マリナです」


 一体何事だ? 前会った時と態度が違いすぎる。それに取り巻きの撮影スタッフの姿も見えない。


「何故、橋本さんがここに?」


「先日の死ぬ死ぬマンさんの動画を拝見し、居ても立っても居られなくて昨日よりお待ちしておりました!」


「動画ってコボルトのやつですか?」


 マリナが瞳を輝かせる。


「そうです! あの素晴らしいゴア動画です! 私はあの血飛沫を見て雷に打たれたような感覚を覚えたのです!!」


 い、意味がわからねぇ……。


「よ、よかったですねぇ?」


「本当に最高でした!!」


 なんだろう。マリナの表情に狂信的なものを感じる。さっさと立ち去った方が良さそうだな。


「では、俺はダンジョンに行く──」


「お願いがあります!!」


 マリナがピシッと背筋を伸ばした。


「なんでしょう?」


「私を死ぬ死ぬマンさんの側に置いてください! 雑用でもなんでもやります! 仰せとあらば靴だって舐めます! なので、弟子にしてください!!」


 で、弟子……!? 何を言い出すんだ。この子は。


「橋本さんは人気アイドル配信者でしょ? そっちはいいんですか?」


「私のチャンネルは休止しました! 登録者にも説明してあります! 真のゴアを見つけたから、その方の元に向かうと。みんな応援してくれました!」


 馬鹿しかいねぇのか……。


「俺は別にゴア動画を撮りたいわけでは──」


「そこです! 意図せずあのような配信が行えるのは、ゴアの神に愛されているとしか思えません! 死ぬ死ぬマンさんが戦うところを側で見るだけでいいのです!」


 どうする……。新宿ダンジョンを攻略する上で、サポートメンバーは是非とも欲しい。実力のある探索者で配信にも理解があり、見た目はアイドル級。いや、アイドルだ。背の高いグミとは対照的に、こじんまりとして黒髪ツインテール。キャラも被らない。


 申し分ないのでは? しかし──。


「グミはどう思う? 一度殺されかけた相手と一緒に行動出来るか……?」


 見つめると、理性的な瞳をして考え込む。


「ウゥ!」


「いいのか? お風呂配信とかも二人でやってもらうかもしれないぞ?」


「ウゥウゥ!」


 グミはコクコク頷く。あまり気にしていないらしい。


 ならば断る理由はないな。


「橋本さん。いや、マリナ。お前を【死ぬ死ぬマンチャンネル】のメンバーに加える。一緒に頑張ろう」


「ありがとうございます!」


 ぴょんと立ち上がり、深く頭を下げる。


「では、早速ダンジョンだ。ウチは24時間配信でハードだぞ!」


「はい、師匠! 頑張ります!」


 というわけで、弟子が出来ました。

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