10 ポーション販売
〔次はこれを売りに行くぞ〕
シズルがブレイブに次の指示を出す。
「おう! こんなとんでもないキュアポーション、一体いくらで売れるんだろうな?」
〔たしかよろず屋では、一つの売値が銅貨五十枚だったな。仕入れ値がその半分の銅貨二十五枚として、このキュアポーションは倍の銅貨五十枚で売れれば御の字だろう。もしその値段で売れるとすれば、二百本で金貨一枚だ〕
「二百本か、頑張れば十分作れるな。ぐふふっ」
ブレイブは生まれてこの方、それほどの大金を手にしたことなどない。
子供がいる家族でも、それだけの金があれば半年は暮らせるだろう。
そんな大金を想像するだけで、ブレイブの顔は自然とにやけてしまうのだ。
「ブレイブさん、そろそろお店に行きましょう?」
「そ、そうだな」
ケイナの声になんとか気持ちを引き締めると、ブレイブは宿を出発した。
◆
店に到着して中へ入ると、朝の混雑が嘘のように人がまばらだった。
カウンターには恰幅がよく、物腰の柔らかい男が客の相手をしている。彼がこの店の店主だ。
客がいなくなると、ブレイブは店主に話しかけた。
「すいません、キュアポーションを売りたいんですが、買ってもらえますか?」
「ええ、ええ、もちろんですとも。そのキュアポーションは、教会から仕入れたものですね?」
「いや、自分達で作ったんですよ!」
「ふふふ、ご冗談を。そのようなこと、できるはずがありません」
ブレイブがドヤ顔で言うと、店主はにこやかに否定する。
「そんじゃあ、とりあえず見てくださいよ!」
ブレイブは背負いバッグからキュアポーションを取り出し、カウンターに置いた。
「むむっ? 少々拝見いたします」
店主は瓶を一本持ち上げて中身を確認し、蓋を開けて匂いをかぐ。
〔この男、〈商人〉だよな? なんで《鑑定》を使わないんだ?〕
「なんだ〈商人〉って。ジョブのことか? なら俺は知らねえぞ」
〔……どうなっている〕
シズルは何やら疑問に感じることがあるらしい。
「たしかに色も香りも似ているような気がしますが、私の知るキュアポーションとは全く違います。申し訳ないのですが、これでは買取が難しいですね」
「ええ!? そんな……」
途方に暮れるブレイブに、ケイナが意見を言う。
「試しに使ってみてもらうのはどうでしょうか?」
「それはいいな! 店主さん、その傷跡にキュアポーションをかけてみて下さい!」
ブレイブが、店主の腕に刻まれたいくつかの切り傷を見ながら提案する。
「この傷は一年以上前の古傷です。道でいきなりギャングに襲われたときにつけられたもので、見るたびに嫌な気持ちを思い出しますよ。その時はキュアポーションを飲み、傷が癒えるまで痛みに耐えたものです。つまりポーションは痛み止めなんですよ。それを腕にかけろと言うのですか?」
「はい! お願いします!」
「……まあいいでしょう」
店主は観念したように頷くと、瓶を一つ選ぶ。
その蓋を開け、見るからに痛々しい傷跡に振りかけた。
効果はすぐに現れ、一年以上前の古傷は跡形もなく消えた。
「ま、まさか……、信じられない……!」
商人は、ブレイブ達が持ち込んだキュアポーションの効果に愕然とする。
「俺も信じられない」
「私もです」
製作者である二人も、その効果に目を疑う。
「ここ、こここ、このような代物、どうやって作ったと言うのです!?」
カウンターを飛び越えそうな勢いで、商人は体を乗り出す。大きく開いた目は血走っている。
「おいシズル! なんか大事になっちまったぞ! どうやって作ったか聞いてるが、教えちゃまずいよな?」
〔もちろんダメだ。秘密と言え〕
シズルと短い打ち合わせを終えたブレイブは、店主に顔を向ける。
「すいませんが、それは秘密です」
