うゆり

 僕がゆめみやに辿り着いた理由……か。なんだろう。


 あれから僕は家に帰ることが出来た。夢さんの美味しい紅茶を飲んだあと、ドアから出るといつもの道に戻っていた。夢さんからは課題として「どうしてゆめみやに辿り着いたのか考えることだな」と言われた。


 僕も知りたいくらいだ。今でもあれは夢だったのではないかと思っている。しかし、記憶力の良い僕の頭は昨日のことを鮮明に覚えていた。手土産まで持たされて覚えてないという方がおかしい。昨日、おばあちゃんたちと一緒に美味しく頂いた。あのクッキーどこのだろうか。今度行った時にでも聞いてみよう。


「康介〜おはよう!」

「翔、おはよう。朝から元気だなぁ。朝練はどうしたの?」

「今日はアンドゥー先生が参加出来ないとかで無し!になったんだよ。ラッキーだよな」

「そうだったんだ、よかったじゃん!」

「おう」


  翔と一緒に登校するのは中学以来だろうか。こうして話すとやっぱり安心する。一番話しやすいのは翔だと再認識した。


「おはよーっす」

「おはよう。翔、康介」

「おはようりん


 こいつは一ノ瀬鈴。鈴とはこの高校で知り合った。番号が近かったから友達になっただけなのだが、趣味が合うからこうやって仲良くしている。こういうの単純接触効果っていうらしい。


「翔と康ちゃんが一緒に来るの珍しいね」

「あぁ、今日は翔の朝練がなかったんだよ」

「なるほどね、理解した」


ガラガラガラ

「おはよう!今日も元気かー!朝のホームルーム始めるぞー」

 教室のドアが開いて担任の小林先生が入ってきた。小林先生は大体元気にあいさつをして入ってくる。元気がない時は推しのアイドルに何かあった時らしい。翔から聞いた話だから本当かどうか分からないけど。とりあえず、今日は大丈夫らしい。


 先生が話し終わって朝のホームルームが終わった。今日は1限から体育だから着替えないとな。


「翔、鈴!着替えた?」

「聞いてよ康ちゃん!翔ったら体操服学ランの中に着てたんだよ!ずるくない?」

「いつもの事だからなぁ」

「康ちゃんまで……もう、分かったよ!次から俺もそうするんだから」

「真似するなよな」

「康ちゃん〜!翔がいじめる!」

「はははっ、やめなよ翔」

「しょうがねーなぁー」


 学校は有難いことに、この2人のおかげで楽しい。翔とは昔からの仲だけど、鈴とも出会えてよかった。翔ばっかりと仲良くしてたらそのうち友達居なくなっちゃうかもしれないしな。

 前、そんな話を翔にしたら「いつまでも一緒にいればよくね?」って言ってた。別々の大学に入る可能性だってあるし、大人になったらそうはいかないだろ。おかしなやつって思った。



「それじゃあ、帰りのホームルームやるぞー!今日のお知らせは無し!明日もちゃんと起きて学校に来るようにな。おしまい!さようなら〜」


「「さようなら〜」」

「先生ばいばい!」

「はーい、ばいばい」

部活がある人達が急いで走っていった。


「なあ、帰りハンバーガー食べてかね?」

「あれ?翔、部活は?」

「なんか今日1日無しらしい。珍しいよなーあのアンドゥーが」

「そうなんだ、何かあったのかな?でも僕用事があって……鈴は?」

「俺なら行けるよ!康ちゃんいないのは寂しいけどね。康ちゃんまた行こ!」

「じゃあしょうがねえから鈴と行くか。じゃあな康介」

「しょうがないとはなんだよ〜!」


 ははっ、また言い合ってる。なんだかんだ言って仲良いんだよな。

 さてと、僕は夢さんのとこに行かないとね。どうして夢さんのところに辿り着いたのか分かった気がするし。


 学校を出て、10分ほど歩いた頃、またあの街並みになってきた。そのまま進んでいくと喫茶店風のお店が見えてきた。


「やみめゆ、間違いないな。よしっ、お邪魔しまーす」

「お、来たか少年。さぁさぁ座りたまえ」

「はい、ありがとうこざいます」

「今日も紅茶でいいかい?」

「はい!お願いします」

「ミルクありだったね?」


 僕はコクンと頷いた。夢さんは微笑むと颯爽と奥に入っていった。今日もあの紅茶のいい香りがする。2日連続で美味しい紅茶を飲めるなんて嬉しいなあ。


「さあ、おまたせ」

「ありがとうこざいます!あ、そういえば、クッキーありがとうこざいました」

「あぁ、あれも取り寄せたんだ。どう?美味しかったかい?」

「すっごく美味しかったです!あれもお取り寄せなんですね……また食べたいくらい美味しかったです」

「じゃあ食べるといい。たくさんあるんだ」

「え!いいんですか!?」

「いいとも。1人じゃ食べきれなくてね、逆に食べてもらいたいくらいなんだ。どうぞ」

「わあぁ、ありがとうこざいます!いただきます!」

「ふふっ、若者は元気が一番だな」


 やっぱり美味しいなぁこのクッキー。昔おばあちゃんが焼いてくれたものに似てる。この手作り感、市販のもので出せるのはすごい。

 クッキーが半分になってきた頃、いよいよ切り出してみた。


「あの、今日はここに辿り着いた理由がわかって……」

「ほう、良かったじゃないか。それで、何だったんだい?」

 

 僕は、1度深呼吸をして話し出した。

 

「きっと、お母さんのことなのかなと思いました。僕、小さい頃に母親を無くしていて、僕の中では消化できたつもりでも、ずっとお母さんの顔もう一度見たいと思っていました。」

 

「なるほど、やはり奥深くに根づいたものは拭い去ることは出来ないんだ。その理由は当たっているかもしれないな」

 

「そうですよね、それで、僕はどうすれば良いでしょうか?」


「うん、君のお母さんの顔や雰囲気を思い出すことは出来るかい?そしたら、私が君に見せる夢をこの玉に込めるんだ」

「はい、やってみます」


 お母さんの顔……ぼんやりとだけど覚えている。優しくて可愛らしい人だった。虫が苦手で、僕が捕まえたバッタとかを持っていくと「すごいじゃない!」と言いながら微妙な笑顔で褒めてくれたっけ。あの時は虫が苦手って気づかなかったんだよな。ごめんねお母さん。


「うん!大丈夫だ。この玉を夜寝る前に飲むんだ。おすすめは紅茶などに溶かして飲むことだな」


 夢さんは青色のキラキラと光る玉を、袋に入れて渡してくれた。

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