第4話 最強魔王様の午前のパトロール


 朝の旗振り運動(自主的)を終えた最強魔王様は、テクテクと街の中を歩く。

 どうやら最強魔王様は依然としてパトロールを続けているようだ。


「ふむ、この軟骨のコリコリとした歯ごたえは楽しいな。店主、追加でもう五本用意せい!」


「へい、まいどどうも~」


 勿論この世界の馳走を堪能しながらだ。

 流石に24時間パトロールするのも飽きてくるからな。

 こうやって息抜きしながらせぬと、何事も続かぬと言うモノよ。


「うにゃんっ!」


「こらー! 待てこの泥棒猫ーーっ!」


 コリコリと屋台で軟骨を食ろうておると、何やら周囲が騒がしくなった。

 おぉ、どうやらどら猫が魚を咥えて逃げているようだ。

 うむ、何処にでも似た光景と言うのはあるのであるな。

 魔界でも、よくどら虎(魔界にいる大型の虎魔物)が漁船を咥えて逃げ出すことはしばしばあった。

 あれと似たようなモノだろう。


 そんな事を思いながら、逃げるどら猫を眺めていると、どら猫は左右確認もせずに道路に飛び出した。


キキーーーーッ!!


「ビクッ!?」


 巷では猫や犬が死んでも、獣達が魔王を凌駕する異世界転生することもある。

 故に、この猫も助けねばならぬ。ならぬのだが・・・我は動かぬ。

 後々魔王を脅かす脅威になるとわかっているが、我は動かぬ。

 なぜならばあの猫を助けるは、


「にゃふん」


 猫担当の我の仕事であるからだ。


 黒くスマートな美猫。

 あの猫は我が分身であり、分身が猫に変化した姿である。


 そう、如何に最強の我であっても、全て矮小なる者達を一人で管理することはとても面倒であるのだ。

 故に我は我を増やした。


 猫担当の他にも、犬や魚、プランクトンにウイルスなどなど我を増やし、我に任せたのだ。

 今もそこの蟻の巣の中に、蟻担当の我が、異世界転移、もしくは勇者召喚が発生しないか監視している。

 最近では虫が転移だか虫に転生? だかして魔王以上の力を持つ猛者もおるからな。

 虫であってもこの星の、いや、この日本の虫は警戒対象なのだ。


「ふむ、無事解決したようであるな。これで人間共の希望をまた奪ってやったわ。くはははははh「おまち」おぉ、待ちかねたぞ」


 今頃あちらの世界の人間共は絶望に打ちひしがれているであろう。

 何度勇者召喚を試みても誰も現れないことに。

 それを思うと、自然と笑いが込み上げてくるわい。


「コリコリコリコリッ。うむ。絶望に合うツマミである!」


 我は軟骨を食べながら、パトロールを再開する。

 十軒先にあるにケバブとやらが売っている屋台を目指して。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る