んさ娘
「ここが娘の病室です」
「案内ありがとう」
夢さんはそう言うと、ドアをノックした。
「失礼する」
本当に眠っている。中学生くらいだろうか。幼さの残る横顔は、少し先生に似ている気がした。
夢さんは大股でその子が寝ているベッドに近づいていった。
「やはり、怪異の仕業だな」
「怪異、ですか?」
「どういうことっすか?」
先生と翔も疑問に思ったらしい。それはそうだ、かいいってあの
でも、夢さんが言うと本当にそうなのではないかという気さえしてくる。
「うむ、一度は耳にしたことがあるだろう。物の怪や妖怪などの事だよ。怪異が娘さんに入り込んでいるようだ。これもそう言っている」
そういうと、夢さんは何も無い空間を指さした。すると、見る見るうちに猫が浮かび上がった。猫?の顔かたちをしているけれどしっぽが2つある。
「これは私の相棒でね、猫又という怪異だよ。名前で呼んでやってくれ。にゃあこという名前だ」
にゃあこ……夢さんがつけたのか?言っていいのか分からないけど、似合わない。
「今似合わないと思ったかい?」
「「えっ」」
翔と僕の声が重なった。なんだよ翔もそう思ってたのか。
「よく言われるんだ。怒ってないから気にするな」
夢さんは苦笑しながらそう言った。なんだ、良かったぁ。夢さんがつけたとは考えられない名前だもんな。
にゃあこは僕たちを少し睨みつけていた。怖っ、猫ちゃんの方が自分の名前気に入ってるのか。ごめんよ。
「にゃあこ、怒るな。いつもの事だろう?」
夢さんがにゃあこの顎を撫でると、にゃあこはゴロゴロと喉を鳴らして夢さんの手に顔を擦り付けていた。
「さて、ではこの怪異を追い出そうか」
「どうやって追い出すんですか?」
「それは私も気になりますね」
僕の質問に安藤先生が同意した。翔もこっちを見て頷いているから、気になっているのは同じみたいだ。
「にゃあこに怪異を吸ってもらうのさ」
「吸う!?」
「あぁ、にゃあこも怪異だからな。害は無いらしい」
なんて物理的手段なんだ。いや、でもそれが一番確実なのか?僕には怪異のことは分からないからなんとも言えない気持ちになる。
「さあ、にゃあこ吸ってくれるな?」
「にゃあ」
にゃあこが返事をすると、金色の目が光って尻尾が真上に伸びた。それから先生の娘さんからにゃあこの尻尾へ黒い線が伸びて、尻尾の上で渦巻き状になった。
渦巻きは球体になった後、にゃあこの中へ吸収されていった。
「すご……」
翔がぼそっと呟いた。僕と先生は何も言えなかった。今この空間で、何が起こったのか理解が出来なかったのだ。普通に暮らしていては到底見ることの出来ないものだった。
ゆめみや 藤川 成文 @cater
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