第2話 注目の的

 かっこいい転校生くんは、当たり前だけどすぐに話題の中心になった。

 特に昼休みなんか、質問の波、波、波。


「どこの学校から来たの?」

「フロラくんってすごい名前だね!! 外国の人なの?」

「目が緑できれいだもんね~!」

「趣味とかある?」

「好きな女の子とかいる?」


 なんて、早速のチャレンジャーも。

 ……そしてなぜか、注目を浴びていたのはフロラくんだけじゃなかった。


「ねぇ。フロラくんとどういう関係?」

「みどりちゃんにこんなかっこいい知り合いがいるなんて知らなかった~!」

「フロラくんについて知ってること、教えてよ」


 や、やめてくれ……! どうして私まで!

 クラスの女子は、五割がフロラくんへ。二割の子は興味ナシ。そして残りの三割は、なぜか私の方へ集まっていた。

 きっとフロラくんの「私のそばにいると安心です」発言のせい。

 そりゃあ私だってびっくりだわ。今日初対面なのに、そんなこと言われて!


「ど、どういう関係って、その……私は何も知らない……」

「ウソ~~!!」

「だって知り合いなんでしょ?」


 うぅ、人を前にすると声がうまく出ないよ。知らない、初対面ですって言いたいのに。放っておいてって言いたいのに。っていうか、昨日まで全然私のことなんて興味なかった人たちがこうして集まってくるの、正直怖い。

 いきなり知らない異世界に転移して、謎の民族に絡まれた気分だよ。

 じっとうつむいてしまうと、女の子たちの声はやんやと大きくなっていった。


「こらこら、みんな囲まないのぉ」


 すると、あま~い声が頭から降り注いだ。

 こ、この声は……。

 私は顔を上げずに、視線だけをそっと上に持ち上げる。やっぱり。ふわふわの天然パーマに、周りの女の子たちよりお高そうな服を身にまとっている女の子。


「蜜ちゃん……」

「そんなに話しかけちゃうとぉ、みどりちゃん困っちゃうでしょ? ねっ」


 周りのみんなは唖然として。でも女王様の登場に黙り込んでしまった。

 さ、さすがだ。蜜ちゃんはオシャレさんでクラスのリーダー。ワガママ女王様って言うよりかは、カリスマ女王様なんだよね。道を通ればみんなが道を開けるし、一声「静かに」って言えばしぃんとなる。それくらいすごい女の子で、私とは正反対。

 そしてもちろん、昨日まで私のことなんて目も留めなかった人の一人だ。


「私が代表して聞いてあげるっ。ねぇみどりちゃん、みんなフロラくんのこと知りたいだけなんだぁ。だから色々教えて?」

「そんなこと言われても……」


 うぅ、頭が良い。みんなのためって言ってるけど、結局自分もそれが聞きたいだけなんだ。私、何も知らないのに。

 私が黙っていると、蜜ちゃんは真ん丸な瞳を一瞬光らせた。


「……みどりちゃん。黙ってたらわかんないよ」

「……だって」

「あ、わかったぁ! みどりちゃん、フロラくんを独り占めしたいんだね!」

「えっ!?!?」

「フロラくんかっこいいもんね! でもぉ、それってズルくない?」


 蜜ちゃん、ちょっとギロリ。女の子たち、そうだそうだの大合唱!

 そんなんじゃないのに! もう、どうしてこうなっちゃのよ。私の穏やかな日常を返してよ。イケメンだか何だか知らないけど、恨むからね。フロラくん。

 そう思いながら、隣に座っているフロラくんに目をやって……思わず、体が固まった。

 だってフロラくん、私のこと見てたから。


「ねぇ、みどりを困らせるのはやめてくれないかな」


 そうして口を開くと、そんな言葉が飛び出した。静かな言葉だった。でも、どこか怒っていた。それが分かったのは、穏やかな緑色の瞳が鋭く光っていたから。

 女の子たち、蜜ちゃんも私も、驚いて目を見開く。

 ……って、呼び捨て!?


「みどりにそんな寄ってたかって攻めるみいに……。話しかけるなら、ぼくにしてよ」

「せ、攻めてなんかないのよフロラくん!」


 慌てるみたいに言った蜜ちゃん。どうやら怒っているらしいフロラくんに気づいたみたいだ。


「でもみどりちゃん、何も言わないから……」

「みどりは何も言わなくていいんだ。だって僕の個人情報を守ってくれようとしてくれてるんだから」


 いや、本当に何も知らなかっただけなんですけど。


「それならそうと、そう言ってくれれば良いじゃない!!」

「みどりは人と話すのが苦手なんだ。そうやって一気に色んなことを聞かれたら、そう言えないのは当然だよ」

「やけにみどりちゃんの肩を持つのね!?」


 フロラくんの言い分に、蜜ちゃんもいらだってきたみたいだった。ちょ、ちょっと。ケンカはやめてよ……。

 キッと眉を吊り上げた女王様は、声高々に言ってのけた。


「もしかしてみどりちゃんとコイビト、なのかしら!?」

「こっこいびと!?!?」

「違うよ」


 怒る蜜ちゃんに焦る私。ただ一人、冷静なフロラくんは首を横に振った。

 良かった。そこは否定してくれるんだ。あれだけとっさに色々と嘘をつくフロラくんだもん。「恋人だ」って言われてもおかしくないと思った。

 うんうん。私とこの男の子には、なんの関係もないんだから。

 でも、そう安心していられたのも一瞬のことだった。



 フロラくんが、ぐいっと私の肩を引き寄せたのだ。



「へっ」

「なっ!!」

「恋人じゃない。でもぼくにとって、みどりちゃんは最愛のひとだよ」


 出た! 最愛!

 って、感心してる場合じゃない。まずいよその言い方は。恋人って言ってるのと変わらないって……!!


「それは……恋人宣言ということでいいのかしら!?」

「わからないならいいよ。行こう、みどり」


 フロラくんの手が私の手を取る。わわっ。お父さん以外の人と手を繋いだの、久しぶり……じゃなくて。

 立ち上がった彼に引かれて、私も立ち上がる。それから二人、教室を出ることになった。後ろは呆然とした空気だ。もう、いったいなんなのよ。

 でも、もしかして助けてくれたの? ……いやいや、元はと言えばフロラくんのせいなんだけどね。

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