たま

 昨日はなんだか幸せな夢を見たなぁ。お母さんとお父さんとピクニックに行く夢だった。今日は一日中そのことを考えてぼーっとしちゃった。授業もなんだかぼんやり聞いてしまったし、お父さんに怒られちゃうからちゃんと勉強しなきゃね。

 さて、ホームルームも終わったし家に帰りますか。今日は肉じゃがだっておばあちゃん言ってたし、早く帰らなきゃ。


 「なあ、康介~、鈴~今日の帰りもどっかいかね?」

 「え、翔今日の部活は?」

 「それがまた休みらしいんだよなぁ」

 「まじで?でも今日も僕早く帰らなきゃなんだよな。明日は?」

 「明日か~、じゃあ俺も今日は帰ろうかな」

 「俺は部活あるからそっち行くね」

 「うん!鈴頑張って」

 「ありがと!じゃあね!また明日っ」


 「さてと、じゃあ帰ろっか翔」

 「おう」


 翔と僕はいつもの道を歩いていた。すると、またレンガ造りの道が出てきた。え、なんでだ。僕は昨日、夢さんから夢を見せてもらったはずなのに……。しかも今日は翔もいるじゃんか!


 「あれ?康介、俺たちこんな道歩いてたか?」

 

 やっぱり、翔も不思議がってるし。どうしよう。もしかしたら、翔に見たい夢か見たくない夢があるんじゃないか?そしたら納得がいく。このまま翔もゆめみやに連れていくか。そうしないとどっちみち帰れないし。


 「とりあえずこのまま歩いてみよう。僕この道知ってるんだ」

 「え、そうなのか?じゃあこのまま行くか。道案内頼んだぞ」

 「うん、任せて」


 言ったとおりにまっすぐ道を進む。ゆめみやまでは一本道だったはずだから大丈夫だろう。見えてきた、木製のドアに白い壁のお店。ゆめみやだ。

 

 「翔、行き止まりみたいだしこのお店入ろっか」

 「康介、お前ここに来たことある?」


 やっぱり翔はするどいな。いつもはふざけてるし馬鹿っぽい言動が多いけど、実はするどいところがある。


 「実はそうなんだ。昨日もここに寄ってた」

 「なるほどなぁ、なんだよお目当ての子でもいるのか?」

 「いっ、違うよ!そういうのじゃないんだ」

 「恥ずかしがることはないぜ。俺たちの仲じゃねーか」


 本当に違うんだけどな。鋭いような鈍いような……。目当ての人と言えばそうだけど、恋愛的なあれではない。


 カランッ


 「なんだい君たち、ドアの前にいるんじゃなくて中に入りたまえ。あれっ君は……」


 ドアについたベルの音がして、中から夢さんが出てきた。


 「あの、また辿り着いてしまったみたいで……」

 「ふむ、珍しいな。まあ入るといい。温かいものでも入れてあげよう」

 

 翔と僕は促されるままドアをくぐった。


 「おい、あの綺麗なお姉さん誰だよ」

 「このお店の店主だよ。夢さんっていうんだ」

 「ふーん、あれだけ綺麗なら通うワケも分かるな」

 「だからそういうのじゃないって」

 「そういうことにしとくよ」


 「君たち、ここに座っていたまえ。そっちの少年はコーヒーか紅茶どっちがいい?」

 「俺はコーヒーのブラックでお願いします。」

「了解、康介くんは紅茶のミルクありでいいかな」

「はい!お願いします」


 夢さんは僕の飲むものを完全に覚えたらしい。嬉しいと言えば嬉しい。こんな綺麗な人に覚えてもらえるんなら何回でも来ていいかも。別に恋愛的なあれこれはない。


 僕たちはそれぞれのお供を飲みながら話していた。


「うーん、2度も来てしまうのはなかなか居ないんだが、どうしてだろうか」

「見る夢が違ったとかでしょうか?」

「じゃあ少年は何か心当たりがありそうか?」

「ないですね……」

「ちょ、ちょっと待って!さっきから話してるけど夢って何?寝る時に見るやつのこと?」

「そうだね」

 

「そうだが、あぁそうか君には話してなかったね。ここはゆめみやと言うんだ。見たい夢を見せて、見たくない夢を取り除くことができるお店だよ」


「え、怪しいお店ってこと?……ですか?」


「そういったお店ではないね。本当に言葉の通りなんだ」


 翔は混乱してるみたいだ。そりゃそうだよな、僕も最初聞いた時は嘘をつかれてると思ってた。


「分かった。とりあえず信じることにする。康介も嘘ついてるような感じじゃないしな」


「そう言ってもらえると有難い。少年もいてよかった。そこでだ、どうして康介少年が2度も来てしまったかだが、心当たりはあるかい?そちらの少年に見たい夢があるとかかな?ところで、私は夢見というのだが少年の名は何かな?」


「俺は、佐藤翔って言います!よろしくお願いします!」


「うん、元気でよろしい」


 夢さんは満足気にうなづいた。夢さんの中では元気さが大切らしい。僕の時にも言ってた気がする。


「翔少年は見たい夢や見たくない夢はあるかい?」

 

「うーん、俺には無いと思い……ます。サッカーのことしか考えてないし。いつも夢なんか見ないっすもん」


「なるほど。厳密に言えば夢は誰でも見ているんだが、覚えていないほど熟睡しているという事だな。良い事だ」


「え、そうなんすか!?俺、夢を見ないものだとばかり……」


 僕も驚きだ。今日は夢を見なかったからよく寝れたなんて考える日があったのに。

 

 

 

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