第8話 最強魔王様のご夕食
夜
それは魔の者達が動き出す時間
夜
それは悪の心が疼きだす時間
夜
それは秘めたる心が自由を求める時間
そう、暖かな光を失った夜の世界は、魔に魅入られし者達が暴れ回る・・・そんな時間だ。
「ま~さんに~~~~かんぱ~~~~いっ!!」
「「「「「「かんぱ~~~~~~いっ!」」」」」」
「うむ。浴びるほどに飲むが良い」
只今最強魔王様は東京ドームを貸し切り日本中に散らばる勇者候補達を集めて大宴会を行っていた。
どうやって東京ドームを貸し切ったのか、酒や料理はどうやって集めたのか、と思うだろうが、そこは魔法でちょちょちょいとやった。
東京ドームを軽く結界で覆うだけで、この世界の人間は気にしなくなるから楽でよい。
耐性と言うのが無いおかげで、目の前に金塊の山があっても、そこにあるのが当然でなんとも思わなくなるのだ。
ほんにこの世界の人間はあまりに矮小な存在であるか。
そして酒や料理に関してだが、アレは昨日この日本が出したゴミから回収してきた物だ。
この日本と言う国には食料が溢れておる。
いや溢れすぎておるのだ。
溢れすぎているが故に、少し悪くなったからと言った理由で、食わずに捨てる者多くおるのだ。
食材となった尊き命には、どんな矮小な者にでも敬意を表さなければならぬと言うのに嘆かわしい事である。
なのでそのゴミを我は回収し宴会に出してやったと言う訳だ。
勿論提供する食材は全て浄化済みであったり、時間を逆行済みであったりするので、腹を下すことはまずない。
「うむ。上手い。まだまだ飲めるではないか」
最強魔王様は元々開封済みであったビールを飲む。
矮小で脆弱で繊細な人間とは違い、最強魔王様は高々他人が口を付けたモノであろうとも、飲み残しであろうとも気にせず行ける。
というか、人の唾液程度が入ったくらいで魔の者が気にするわけもない。
魔の者の食事は基本丸かじり。
人のようにわざわざ肉と骨を切り分け、不要な部位を捨てるなどしない。
肉も骨も脳も目玉も鼻も耳も口も舌も毛も歯も鼻水も唾液も、何でも全て糧とする。
人であれば汚い、不気味だと称するだろうが、魔の者にとってそれが普通である。
アレだ。
蛇のように全てを気にせず消化できる感じだ。
流石に丸呑みはしないが、大体そんな感じだ。
「矮小なる存在とはこの程度の物も食えなくなるのか。なんとも悲しき存在よなぁ」
賞味期限だか、消費期限だが知らぬが、少々腐った程度で捨てざる負えないとは、なんとも不憫である。
腐った物もあれはあれで、ぐにゅぐにゅ、ぶちゅぶちゅしていて面白い食感だと言うのに。
「矮小であるだけで損であるな」
この世界に来て、人を知るたびに我は思う。
人とはこんなにも不憫な存在であるのかと。
故に我は思う。
「腐った物くらい、食える身体に作り替えても良いかも知れんな」
この世界の人とはあまりに矮小すぎる。
故に少しくらい弄りまわしても良いのではないかと。
「うむ、それが良さそうだ。うむ、糧となった殊勝な者達を無駄にせぬためにもそれが良かろうなのだ」
そう結論づけた最強魔王様は、強制的に人の身体をいじくり回すことに決め、近くにいる人間に手を伸ばした。
「ぬ? 矮小なる者よ。貴様何を食べておるのだ?」
「おぉ~? これか~い? こりゃあ納豆だぜぇ~!」
「なっとう?」
「なんだま~さんは納豆も知らねぇのか~? アレだぜ、アレ。こりゃあ腐った豆だぜ!」
「腐った豆・・・だと・・・」
「よくそんな腐った豆をツマミにできるぜ。ツマミと言えばブルーチーズ一択だろうがよ」
「そんな腐りかけの乳なんぞ食えるか!」
「腐りかけ・・・だと・・・」
そしていざ人間の改造を施そうとしたところで、最強魔王様がまだ知らぬ情報を得る事となった。
「矮小なる人よ。主等は、主等は腐った物を食すのか?」
「あったぼうよ! 食い物ってのは腐った物が一番うまいからな!」
「いいや! 腐りかけが一番だ!」
「なにおー!」
「なんだよー!」
腐った物がうまい、腐りかけの物がうまいと口喧嘩を始める矮小なる者達。
そんな姿を見て最強魔王は、己が間違っていたことに気づかされ、男達に向けていた手を降ろす。
「ふむ、矮小な種族ではあるが、ちゃんと進化をしているのだな」
人は脆弱だ。
我の知る限りゴブリン並みに脆弱な存在だ。
だが脆弱なモノは進化することが可能だ。
ゴブリンがホブゴブリンへと進化するように、人間もホブ人間と進化するのだろう。
いささか進化速度が遅くはあるが、進化できるのであれば放っておいても叶わぬであろう。
「少しずつでも糧を無駄にせぬようになっていくのであれば・・・良しとするか」
そう結論づけると最強魔王様はそこらにある食い物を摘まみながら、ビールを煽った。
彼は最強魔王。
そう呼ばれ、全ての者達に恐れられてはいるが、これでも一国を治める魔の王である。
それ故食料がどれほど大事か理解していた。
その日の糧が無ければ多くの配下が飢え、死んでいく。
故に彼は糧を無駄にすることを許さない。
飢えて死ぬほど悲しい事は無いのだから。
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