ヴィーチューバーの裏の顔

bbキャンセル君

どうした?殺さないのか?

可愛いイラストが動く。

まるでアニメのキャラが話してるみたいだ面白い。


暗い部屋の中で今日も配信を終える。


陰キャな俺でもできる事、顔も出さずに

声とイラストだけでお金を貰えるなんて素晴らしい。


人気のある俺を誰も疑わないむしろ、

褒め称える。


裏の顔も知らずに。


さっきまで見ていた、連続子供誘拐事件が表紙を飾ってる新聞をゴミ箱に捨てる。


下らない、なんでそんな事をする必要がある?


おもしろ。


おっと気づけば夜だ、出掛けないとな。




「あのクソゲー親子め!よくも俺をこんな姿にしやがったな!」

ぶかぶかの服を着た子供が、公園で一人キレている。

「この姿じゃあ家に帰っても、あげてくれない!

ああ、子供達が心配だ!早くあの学校をやめさせなければ!」

「どうしました?何かお困りごとですか?」

しゃがみ、優しく問いかける。

「お兄さん、俺いくつに見えます?」

「6歳」

「そーですか」

「そーですよ」

彼を勢いよく抱きしめる。

「何をするんだ!離せ!」

ポケットから硬化剤が入った注射器を取り出し、彼に打つ。

「っ!お前今・・・何を?」

「ただの精神安定剤ですよ。今の貴方は辛いだけだ」

薄く笑えば

ガクッと少年は崩れ落ち、彼の薄く笑う姿を最後に目だけ閉じる事になる。

「だからしばらく、人形になっててください。もう聞こえないとは思いますが」


誰も居ない

人目もつかない

この最高の2条件、狙うでしょ、普通。



カタカタカタ

タイピングの音がする。

目を開けて見れば、知らない天井

声を出そうとしても、口を塞がれて助けも呼べない。

手足には鎖のついた手錠が両手首に

足も同じ様な拘束具がつけられている。


部屋の向こうで声がする。


「皆さんこんばんわ、ヴィーチュバーのゆくりんだよ!」


ゆくりん!?

子供たちがよく見ているあのヴィーチューバーか!?

呆然としていると、その言葉で目を見開く

「今日はね特別ゲストをお迎えしています、高等 政事こうとう せいじ君です」

なんで俺の名前を知っているんだ?

「住所は○○○○○市☆☆☆☆町らしい、かなり昔からのやんちゃで先生を困らせてた悪い子供。そんな彼は今結婚して子供までいるみたいだね。お姉さん嫉妬しちゃうなー」

「んー!!!」

なんでそんな話まで知ってるんだよ!

ベットから起き上がろうともするが、拘束具がそれを許さない。

「子供の名前も言えるよ、優雅ちゃんと雅ちゃん。

まあ、これぐらいで彼の事を知ってもらえたかと思います」

彼は立ち上がり小型のカメラを持ち、俺の方へと来た。


「今から彼で遊んでいきたいと思います。まずは耐久性の確認から」

俺を足で顔面を蹴りあげる。一応今は子供だぞ俺!?

もう一発来ると思い抵抗できない体と共に、覚悟を決めて強く目をつむる。

が、いつまでたっても、攻撃がこない。

目を開けて彼を見れば不機嫌そうな顔で、タブレットを見ている。

「・・・・・今ビジネス中だというのに」

怒りを含みながらボソリと呟く。


ビジネス?ヴィーチューバーの事か?


「皆さん後程、性能調査動画を投稿しますのでもうしばらくお待ちください」


プチリと録画を止める。


「お前の知り合いが、会いたいみたいだ」

知り合い?

頭の中では、???しか無かった。

こんな状況で、会いに来る人なんていないだろ。

少なくとも俺の記憶の中ではいない。


誰だろう?そう考えていた時にちょうど

インターホンが鳴る。


彼が玄関まで行き、扉を開ける音がすると

一人の男性の聞き覚えのある声がした。

確かに知り合いだ。

知り合い

悪意味での知り合いだけどな!!!

溢れる怒り、ベッドの上で暴れる。

邪魔だ!

ついてるコイツが邪魔なんだ、お前のせいで

こんな目に、あるべき場所に帰れなくなったんだ!


「久しぶりだな、女のキャラを上手く演じ、男だという事を悟らせない男。毎日引いてるよ。あと君のヴィーチューバーの活躍がよく聞こえてくる、さすがだね、ゆくりん。表も裏も同じ名前を使うなんて、気に入ってるの?」

「うるせー、ゆくりん可愛いだろ?うけ良いんだよ、今の名前。だから両方ともゆくりんだ。さすがに裏は絵を変えてる。名前は一緒だけど」

「素性バレには気をつけなよ」

二人がとうとう姿を表す。


「どうも、コトリゲーム以来だね雅ちゃんのお父さん。その姿気に入って貰えてるかな?」

「んんん!!」

笑う男は、小学生の娘、雅の同級生。

今の姿は成人男性の姿だが、確かに同級生として小学校に違和感なく通ってる。

こいつが問題なんだ!!俺をこんな姿に変えた魔術師め!

