第4話 鉄道伯爵の街
トンダーリンはマーキス伯爵が治めるダラン地方の領都だ。このトンダーリン、元々は寂れた集落だったのだが、琥珀の産出が始まってからというもの鉱山都市として整備され、今や数千の人々が暮らす領都へと発展したとお父様が読んでいた書物には書いてあった。大通りに面して木材剥き出しの建物が数多く建ち並び、実際の目にすると聞いていた話よりも街は遥かに壮観だった。
「あれも、すごいです……!」
少し歩けばまた驚く。大通りの行きつく先に、赤茶色の建材で形造られた宮殿のような建物が見えたのだ。あれは、確か王都でよく用いられている
「あれは、
「分かりました」
アルルと一緒に
豪華に建てられた
そこへ、怪物がやってくる。
「これが……!」
「ええ、
けたたましい音を引き連れて、目の前にやって来た
「今見えてる先頭車両。あそこにドリュアスの心臓がある」
「本当ですか?」
「間違いない」
私たちの他にも聴衆は大勢おり、
「伯爵様―!」
「今日も素敵です!!」
モートン伯爵は向けられる声援に手を振って応えていた。彼のまるで自分がルブロン王かのような振る舞いに呆れてしまうが、熱狂の渦の中そう思っていたのは私とアルルだけだった。
「親愛なる領民諸君! 喜びたまえ!
「うぉおお!!!」
「わぁああ!!」
拍手、歓声。人々の熱狂が
「このままいけば、
伯爵の演説にも熱がこもってゆき、周囲の盛り上がりは止まることを知らない。
「
領民諸君らには、
だから、領民たちよ。もう少しだけ、私に力を貸してくれないだろうか。私が愛するこの地に、愛すべき人々に、あの幸せだった時代の栄光を──いや、かつてないほどの栄華を贈ろうではないか!!」
「伯爵様―! ありがとうございます!」
「いいぞー!!!」
「ダランの荒野を、空を、民を、私は愛している!!!」
割れんばかりの大喝采。伯爵を賞賛する拍手は止むことをしらなかった。
一言でいうなら、狂気。この場を支配する異常な空気に困惑せずにはいられない。
「何ですかこれ……?」
「伯爵が治めるこのダランはね、昔は琥珀の産出で莫大な富を得てたんだけど、最近はその産出量もめっきり減って、経済がかなり傾いているの。そんな危機に、伯爵は
「なるほど……」
街の荒廃感と、綺麗に整備された
しかしながら、モートン伯爵という人はあまり理解できなかった。私のお父様も領主であったが、そうやって領民を支配するということはしなかったから。同じ領地を預かる身であっても、所変わればやり方も変わるということだろう。
人々が演説の余韻に浸る間、伯爵の後ろで何やら大勢の人が忙しなく
「モートン伯爵、測定機材は全て列車から下ろしました」
「うむ、ご苦労であった」
「あと、お言葉ですが。
「言われなくとも、分かっている」
「では、今後もご協力をお願いしますよ」
伯爵は不機嫌そうに
「このあと
「一日の試験走行を終えると、列車は廃坑になった琥珀鉱山を整備した車輌基地に格納され、厳重な警備下に置かれてしまうの」
「それじゃあ、早く乗り込まないと……!」
「焦らないの」
アルルは私の口に人差し指を押し当ててきた。唇で感じる滑らかな指の感触にドキりとしてしまう。
「わざわざそんな無謀な危険を犯さなくてもいいように、別の計画をちゃんと考えてある。ジョゼにはそれに沿ってやってもらうから」
そう言うと、アルルはくるりと踵を返す。
「相手がどんなか分かったところで、そろそろ戻りましょう。時間も押してるから、急いで準備しなくちゃね」
私たちは足早に
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