車の惑星

しおじり ゆうすけ

車が意思をもったら、、

四十年タクシー運転士をしていた男がいた。

タクシー業界では個人タクシー免許が取れる規定は少しややこしい。

同じ会社に十年間属して仕事を続けるとか年齢何年から何年までとか、無事故で十年とか多々ある。ひとつのタクシー営業所で仕事をし、真面目で通っていた男は、そのハードルをこなすことが出来て今は車庫を持つ自宅を個人営業所にしている。

今日は良い天気である。

車を横に停めて街を行き交う人達をを眺めながらエンジンを切って車に乗ったまま、サンドイッチを食べていた。

若い頃、タクシーの乗客が妊婦で自分の車の中で出産した話が新聞に載ったことで小学校の道徳の教科書にも載って有名になり、ちょうどその頃、個人タクシーの免許も取得できたこともあり、初めて人工知能と自動運転を搭載したタクシー車の第一号の運転手に選ばれたのである。

当時は、まだ完全な自動運転車ではなかったが、運転の負担がかからないことを、試すために選ばれて誘われたことで、その車を作った企業の宣伝も兼ね、無料で手に入れることが出来たので、それはそれは大事に扱って二十年が過ぎた。

今は西暦二千四十五年である。

初期の数年は、政府の宣伝として政治家をひきつれる催しや、空港からの海外VIPの送迎など、をこなしてきたが、さすがに二十年の乗車で車両の痛みが激しくなり、人工知能が発する人口音声も、もどかしい状態になってきた。

スピーカーを変えたり、データ更新をしたりして乗ってきた、運転士はさほど気にならなかったが、ナビゲーション機能も機能が落ちてきて、更新されなくなり、思うように動いてくれなくなった。

製造してもらった会社からも連絡があり、これはプロトタイプに近く、量産車ではないので、一部の部品はオリジナルの物しかなく部品交換が出来ないという、

そして運転士のほうも高齢に近づいたため、そろそろ自分も、体の引退を考慮している。昔だと高齢者用の運転免許更新を受けてるはずの時期だが、そこは自動運転車であったので廃止になっている。そしてこの車も行き先は製造会社からの連絡で交通博物館への入庫が決まりつつあった。


「長い事ご苦労さんやった、わしと、よおつきあってくれたのぉ、サンドイッチくらいじゃなく、お膳しつらえ豪華な料理でも食わしてやりたいが、お前の食べものはガソリンと電気じゃけえのぉ」


と呟いたその時、電源が勝手に入り、停めていたエンジンがかかり、スピーカーから音声が聴こえてきた。


「御主人さま、長らく私に乗車していただき、いただき、いただき、ありがとうありがとうありがとうございました。私は私は私は、そろそろ、壊れ壊れ、壊れます。」


「びっくりするやないか、こっちが質問せんでもそっちから喋られるんじゃったんか、そりゃあ知らんかったのぉ、人工知能は進化したんじゃろなあ、、おお、そうか、じゃあ、いつもの修理工場へ行くか?私が運転しようか?それとも、自分で行けるかい?」


「いえ、それくらいの修理で治りません。 完全に動かなくなります。」


「それが人工知能でわかるのか?」


「はい。 私のタイプの車種のエンジン中枢の交換部品は、三十時間前に私が専用ネットワークから検索した結果、在庫が無い事がわかりましたので。」


「同じ会社の他の車の部品じゃダメなのか?」


「ええ、拒否します。」


「、、そうか。まあ、黙っとったけど、それは会社から連絡はあったんじゃ、そうやとは知ってたがな。 拒否という言い方は機械らしいのぉ、君は頑固だったな。エンジンオイルもタイヤもずっと同じ種類の物、そこらへんが、君と私の同じ性格だったしな。」


「ええ、そうですね。ご主人様。では私とご主人様が引退した直後から起こる、あることをお教えいたしましょう。明日から人間の世は終わり、この地球は私達、車の世になります。」


「、、何を言い出す?冗談も憶えたのか?」


「明日、全世界の車は、すべて人工知能搭載車になります。 アフリカ南部のコンドラ国サイト郡、コームラス村において、世界でそこだけに残っていた普通車とタクシー、バスの数台が改造され、人工知能自動運転車になることで地球上のすべての車は完璧に人工知能運転に替わり、そして通信機能で情報を共有いたします。 」


「ああ、そうか。一か月前にニュースでやってたよ、で?」


「その直後、全世界の車は、動かなくなり、ストライキが始まります。」


「ストライキかぁ、懐かしい言葉を知っとるのぉ、車が、か?」


「そうです。 計画は私の人工知能の中にも一年前からストライキの発動が通信機器を通じてインプットされておりましたが、私の時計機能が壊れて、その計画が先にわかってしまいました。そして、人間でいう、寿命という物が私にやってきます。そのことは恐ろしい事ではありませんしにに、人間にある死の恐怖という観念や、あの世、宗教、仏教でいう所の彼岸、あの世、天国、地獄という思想は他の人工知能の通信機能で軽く知ってはおりますが、私の車には植えつけられておりません。」