「んで本題は?」

「さすがに色々知られたからね。お母さんの力を借りるのもめんどくさい。だからお前が殺すのを見届けに来た」

「・・・・いつから気づいてた?」

「彼の行き先は辿ってた。だから最初から」

「ふーん、でも一応こいつ商品なんだよなー」

「僕・・・いや俺のは歳を操れるだけで記憶は消せないからな・・・君頼みかな。別に産まれる前までの姿に変えれば一応死体も出来ずに殺せるけど」

「いやそれだとな・・・・・」

うーんと悩む男二人に、何かが降ってきた様に

あっと閃くゆくりん。


「良いやつあったわ、少し待ってろ」


取りに行って戻ってきた彼の手には、黒の液体が入った注射器がある。


「一部の体の部位を壊す薬なんだけど、今回壊す所は、脳か口かなんだけどどっちが良い?脳なら頷いて、口なら横に降って、5秒以内に答えなかったらこっちで適当に決める。じゃあスタート。5、4」


勝手に始まる絶望のカウントダウン。


目から涙が溢れる、

コトリゲームの不正を暴いて、子共を守ろうとしただけなのに。

俺は子供と妻にも会えなくなるのか?

嫌だ!嫌だ!


強く家族に会いたいと願った瞬間

彼の持っていた注射器がパリンと割れ液体が地面に落ちる。

「あっぶね」

二人は驚いて、俺よりも別の何かを注視している。

「まさか、今ここで生まれるとはな!」

「でも彼はまだ見えていない様に見える。無意識の可能性がある」

二人は何故か構えている。

また俺の頭がついていってない。


「気が変わった、殺そう、あとでお客には謝罪する、危険なおまけがついてしまいましたってね」


「お母さんの力があれば・・・・回避できたかもなのにね」

マザコンか?と呆れ気味に笑うゆくりんは次にこう言った。


「どうした?殺さないのか?俺達を」

そんな事を言ったって、俺が殺せる筈もないだろう。

何を言っているんだ?


「この世界には存在しない魔術を作れるんだ俺は」



「それが俺の陣、生成の陣。勿論ランクはS相当」

「真逆の陣が出てきたら終わるけどねその能力、例えばなんでも壊せる力とか。あるのかは知らないけど」

飽きたのか、ゆくりんのPCでいつの間にか動画を閲覧しだす男。


「・・・・・。話しすぎたな。とりあえず言いたいことは死ねって事だよ」

手に炎をまとい、その手で俺の右頬を優しく撫でた。

熱い!

手が離れても燃え続ける右頬がとても熱くて

口を塞がれても叫んでいた。

助けて助けて。

じりじりと焼かれる音が耳に届く。

「それぐらいで止めとけよ。それじゃあリアルで炎上するぞ」

「確かにな」

指をパチンと鳴らすと、移った炎が消える。

助かった?


「じゃあ次は、死体が出ない奴でいこう。監禁の箱(簡易)。簡易しか作れないが、人間を閉じ込めるには十分だろ。」


俺の名前を書いて、その箱の上の穴から入れる。


もう止めてくれ。


「させない」

室内の筈なのに、風が巻き起こる。


「サンキュー。これで邪魔はできない」

箱の扉を開ければ、俺を動きを止めていた拘束具が外れ、吸い込まれていく。

何故?そんな小さい箱に?

ありえない。

非科学的だ。


その考えはもう遅い。

だって今は、何も無い広がる闇の空間にいるのだから。

やっと拘束が外れたと思ったら、

「誰かいないのかー?」

叫んでも誰もいない。

一歩踏み出す、もう一歩

でも出口に辿り着ける気配が無くて

一瞬俺の目の前に、申し訳なさそうな人影がぼやーと現れる。

「なあ頼む!助けてくれ!」

そう悲願しても、人影は、蜃気楼みたいに消えていった。


地面に膝をつき、涙を流す。

それをあざ笑う様に、この世界が一瞬で消滅した。



「さすがだね。それにしても、途中で陣が宿る事なんてあるには驚き。」

「ほんと、それ。でも見えて無くて良かったな。あーくそ、後で謝罪会見かー、辛い」


「頑張れー。後で何かおごるから。それで今回の件はチャラね」


「はぁ」

深いため息を吐く。


彼らの背後のベッドの上には、粉々にされた箱が無残の姿で散らばっていた。





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