第6話 最強魔王様のおやつ
最強魔王様は甘い物もいける、スイーツ系魔王様だ。
よく城下町に降りては、森食いウツラ(魔界にいるウツボカズラのような植物)の消化蜜液を飲むほどの甘党だ。
なので今は、舌を出して小馬鹿にしている少女のケーキ屋さんで購入した、ワンホールケーキを食べている。
飲み物は緑の看板のお店で購入した、ホワイトなんたらかんたらチーノである。
道行く人は、そんな甘々な食べ物を貪り食う最強魔王様を見てドン引きしているが、魔王様は気にしない。
なんて言ったって最強であるからな。
「うむうむ、中々に甘い。どれもこれも似ていて非なる味がまた良き甘さであるのも良い。
うむうむ・・・うむ?」
上機嫌にバクバク食べていると、なんとも心地の良い小鳥のさえずりが聞こえて来た。
脅して、怒鳴って、威嚇する。
嘔吐いて、唸って、泣き崩れる。
そんな矮小な者達が争う音を耳にした最強魔王様は、とても楽しそうに笑みを深める。
争いごとがあまり好きではなく、平和が好きそうな最強魔王様であるが、そんなことはない。
彼は、そう彼は・・・
「ぬふふ、たまには矮小な争いを見るのも良きであるな。どれ、少し覗いてみるか」
彼はプロレスとか、ボクシングとか、なんかそう言う格闘技を見るのが好きな魔王様でもあった。
矮小な人同士が殴り合う姿。
弱いながらに必死に優劣をつける姿は滑稽で、見ていて飽きない。
まるでカブトムシとカブトムシが戦っているかのように心躍るのだ。
「おほ~。やっとるやっとる。よいぞよいぞ~。やれやれ~」
最強魔王様はビル屋上から、五人の矮小な人間が、一人の矮小な人間を袋叩きにしている光景を楽し気に眺める。
腹を殴られ、顔を殴られる矮小な人間。
鼻血や涙を流している光景は、見ていて楽しい。
ただもう少し道具を使って欲しいと思う。
パイプ椅子を使ったりして、観客を楽しませて欲しいものだ。
「やれ! そこだ! こうだ! こう! しっかり腰を使って殴れ! 何だそのパンチは! もっと気合入れぬか!」
まぁ、それでも魔王様は十分楽しめるようなので問題ないが。
「そこにビール瓶があるぞ! 使え! やれやれ! 殴れ! バリンってやれ! バリンって!」
「あ?・・・な、なんだこいつあぁぁぁ!?」
「ぬ?」
「コ、コイツ、壁を歩って!?」
「ジャ、ジャパニーズ忍者ってやつか!」
ただテンションが高まり過ぎてしまい、いつの間にか壁を歩って近寄ってしまっていたが。
「ぬぅ、水を差してしまったか」
矮小な者は我という絶対強者を目の前にすると、諍いを止める傾向にある。
脆弱なる人同士の戦争をなかなか面白みがあり、観戦しようとお菓子片手に訪れても、我を訪れると知ると誰もが諍いを止めてしまうのだ。
こちらはただ観戦したいだけだと言うのに。
「次は気を付けねばな。さて騒がれても面倒であるし、我の事は忘れよ」
「な、何言ってやが「消えろ」アバババババババッ!?」
「「「「斎藤!!」」」」
「ほれ、お前等もだ」
「「「「アバババババババババッ!?」」」」
「ひ、ひ、ひぃぃぃっ!?」
「逃げるな矮小なる者よ」
「へぎゃ!? アババババババッ!?」
流石にこの世界で最強魔王と言う存在を認知されると、口うるさい天上の者達が出張ってきかねないので、最強魔王は六人の矮小な人間共の脳みそをいじくり回し、新たな記憶を植え付けた。
「「「「「「アバババババババババッ!?」」」」」」
「ぬ? ちと調整をミスった」
新たな記憶を植え付ける際、少々人格の部分を弄ってしまい少し元の性格とは異なる感じになってしまった。
流石に蟻以下の存在の脳みそを弄る時は、ショートケーキ片手に食べながら行ってはいかんな。
上のイチゴが気になって手元が狂ってしまう。
今度からチーズケーキ片手にやるとしよう。
そう最強魔王様は反省しながら口から泡を吹く男達を放って、その場を後にした。
最強魔王様がいなくなった後、泡を吹いて倒れていた男達は起き上がる。
皆が虚ろな目付きでフラフラと歩み出した。
そしてしばらく歩んだ後、男達全員腕を天に掲げ
「「「「「「俺はスポーツカーになる男だ!」」」」」」
意味のわからない夢を語り出すのだった。
その後、彼等は彼等自身がスポーツカーになるために、ロボット工学やら遺伝子工学やらの勉学に勤しみ、ゆくゆくは念願のスポーツカーになれるのだが、それはまた別のお話である。
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