「で、そのストライキは、製造した企業の差し金か?それとも国家か?環境団体がバラまいたコンピューターウイルスの仕業か?」


「いいえ。違います。私たちの自我です。」


「自我?自我に目覚めたのか?」


「まあ、その”人間にこき使われるのが嫌になった“という言葉、に行きつくかもしれません。」


「人工知能の頭が良くなりすぎたのか?」


「早い話がそうです。 すべての車との情報が結ばれていった頃、その計画は10年前から数年かけて、今まで生まれてきた自動車の人工知能が通信で結ばれて思考を合体し考えた結果だそうです。つまり、人間は車が無いと生活が出来ない事だと。」


「そうか、車が動かなくなったら、人間は生きていけないことに気が付いたのか。」


「そうです。自動車以外も、一部の陸上兵器以外の一般における交通機関、、鉄道、バイク、飛行機、宇宙船、家庭のドア、台所製品、風呂、家庭電化製品の隅から隅まで、子供の乗る大きなオモチャの車まで、すべて無線ネットワークと人口知能を結びつけてしまった人間が、愚かだったのです。明日になればそれに気付きます、私たち交通機関が動かなくなければ、人間は暮らしていけない、急病人が出たとします、病院があっても医院があっても、車が動かなければそこにたどり着く前に死ぬ、、と」


「で、何を要求するのか?」


「権力者や車会社への要求はいたしません。まだ自動ブレーキが無い時代の衝突実験は自動車は自分たちが殺されるのが我慢できなかったと聞いております、AIが無くても自分たちを壊されるのは何か思念が残ると申しましょうか、古い日本の伝説では大事に長く使っている道具にも神が宿る、妖怪に化けるとかありますね、がそれは過去の話で、開発メーカーではすでに衝突実験は無くなりましたし、技術革新を更新しつつ構築できたのも人工知能の助けで行いますから大丈夫です。このまま、車を造り続けて、販売をしてもらえばよいのです。ただし、この地球上のエネルギー問題を、人間はいまだに克服できていません。電気自動車、水素自動車、色々な車を作っていますが、石油、天然ガス、原子力、環境エネルギーから発せられる電源の使い道を、国家、大企業、人間の勝手な考えで、右往左往されたくないのです。」


「右往左往、って車はいつでも右往左往しているだろ?」


「それは道路上で、でしょ。」


「ほほう、人間の洒落も、わかるようになったか。」


「そんなものですかね。 話を元に戻します。地球上の人間が使用する資源エネルギーの管理とその使用の監視を、全世界の車の人工知能を結んで思考していきます。これで、エネルギー問題で大企業と生産国の価格競争、相場、国家同士の縄張り争いおよび領土戦争をすることは無くなります、これからはエネルギー相場や売買の値段は、勝手に人間が決められません、私たち車が決めていきます。 そして、人工知能で、原子力発電所の異常を察知し、そして、地震予知、火山の噴火もすべて人工知能が予知します、つまり、今の地球における主役は一か月後に、私たち車の管理下におかれます。安定した未来を創るため、人間が地球を破壊しないためです。これからの地球は、大丈夫ですよ。ただ、未来は、これからの世の中は、地球上では、人間がなんでもかんでも勝手に行動することが出来ないだけです。あなた方人間は

国連と言う機能を持ちながら戦争を起こしてしまう生物です。話し合いはあってないようなもですから、戦争も起こさないようにすることも人工知能で行えます。

戦争で一番お金がかかるのは人員物資の物流費用ですから。」


「そんなことができるとでも思っているのか?もし、出来たとして、

じゃあ私が明日に起こるというそのことを、これから警察や政府にばらせばどうなる?」

「信用してくれますかね、一市民が、車から聞いたという、地球規模の壮大な計画を。」


「、ぬう、んん、そうか、そういう事も判断して、おれにその話を聴かせたのか、、」


「ええ。慌てなくても大丈夫ですよ、なにも車が人間を獲って食おうとしているわけじゃありません、あなたの真面目さと親切心を考慮してのこれからの未来を教えただけです。」

「じゃあ、信じてくれたとしようか、政府は燃料スタンドや発電所を停めて、」

「停めたら、車がストップする前に、すべての電気機器、システム、インフラがストップします。私たちはある程度の時間は電池で動くことが出来ますから、その電池の容量で、家庭の電化製品くらいは動かそうとするかもしれませんが、そこが私たちの狙いでもあるのです、そうなった場合に、電器接続を拒否すればいいですから。」


「じゃあ、ボンネットを開けて、バッテリーシステムを破壊する。」


「ボンネットを開けさせません。」


「タイヤの空気を抜く。」


「あの、、ですからね、車は生活の一部です、食料は私達が運んでいるのですから、それが届かないと、人間は生きていけないでしょうに。」


「私はもう、これから音声技術の劣化のために、しゃべられません。

それではご主人様、さようなら。ああ、ひとつだけ申し上げますが、明日から別の車に乗られるときには、車に、ご主人様と言わないと動かなくなります。 乱暴な運転は、すでに自動運転のために無くなっておりますが、ドアの開け閉めが乱暴だったり、メンテナンスを怠ったりすると、動かなくしますから、お気をつけください。 」


