14 ダンジョン上層の攻略③ ボスの登場
第四階層のボス部屋入り口は石製の門になっている。
シズルから聞いた話では、この入り口の前に立つと門が自動的に開く仕組みらしい。
これまで連戦を続けてきたので、ブレイブとケイナは少し休憩することにする。
地面に腰掛けながら、二人は
「うえぇぇえ! なんでレーションってこんなに不味いんだ……?」
ブレイブはもう何年も食べてきたが、いまだに慣れない食事に愚痴をいう。
見た目は普通のクッキーのようだが、匂いが酷い。あえて臭い薬草を何種類か混ぜたような匂いがする。
「うっ、本当ですね……」
ケイナは鼻が効くからか、かなり顔をしかめている。
「ボス戦前にちょっと気持ち悪くなるってどうなんだ? もう少しだけでもいいから、食べやすいレーションを作って欲しいもんだよ……」
「食べやすいレーション、ですか」
ケイナは何か思案げな表情をする。
「まっ食えるだけいいか。それよりもボス戦だな」
「はい! 作戦を練る必要があるので、そろそろ独り言タイムですね!」
「え? ……そ、そうだな」
なぜかケイナは、とびきりの笑顔でブレイブに独り言を勧めてくる。違和感があるが、ブレイブにとってはありがたい。
「シズル、ボス戦はどうすればいい?」
〔よし、じゃあ説明するぞ〕
シズルは第四階層ボスを倒すための作戦について話し始めた。
ボスはコボルトキングで、コボルトの最上位種だという。また配下のコボルトナイトを四体従えているらしい。
コボルトキングの攻撃は、剣や素手での物理攻撃とアーツの《咆哮》が中心。
装備しているのは〈狼牙〉という強力な刀で、シズルがまともに攻撃を受けてしまうと、新品の銅製防具でも防ぎきれないらしい。
しかし、ケイナの青銅製の盾なら十分防げるので、今回も防御役である彼女中心の戦いとなる。
コボルトキングの《咆哮》は、まともに受けると十秒程度体が硬直し動けなくなる。
しかし、《咆哮》の前に予備動作があるので、それを確認したら距離を取って耳を塞げば無効化できるらしい。
以上の作戦をケイナに伝えると、彼女は真剣な表情で頷きながら聞いていた。
どうもケイナは、これまでよりも少し緊張しているようだ。耳がピンと立ち、尻尾の毛が逆立っている。
「ケイナ、俺がついているから安心しろよ!」
「わ、分かりました」
そう返事をするケイナの表情は硬い。
ボス戦の前だしそういうものか。ブレイブはなんとなくそう考える。
彼自身だって、自分の攻撃が当たるのか、攻撃が通用するのかといった疑問はある。
とはいえ、それは不安というよりも興味に近い。そもそも彼は、緊張らしい緊張をしたことがなかった。
なぜなら戦闘では、自分の攻撃の番が来たら敵に思いっきり突っ込んで攻撃すればいいだけであり、特に考えることなどないからだ。
ケイナの気持ちはあまり分からないが、自分が彼女を守れば良い。
ブレイブはそう考えて、力強く立ち上がった。
「よし、行くか!」
ケイナも立ち上がる。
「はい!」
二人は同時に頷く。そして、ボス部屋の入り口に立った。
ゴゴゴゴゴッ!
シズルの言った通り、二人に反応して門が開く。
中にはコボルトナイトが四体だ。すでに武器を持ってこちらを睨んでいる。
コボルトキングはまだ現れていないようだ。
〔しばらくするとコボルトキングが出現するから、先にコボルトナイトを倒してしまうんだ〕
「おう!」
早速二人は戦闘を開始する。
すでに何度か戦闘を重ねた相手であり、同時に四体を相手してもケイナは攻撃を避けることができている。
ブレイブは、ケイナに注意が向いているコボルトナイトを順番に切り捨てていく。
二人はものの数分で敵を倒し切った。
「おお! 完璧だったぞケイナ! こりゃあコボルトキングも楽勝かもな!」
「そ、そうですね!」
ブレイブが軽口を叩くと、ケイナの表情も少し和らいだ気がする。
「ウォーーーーン!!」
獰猛な獣の雄叫びが、部屋全体に響き渡る。
「ひっ」
小さな叫び声が聞こえた。ケイナだ。
彼女の体は小さく震え、怯えで耳や尻尾が垂れ下がってしまっている。
ブレイブはすぐケイナの前に立つと声をかけた。
「大丈夫だ! 落ち着け、ケイナ!」
「は、はい」
なんとか返事はできる状態のようだ。
「おいシズル! 今のが奴の《咆哮》か!?」
〔いや、ただの雄叫びだろう。アーツの威力はこんなものじゃないからな〕
「くそっ、まじかよ」
どうやら聴覚が敏感なケイナは、普通の雄叫びでもかなりの衝撃を受けるようだ。
前方から、ついにコボルトキングが姿を現した。そして、ブレイブ達の方へゆっくりと歩いてくる。
コボルトナイトよりも図体が二回りはでかい。体つきは筋骨隆々で、獣皮製らしき鎧を身にまとっている。
そしてコボルトナイトにはない、ボスが持つ凶悪な殺気を放っている。
しばらく歩いた後に止まると、コボルトキングはこちらをギロリと睨みつけた。
そして顔を上に向けると、大きく息を吸い込み始めた。
〔あれが《咆哮》の予備動作だ。今すぐ距離を取って耳を塞げ〕
「うおぉお!? ケイナ! 逃げるぞ! ……ケイナ?」
彼女に目を向けると、コボルトキングを怯えた顔で凝視したまま、体を震わせて動かない。
〔ヘビに睨まれたカエルか。仕方がない、お前だけでも距離を取れ〕
「バカ野郎! 俺はケイナを守ると言ったんだ! そんなことできるわけねえだろ!」
ブレイブはケイナの方に振り向き、彼女を自分の胸に抱き寄せた。
そして音が通らないよう彼女の耳を倒し、腕でぎゅっと押さえつけた。
「ワァオオオォォオオォォォンンン!!!」
けたたましい獣の鳴き声が、ブレイブの耳をつんざく。
彼の思考は突風に吹き飛ばされたかのように消え去り、頭の中が真っ白になった。
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