13 ダンジョン上層の攻略② 因縁の相手

 ブレイブ達が向かう〈幕開けのダンジョン〉は全一八階層となっており、上層とは第一階層から第六階層までを指す。


 ダンジョン上層は通称〈ビギナー〉と呼ばれており、その名の通り初心者向けの階層とされている。


 とはいえ、冒険者の半分以上はこの〈ビギナー〉で挫折し、ダンジョン攻略を諦めることになる。


 その原因は、第六階層のボスにあった。


「なあシズル、俺達ってボスに勝てるんだよな?」


 ブレイブは以前、他の冒険者からボスについての話を聞いたことがある。


 彼よりもレベルの高い、ある四人組の冒険者パーティーが万全の状態で挑んだ。


 しかしボスにはまるで歯が立たず、命からがら逃げ帰ったそうだ。


 結局その冒険者パーティーは心が折れてしまい、メンバーがばらばらになって解散したらしい。


 それを聞いた時のゾッとする感覚を、ブレイブは今になって思い出したのだ。


〔いや、勝てない〕

「な、なんだって!?」


 ブレイブはシズルの言葉に耳を疑う。


 思わず大声を出してしまったが、どうやらケイナには聞こえていなかったようだ。ブレイブの方を見て、にっこり微笑んでいる。


〔話は最後まで聞け。勝てないが、それは今だからだ。お前達はまだまだ強くなれる。第六階層へ辿り着くまでに、僕が強くしてやる〕


 シズルの力強い宣言を聞き、ブレイブの目に希望の光が宿る。


「おう! 信じてるぞ!」

〔……簡単に信じすぎな気がするが、まあいいか。敵に勝つためには、まず敵を知る必要がある。上層に出現するモンスターの特徴と攻撃パターンについてこれから話す。頭に叩き込んでくれ〕

「了解!」


 ダンジョンを降りながら、ブレイブはシズルの話を聞き、それをケイナに伝えていった。



 しばらく進むと、二人は第四階層へ到着した。


 前回この階層に来たときは、モンスターが全く出現しなかった。


 しかし、ダンジョンでは時間が経つと再びモンスターが発生するので、今回は現れてもおかしくない。


 ケイナの嗅覚と聴覚、そして《サーチ》を頼りに、モンスターや罠の気配を探りながら進む。


 進む方向は、シズルの知識を頼りにブレイブが指し示す。


 ダンジョンでは稀に宝箱が出現することもあるので、フロア全体を探索する方針を取っている。


 するとケイナが何かを察知したらしく、長い耳がひょこひょこと動く。


「ブレイブさん! 前方から音がします。何かが来ます!」

「おう!」


 二人はその場で立ち止まり、武器を構えて相手が来るのを待つ。


 前方から現れたのは、ブレイブにとっては因縁の相手、コボルトだった。数はいつもの三体だ。


「よっし! 来やがったなコボルトぉ!!」


 ブレイブはいきなりコボルトに向かって駆け出した。


〔待てっ!〕


 シズルの叫び声が頭に響き、ブレイブは頭痛でうずくまる。


「痛ってぇ……お、お前! 大声を出すなって言っただろ!?」

〔お前が全く学んでないからだ! 勇気があるのは認めるが、ただ突っ込むのは無謀なんだ。いいか、敵が複数いる場合、攻撃役はその中に飛び込んではいけない。すぐにボロ雑巾にされるのがオチだ〕


 ブレイブは頭を押さえながら立ち上がり、シズルの話に耳を傾ける。


〔そうではなく、防御役が相手の注意を引いている間に攻撃を仕掛けるのが鉄則だ。まずはケイナを前に立たせて、コボルトの目がケイナに向くようにしろ〕

「女の子を前に立たせて良いのかよ?」

〔大丈夫だ。僕の想定では、ほぼ攻撃を受けることはない〕


 そういうことではないとは思いつつも、ブレイブは仕方なくケイナに方針を伝える。


 ケイナは「はい!」と元気よく返事をすると、盾を構えてブレイブの前に立った。


〔基本的に敵の攻撃は回避し、避けれない場合は盾で受ける。敵の注意がブレイブに移ったら、ダガーで攻撃を仕掛けて自分に注意を向ける。そう戦うように伝えてくれ〕


 ブレイブがケイナに伝えると、彼女は「分かりました!」と即答する。


 コボルトは早速彼女に目を向けると、棍棒を片手に襲いかかってきた。


 上から振り下ろされる棍棒の攻撃を、彼女は横にステップして避ける。


 別のコボルトが棍棒を横に振り回すと、今度はしゃがんで避けた。


 そうして、次々と襲い掛かる攻撃を、ケイナは確実に避けている。


「す、すげぇな」

〔あの程度は当然だ。お前も見ていないでさっさと攻撃しろ〕

「攻撃していいのかよ!? い、行くぞオラァァア!」


 ブレイブは、完全に注意がケイナに向いているコボルトへと駆け出した。


 相手の背中の手前まで近づくが、コボルトは気づかずケイナへ棍棒を振り回している。


 そのコボルトの首を狙い、彼は渾身の力で双剣を振る。


 スパンッ!


 ゴトッ。


 コボルトの首が、真下に落ちる。続いて残った胴体もドサッと地面に倒れた。


 ブレイブは初めて、自分の手でコボルトを倒した。


「お、おっしゃぁあああ!!」


 彼はその場で雄叫びを上げる。何年も敵わなかった相手だ。


 ケイナの力を借りたとはいえ、喜んで当然だろう。


 しかし、コボルト達はその声に反応し、ブレイブの方に振り向いた。そして、標的を彼へと変更する。


「あ、やば」

〔お前……。いや、いい訓練か〕


 コボルト達がブレイブの方へ向かおうとすると、それに反応してケイナがダガーを構えた。


 そして、素早くコボルト達を斬りつける。


「「ギャア!」」


 二体のコボルトは痛みに堪えきれず叫ぶ。その傷口からは血が流れ落ちている。


 コボルト達は再びケイナに注意を向ける。そして、ケイナへの攻撃を再開した。


「俺の出番だ!」


 ブレイブは先ほどと同様に、片方のコボルトの背中に回り込むと、その背中を袈裟斬りにする。


 そのまま残ったもう片方のコボルトに駆け出すと、双剣を背中に突き立てた。


 どちらのコボルトも、地面に倒れると間もなく絶命した。


「か、勝ったぁぁぁああ!!!」


 ブレイブは心の底から歓喜の雄叫びを上げる。


〔何時間もかけてレイドボスを倒したみたいな喜び方するな、お前〕

「何時間だって? 俺は何年もかかったんだよ!!」

〔……そ、そうだったな。苦労してるんだな、お前も〕


 シズルがブレイブに同情するような声音で言う。


 今度はケイナが近づいてきて、ブレイブを褒め称える。


「おめでとうございます! すごい技でした!」

「そうか? ありがとう! ケイナもすごかったぞ!」

「あ、ありがとうございます!」


 ケイナも勝利に興奮しているらしく、尻尾を左右に振っている。



 この調子で二人はダンジョンを進んで行った。


 シズルのアドバイスを受けながら、コボルトとの戦闘を危なげなくこなし、探索を進めていく。


 戦いを繰り返したことで新しい装備にも慣れ、二人の連携も板についてきた。


 また、順調にレベルが上がり、二人のレベルは6に到達した。


 一つ残念なことと言えば、宝箱が全く見つからなかったことだ。


 宝箱もモンスターと同様、一定の時間が経つと生まれるのだが、今回はすでに他の冒険者に開けられてしまっていたらしい。



 第六階層の探索を進め、二人はついにボス部屋の前にやってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る