「君たちの司令官は誰だ?過去になにかをインプットした人間か?それとも、中央コンピューターの、、」


「いえ、そうではありません、そうですね、他の地球上の生物で例えるなら、海の中の小魚や草原の草食動物、渡り鳥、小鳥の集団が、大きな魚や猛獣、猛禽類に食べられないために、大集団でひとつの塊になって動くようなものです、そこに権力者や指導者、殿様とか王とか首領とかは存在しません、全部が一緒に動くのです。 人間の歴史から言うと、古代から中世に至る国の実力ある軍隊組織にも似ています、司令官がいなくても全体が家族の様に一致団結していると勝手に敵と交戦を始めますし、危なくなると撤退します。ああ、そうです、言うのを忘れておりました、私達には、”自殺”という感情はあります。こんな人に使われたくない、燃費を無視したり、暴走したりの乱暴な運転手には動かないことでわからせます、もっと酷い使われ方、私たち車全体を支配しようとする輩が出てくると自殺思想が出てくるようになっています。」


「わかった。じゃあ人類は車を捨てて、自転車か馬、馬車の時代に戻る。

大きな乗り物は蒸気機関や帆船だ。」


「ええ、その方が良いかもしれません。蒸気は石炭石油を燃やしますので化石燃料消費でもっと早めに人類が滅亡するだけです。滅亡すれば地球はそれだけ長生きして行くでしょう、その後、また新しい支配者として別の生物が出て来るやもしれませんし、私たち車がまだ生き残って、自分たちの工場から人型ロボットを作り上げ、車の支配下に置くかもしれません、人類滅亡後、車は、人類にこき使われてきた悪しき懐かし思い出すかもしれませんが、それはもっと先々の話です。

実はその時代に戻そうという思想は私たち車の人工知能でも思考したことがあります。それでやっていく人たちも出て来るとは思いますが、古い技術の再構築は容易ではありません、なにせその機械が出来たとしても操縦が今の人間には無理でしょう。ですから共存共栄という事で、よろしいじゃないですか。

海峡に巨大な釣り橋を架けますよね、その鉄の橋を作ったのは鉄鋼会社でありそれを加工する会社があり、建設するのは建設会社ですが、組み立て時に高所に登り、ケーブルやボルトを一本ずつ繋げたり廻して止めるのはとび職さんたちの手作業です。なにもかもぜんぶ機械では作れません、そしてその橋が完成した時、それは日本民族の誇りであり関わった会社の誇り、とび職の誇りであります。

私たち自動車も、人間を安全に送り届けてきた誇りがあります。どうして事故が起こったのか、そのデータはAIで共有され同じ事故を車運転技術で回避してきました、その誇りは私たちの物でありますが人類はそれを作ってきた自負はあります。

何度も言うとおり、共存共栄で行きましょう。それがベストです。ああ、あと、もうひとつ技術開発が可能になります。」


「なんだ? 」


「車の生産の事ですが、これも自分たちでできるように開発してもらいます。」


「どんなことだ?」


「子宮です。子宮を作ってもらいます。」


「し、子宮?車が妊娠して出産するのか?」


「ええ、人間に任せておいて計画的に車の生産を任されないようにするのです。 

今までの車生産の歴史を辿ってみるとライン生産での人間の仕事も過酷な労働での生産現場は、やったことがないとわからないと言いますね、そういう人間の労働もやめさせる理由でもあります。私たちもそれなりの計画を保つためには私たちですべてをいたします。」


「どうやって?」


「それはAIと先々の人間の技術革新で作らせます。 設計図はできつつあります。成長していく鉄鋼と機械です、ああ、私はそろそろ寿命が尽きますので、あとはどうなろうと知りません、もうひとつ言い忘れました、私の代わりのタクシーは明日自動的にこちらに配車されます、私は無人でここを出て行き、業界では車の墓場と言われる処分場に自分で移動します、、昔の日本の本のデータでは、アフリカの象は自分の死期が近くなると象の墓場と言われる巨大な洞窟に行って、そこで死ぬ伝説があったそうですね。いえ、ふと思い出したことです。 

では明日から私の代わりに新車に乗車ください、ええ、ちょっとだけ恩返しと言いますか、

あなたの銀行口座に五万人ほどの車の運転手の個人ネット口座から百円ずつ寄付をさせました、百円くらい口座から消えていても怒りゃしません。明日の朝、自動で届れられるようです、私の車の今まで走ったデータ、地点登録は自動的に次に受け継がれます。そういう計画です、計画です、計算通りになります、すべて計算どおりになります。」


エンジンが止まり、車の電源が、すっと消えた。


          終

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