第6話 本当に残酷なものとは!?
俺は、………喰われている。―――生きたまま、俺は喰われている。
ムシャ、ムシャ、ムシャ………
………ゾンビか?………屍食鬼か?
なんて、残酷なことをするんだ。
自分の子供を見るまでは、絶対に死にたくはない。
咄嗟に俺は、感覚のない両腕を見た。
そして俺は血の気を失った。
案の定、俺の両腕は、肘から先が見あたらなかった。
こいつに、食べられてしまったのだろうか。
「ちくしょう!」
俺の両肩を支えているというよりも、固定して俺を喰いむさぼっている相手の足元を見て、俺は大きな悲鳴を上げかけた。
俺を喰っている相手も、俺と同じ全裸であった。
一糸纏わぬその体には、どこか見覚えがあった。
そして、そのでっぷりとした下腹にも、………な、なんだって!
ムシャ………
俺は、慌てて顔を上げた。
目の前には、俺のいとしい女の顔があった。
ぼやけてはいるが、その輪郭で俺は確信した。
痩せていて、顎が尖り、黒く丸い目をして、えらの張った輪郭は、間違いなく俺の愛した女の顔であった。
そしてこのいとしい匂いも……。
俺は声を出そうとした。あらん限りの声を。―――しかし言葉にならなかった。
ムシャ、ムシャ………
目のピントが僅かに合った。
俺は今、彼女の口の中で噛み砕かれているものを見て愕然とした。
目の前が暗くなり、気を失い掛けたが、何とか持ちこたえた。
ムシャ、ムシャ、ムシャ………
その、口の中で咬み砕かれているものは、紛れもなく俺の頭だった。
彼女は、俺の脳ミソのたっぷり詰まった頭にかじりついて喰っている。
「ま、まさか、そんな」
俺は信じられなかった。あんなに優しかった彼女が、こんなにも残酷な女だったとは。
いったい何が彼女を変えてしまったのか?………心は中で呟いた。
俺は大声を上げて泣きたかった。俺の子を宿した女が、父親である自分を生きたまま喰っているのだ。
ムシャ………
俺の頬に冷たい液体が流れた。―――それはゾンビと化した彼女の唾液なのか、俺の頭から流れている真っ赤な鮮血なのか。………真っ赤な!?
俺は、もう一度下を見た。………………!
俺は、自分の緑色の体を見て、忘れていた大事なことを思い出した。
―――俺が何者であるのかを。
そして彼女が、ゾンビではないことを確信して、ほっとした。
と、その瞬間、他の視線を感じて、俺は顔を上げた。
「ゲッ!」
憲竹は、
オスの足が痙攣をおこし、小刻みに震えている。
ガシャーン。
孝明は、あまりのむごたらしさに、大きな石を蟷螂の上から落とした。
これ以上、共食いのシーンを見てはいられなかった。
二匹の蟷螂は、石に潰されて、緑色の体液を飛び散らせた。
「……残酷やなぁ」憲竹と孝明の声が重なった。
ぐちょべちょラ!? ―――おわりです。
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