第9話 最強魔王様の夜間
真っ暗な夜の道を仕事終わりの一人の女性が歩く。
コツコツコツコツとヒールを鳴らして歩く。
そしてそんなヒールの音と並行するように、ゴム底靴のやわらかな足音が響いていた。
女性は後を付けられていることがわかり、歩みを早くする。
けれどヒールではそこまで早く歩くことができず、引き剥がすことができない。
更にいえば、女性が足音は歩みを速めたことに焦ったのか、後をつけてくる者の歩みが早まった。
後ろを振り返ってはいない。
振り返ってはいないが、すぐそこまで来ている気がする。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
女性は恐怖にかられ走り出す。
気のせいかも知れない。
気のせいであってほしい。
そう願いながら走り出すが、やはり後をつけていた誰かも女性と同じように走り出した。
女性の心はなお一層恐怖にかられる。
ここで女性が恐怖に飲まれてさえいなければ、一本曲がった先に小さなコンビがあることを思い出せただろう。
そして恐怖に飲まれてさえいなければ、この先の未来も変わっていた事だろう。
走る女性と、追いかける誰か。
そして、そんな二人が走る先には、寒くもない時期だと言うのに、トレンチコートを着ている怪しげな男の姿があった。
その男は走ってくる二人の前に立ちふさがると、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべながらトレンチコートに掴み、バッ! と開いて見せながら、
「タイヨウケンッ!」
「「ふぎゃ!? 目がー! 目がぁぁぁっ!!」」
眩い閃光を発するのだった。
いったい何処のどいつがこんなくだらない事をしたのかなど、語る必要もないと思うが一応語っておこう。
最近少年漫画や名作映画を知ってしまった最強魔王様、その人であると。
「ふはははははははっ! 潰れろ潰れろ! 目玉潰れろ! 我が閃光の前に恐れおののくがいい!」
いったい何がしたいの? と思うだろうが、ただ最強魔王様は遊んでいるだけだ。
日頃から勇者召喚させないために働いてばかりでお疲れなのだ。
なのでこうやって人をからかったりして遊んで、息抜きをしていると言う訳だな。
「ふははははははっ! ふはははははははっ・・・・・・さてと、そろそろ処理するか」
勿論こんなふざけていてもパトロールは継続中であり、勇者召喚させないために仕事も継続中だ。
今回は女性が通り魔に襲われて、その女性を助けるために現れた主人公が、なんやかんやあって通り魔に刺されてそのまま異世界転生! もしくはそのまま異世界転移! みたいなことをさせないために、捕らえに来たのだ。
おふざけをしているけど、これでも最強魔王様は真面目に働いているのよ。
「ええと、主は邪魔であるから記憶消去してさっさと帰して、主は記憶改ざん&五分おきに豚の真似をする事が常識であると書き換えて―――」
ただ真面目に働いてはいるが、ふざけている状態なので、無駄に人の脳をいじくりまわし、遊んでいた。
「よしよし、中々に面白い人格破綻者が作れたぞ。これは見るのが楽しみであるな」
そう言うと最強魔王様は通り魔の男を警察署の前に連れて行き、そこで放してやった。
すると、放された男は警察官を見ると、豚の真似をしたり、全裸で踊り出したり、エビの様に跳ねたりし始めた。
捕まりそうになればくねくねと可笑しな動きで華麗に避けたり、「魔王様ばんざ~~~~~い!!」と奇声を上げながら逃げ出したりした。
見事に変態ができあがったことに、最強魔王様のお顔はにっこりであった。
「うむうむ、いい出来栄えである。その狂った声でもって、存分に魔王は至高な存在であると世に知らしめるのであるぞ。そして交通事故にでもあい。勇者召喚に巻き込まれるのだ。クックックッ、勇者召喚を止めるだけではなく、使い物にならない壊れたモノをあちらの世界に送り届ける。外からではなく内から人間共を攻撃する我が策、イヤ秘策だな。超秘策を存分に味わうがいいのだ。クックックッ」
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