16 三人の宴

「ケイナ! 本当に本当によく頑張ったぞ! ボスに勝てたのはケイナのお陰だ!」


 ブレイブがケイナに感謝の言葉を伝える。


「い、いえ、ブレイブさんの素晴らしい攻撃のお陰です! 最後の一撃、すごかったです!」


 今度はケイナがブレイブを褒めると、ブレイブはまんざらでもない顔で、「そ、そうかね?」などと言っている。


 すると、不意にケイナの口から、信じられない言葉が飛び出した。


「……あ、あと、あの、シ、シズル、様に、お礼をお伝えください……!」


 そう言って、彼女は顔を真っ赤にする。


〔へ?〕

「へ?」


 シズルとブレイブが間抜けな声を出す。


「シ、シズルって、誰のことだ?」

「ブレイブさんの……中にいる人です」

「し、知っていたのか、ケイナ……!?」

「はい。ブレイブさんの独り言、私にはほとんど聞こえていましたので……」


 ブレイブは愕然として言葉が出ない。シズルもどうやら同じ状態らしい。


 それを気にする様子もなく、ケイナはシズルに向けた感謝の言葉を口にする。


「私を成長させて下さり、ありがとうございます! こうしてダンジョンを攻略できたのは、シズル様のお陰です!」

〔……ふ、ふん。別に礼を言われることなどない。装備・アイテム・仲間など、必要なものさえ揃っていれば、どんなダンジョンだろうと攻略できるに決まっている。ブレイブ、こいつにそう教えてやれ!〕


 シズルは何やら照れた様子で、ブレイブにケイナへの伝言を頼む。


 ブレイブはまだショックから立ち直れていないが、その伝言をケイナに伝えた。


「はわわっ!? い、今のはシズル様のお言葉ですかっ!? わ、私を、必要な仲間と……!」


 ケイナは何やら感銘を受けた様子で、恍惚とした表情を浮かべている。


 しばらくして、ブレイブはなんとかショックから立ち直った。


 そして、彼もシズルに礼を言う。


「シズル、お前がいなきゃここまで来れなかった。本当にありがとうな!」

〔……お前、よく恥ずかしげもなく言えるな〕

「感謝するだけなのに、何が恥ずかしいんだ?」

〔な、なんだと……。まさか、僕が間違っているのか……?〕


 何やら今度はシズルが言葉を失っている。


「そういえば──」


 ブレイブが、コボルトキングの亡骸のほうを向く。


「ドロップ品があるから回収しよう。それと、魔石も回収したら引き上げるか!」

「はい!」


 ケイナが元気よく返事をする。


 ドロップ品は、希少度が〈レア〉の刀である〈狼牙〉、〈アンコモン〉の盾である〈蒼狗の盾〉だった。


 シズルによれば、後者はケイナが持っている盾と性能は同じらしい。


 だが狼の紋章が描かれているなど芸術品として美しいため、高値で売ることができるという。


 ドロップ品を集めた後、コボルトキングとコボルトナイトの魔石を収集した。


 そして、二人はダンジョンを上り、街に戻った。



 ブレイブ達は冒険者ギルドに立ち寄り、第六階層まで攻略してボスを討伐したことを報告した。


 その証拠として魔石を見せるとボス討伐が認められ、二人の冒険者ランクはDに上がった。


 依頼を受ける予定がないためランクはそれほど重要でないのだが、やはりランクアップは嬉しく、二人は大いに喜んだ。


 その後、ブレイブとケイナはボス討伐を祝う為、料理がうまいと評判の酒場に足を運んだ。


「店員さん、エールを三杯お願いします!」

「お二人しかいないようですけど、いいんですか?」

「はい、いいんです!」


 シズルの分も用意したい。二人はそう考えた。


 一緒に適当な料理も頼んでおく。


 エールが並々と入ったジョッキが三杯来た。そのうち二杯はブレイブが持ち、一杯はケイナが持った。


「ダンジョン上層の攻略に、乾杯!」

「かんぱーい!」


 二人はジョッキを勢いよくぶつけ合う。

 

「おっと!」


 ジョッキからエールが飛び跳ね、こぼれる。


 ブレイブはジョッキに口をつけてこぼれたエールをすすると、そのまま中身もごくごく飲んだ。


「「ぷはぁ」」


 二人は大きな息を吐く。


 ケイナは初めての酒だったようだが、エールのアルコール度数は低く、子供でも十分飲める。


 彼女の口に合ったらしく、その味を楽しんでいた。


〔……やれやれ。EKOではここまでがチュートリアルだから、乾杯するほど大したことではないんだけどな〕


 シズルは少し呆れた調子で話す。


「みんな頑張ったんだし、そう言うなよ! またこうして祝えるように、今後も頑張ろうぜ!」

「はい、頑張りましょう!」

〔ふん、当然だ〕


 二人はその後、評判の料理に舌鼓を打った。



 テーブルの中心に並んだ三人のジョッキには、先程の乾杯でこぼれたエールの水滴がまだ残っていた。


 店内の灯りがその水滴に反射し、まるで煌びやかな宝石のように眩しく輝いていた。

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異世界人に転生された双剣士は、人格が消えずに残ったので、自分に転生した廃ゲーマーの知識を借りてモンスターに支配された世界の英雄になる 深海生 @fukamisei

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