2やみめゆ

カランコロン

 ドアについた鈴の音が鳴った。喫茶店だろうか、木製のドアに金色の鈴が可愛らしい雰囲気をつくっている。参ったな。お金そんなに持ってきてないや。学校からすぐ家に帰るからあまりお金を持ち歩かないようにしているのだ。たまに翔とご飯を食べたりカラオケに行ったりするから少しは持ってるけど、喫茶店って2000円あったら足りるよな。でもここ高級そうだし大丈夫じゃないかも……。


「やあ、いらっしゃい」

 声をかけてくれたのはお店の奥に座っている女の人だった。あの人が店主だろうか。どちらかというとお客さんのような格好だけど。まあ、違ってもいいや。ここが喫茶店なのかとお金が足りるかだけ聞こう。足りなかったら申し訳ないけど帰らせてもらおう。


「あの、」

「見たい夢はなんだい?」

「え?」

 なんて言った?見たい夢?え?僕変な店に来ちゃったみたいだ。ごめんおばあちゃん、やっぱりいつもの道に引き返すべきだった。危ない道には理由があったんだね。今からでも遅くない。走って帰ろう。


「あぁ、説明が先だったね。まあ待ちたまえ」

 そういうと女の人は僕の左腕を掴んだ。あ、左利きなんだなんて考えるくらいには落ち着いていた。いや、落ち着いているというより諦めに近い感情だった。


「は、はい。僕そんなにお金持ってなくて、間違えちゃって」

「ははっ、大丈夫だよ。そんなに焦ることはない。ここは、ゆめみやというんだ、表の看板は見たかい?」

 からっと笑う人だなと思った。端正な顔立ちには似つかない筋肉を使った笑顔だった。八重歯がちらついて、少し肉食獣のようだと感じた。

 

「ごめんなさい、見てないです……喫茶店か何かだと思っていました」

「いや、いいんだ。ちゃんと見てくる人間の方が少ないからね。温かいものでもいれてこよう。コーヒーか紅茶、どちらがいい?」

「紅茶、でお願いします」

「了解、砂糖とミルクは?」

「ミルクだけお願いします」

「私と同じだね、ミルク」

 今度はは顔に似合ったきれいなウインクをしてくれた。僕が緊張してるからとかそうとしてくれてるのかもしれない。あの顔でウインクされるとドキッとしてしまう。危険だからだれかれ構わずやるのはやめた方がいいと思う。


「じゃあちょっと待っていたまえ。よいしょっと」

 おばあちゃんみたいなことをいう人だな。


「え?」

「ん?どうしたんだい?」

「いえ、なんでもないです」

「そうか」

 そういって女の人は紅茶を継ぎにカウンターの奥へ入っていった。びっくりした、めちゃくちゃ背高いじゃんか。僕なんて165㎝しかないのに、あの人それ以上あった。まあ、僕は成長途中だからそのうちあれくらい大きくなるよな。


 そんなことを考えていると、お盆を持って戻ってきた。あ、あの形うちのおばあちゃんちにもあるやつだ。取っ手が付いてて使いやすいんだよな。


「さあ、お待たせ。熱いから気を付けて飲むんだぞ」

「はい、ありがとうございます!」


「ところで、自己紹介がまだだったな。私は夢見という。夢さんとでも呼んでくれ」

「分かりました、夢さんですね。僕の名前は一野康介です。よろしくお願いします」


 答えながら紅茶を飲むと爽やかな香りが鼻をくすぐった。


「これ、美味しいです。ありがとうございます」

「ふふっ、そうだろうそうだろう。取り寄せてるんだよ」

僕は頷きながらカップに口をつけた。うん、取り寄せるだけある。喫茶店ではなかったけどこんなに美味しい紅茶をいただけるなんて。


「ところで、ゆめみや?っていうのは何ですか?」

僕は思い切って聞いてみた。このまま待っていてもしょうがないし。

「あぁ、言ってなかったな。君が緊張していたからね。」


 またウインクしながらそう言った。この人ウインクが癖みたいだ。あと、僕のこと茶化してくる。ちょっと頬が熱くなった。少し驚いただけだ。すぐにこの熱はさめるだろう。


「すまないね。可愛いからからかいたくなった。ここはゆめみや、見たい夢を見せて見たくない夢を取り去るお店さ。料金は私の気分次第なんだ」


「そんな魔法みたいな話……」


「それがあるんだな。驚くだろう?最初はみんなそんな感じさ。でもねこの店に来られるのは夢を見たがっているか消し去りたい人間だけなんだよ。君もここへ辿り着いた理由があるんじゃないか?」

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