「はっ!? そ、そうですよね……。こんなとんでもないポーションの製法、私ならば誰にも言うはずがない。興奮でそんなことにも気づかないとは、お恥ずかしい限りです……」
商人は恐縮した様子で元の位置に戻ると、額から大量に流れる汗をハンカチで拭う。
「いえ、大丈夫ですよ! それよりこのキュアポーション、買取はしてもらえますか?」
「もももも、もちろんですともっ!」
再び目を見開くと、店主はブレイブに提案する。
「そうですね、一本につき銀貨十枚でどうでしょう?」
「……はっ?」
〔……はっ?〕
店主の回答に、ブレイブもシズルも耳を疑う。
銀貨十枚と聞こえた気がするが、そんなはずはない。
もしそうだと、想定していた額の二十倍以上で売れることになってしまう。
自分の聞き間違えだと思ったブレイブだったが、店主はさらに思いがけないことを言い出す。
「やはり安かったでしょうか……。分かりました、では銀貨十五枚! なんとかこれで売ってもらえないでしょうか!?」
店主はなぜかさらに値を上げてくる。今度は銀貨十五枚らしい。
〔おいブレイブ! こいつの気が変わらないうちにそれでいいと言え!〕
「お、おう!」
ブレイブは急いで店主に銀貨十五枚で売ると伝えた。
店主の顔は一気に晴れやかになり、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます! それではすぐに代金を用意しますね!」
店主は奥に引っ込むと、すぐに代金を持って現れた。
「キュアポーション十本の買取で、代金は金貨一枚と銀貨五十枚になります」
店主はブレイブに代金を押し付けると、キュアポーションを大事そうに抱えて奥へと運び、また戻ってきた。
「そうでした、お客様のお名前はなんとおっしゃるのです?」
「俺はブレイブで、こっちはケイナです」
「なるほど、承知しました。私の名はドン・ドンキーと申します。是非今後とも、良い取引をさせていただきたいものですな!」
「はい、また売りにきてもいいですか?」
「もちろんですとも! 明日でも構いませんよ?」
「「わはははっ!」」
ブレイブと店主は笑い合うが、店主の目は笑っていない。どうやら本気のようだ。
こうしてブレイブ達は、金貨一枚と銀貨五十枚を手に入れた。
大金を持つブレイブの手がブルブル震えている。
〔素晴らしい成果だ! この金で装備とアイテムを揃えるぞ〕
「わわ、分かった! でも、何を買えばいいんだ?」
シズルはブレイブに必要なものを伝えていく。
ブレイブの装備として、新品の青銅製の長剣二本に銅製の軽鎧一式。
ケイナには、新品の青銅製ダガーと銅製の軽鎧一式。さらに、青銅製の盾も購入する。
本当は防具類も青銅製を揃えたいが、この時点ですでに合計金額が金貨一枚を超えるため止める。
アイテムは、毒消、虫除香、煙幕玉、
しめて金貨一枚と銀貨三十枚。
ブレイブはカウンターで支払いを済ませる。
「毎度あり!」
ドン・ドンキーは満面の笑顔でブレイブ達を見送った。
宿に戻ったブレイブとケイナは、早速購入したばかりの装備を身に付ける。
ブレイブはこれまで新品の装備など購入したことがなかった。
ピカピカの装備が、ブレイブの気分を高揚させる。
「うおぉぉおーーー! かっけーーー!」
思わず大声で叫んでしまう。
「す、すごい……!」
ケイナも、装備を身につけた自分の姿を見回して感動している。
〔必要な装備とアイテムは揃ったな。明日からダンジョン上層の攻略に挑むぞ〕
「おお!? おぉぉぉおおおお!!」
ブレイブは気持ちが昂りすぎて、返事がおかしくなってしまう。
だいぶ日が落ちてきたので、ケイナを一旦孤児院に連れて帰った。
そして翌日。
ダンジョン上層に挑む朝がやってきた。
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