第61話
◇ side 結茜 ◇
水着に着替えを終えた私たちは二人が待つ場所に向かうと———二人が逆ナンされていた。
佐伯くんの方は黒髪のお姉さんを何とか振り切れていたが、雪翔くんは振り切れていない様子だ。
それにしても、茶髪のお姉さんの仕草は腹が立つな…。私が『彼氏くん』と挑発したはずなのに、お姉さんは自分の胸を雪翔くんの腕に押し付けて、私に挑発してきている。
まだ彼氏彼女の関係ではないけど、私のお気に入りの人が他の女性から誘惑されているのは嫌だ。
……まあ誘惑されていても、デレデレしていないのは個人的には評価高いけどね。
「あの…結茜さん…これは違くて」
雪翔くんは腕に抱き付いているお姉さんを離そうとしながら、私に言い訳をしてきた。
「言いたいことがあるなら聞くわよ?」
私は睨みながら聞き返した。
本当はこんなことをしたくないのだけど、私のプライドが邪魔をしてくる。……仕方がないよね。
鬼頭さんの方に視線を向ければ、いつものようにふんわりとした様子で楽しんでいた。
……うん、鬼頭さんは一旦無視をしとこう。
「ちゃんと俺は断ったんだよ。 ここでナンパをするのは禁止やスタッフに伝えることも。 だけどお姉さんがなかなか引かなくて」
「そう。 それを言われても尚、二人に構うのはどうしてですか?」
お姉さんの方に視線を向けて聞いた。
「それは、こんなにもカッコいい男の子を見逃す訳にはいかないじゃん〜?」
確かに一日撮影体験をしてから、雪翔くんは少しだけ垢抜けた雰囲気(個人の見解)が垣間見える。
だからこそ、そのことに関しては同感。
「だからこそ、お姉さんはこの子を食べたくなっちゃったのよ〜」
お姉さんは舌舐めずりをしながら、雪翔くんの方に視線を向けて言った。
この女…雪翔くんのことを誘惑するな!!
「そうですか。 ですが、私たちはグループで来ているので、早々に帰ってもらってもいいですか?」
「って言っているけど、どーする?」
「そうだね。 これ以上揉め事を増やしたくないし、ここは引くしかないかもね」
茶髪のお姉さんとは違って、黒髪のお姉さんは物分かりがいいのね。話が進んで楽だわ。
「またこのパターンか… ここ最近は逆ナンが成功しないなー」
「気が強い彼女さんがいたら、私たちに勝ち目がないのは仕方がないわよ」
「はぁ…そうだね。 ここで逃すのは辛いけど、私たちは身を引きますか」
その場から二人のお姉さんは立ち上がった。
「これ以上、私たちには関わらないでください」
私はお姉さんたちに念を押した。
もしかしたら目を離した隙に、また接触をしてくるかもしれないから。
「もう関わらないから安心して彼女さん。 だけど、最後にこれだけは許してね〜!」
「えっ…ちょっと、お姉さん?!」
そう言って、茶髪のお姉さんは雪翔くんの真横に立つと———雪翔くんの頬にキスをした。
雪翔くんはかなり驚いていた。
「なっ…何をしているのですか!!??」
「ただのお別れの挨拶だよ」
「ここは日本ですよ!! 海外ではないので普通のお別れの挨拶でいいじゃないですか!!」
「そんな機嫌悪くならないでよね〜 それじゃあ、邪魔者は退散しますから…ね!」
「 !? 」
そう言いながら、茶髪のお姉さんは私の胸を軽く触り、二人のお姉さんは更衣室の方へと向かった。
「なっ…何だったの。 私、お姉さんにセクハラまがいなことをされたの?!」
「まがいではなく、確実にセクハラだね」
横にいた鬼頭さんが、私の胸元を凝視しながら言ってきた。
「そのセクハラ認定をするとしても、なぜ鬼頭さんは私の胸元を見ているのかしら?」
「いや〜 お姉さんに触られた時に、なかなかの弾力的なお胸に見惚れてしまい、私も触りたくなったんだよね〜」
「……佐伯くん、貴方の彼女さんが変態発言をしているのだけど、どうすればいいのかしら?」
佐伯くんに尋ねた。
この場合は佐伯くんに聞くのが一番だから。
「変態発言って、結茜ちゃんは酷いな〜」
「この場合は無視するのが一番かな。 そしたら、俺に泣きついてくると思うし」
「なるほど」
話を聞き納得していると、鬼頭さんが不敵の笑みをしながら口を開いた。
「確かに無視されたら七音に泣きつくけど、今回に限っては違うんだよね〜!」
鬼頭さんは私の方に獲物を狙う視線を向け、そして背後に周り抱き付いてきた。
そのまま鬼頭さんはゆっくりと胸を揉んできて、私の胸の感触を楽しんでいた。
「ちょっと、公共の場で何をしているの!?」
「着替えの時から委員長の胸が気になっていて、いつ触ろうかとずっと考えていたんだよ」
「鬼頭さんは女の皮を被ったおじさんなの?!」
「あはは。 おじさんではなくて、ただの可愛い女の子が好物の女の子だよ」
「よく彼氏がいる前でそんな発言が出来るわね」
「七音は知っているもんねー!」
佐伯くんの方に視線を向けると、頬を掻きながら苦笑していた。それだけで、かなり苦労していたことが窺える。
同時に隣にいる雪翔くんが目に入った。
先程から静かにしていて気になっていたけど、やはり少し元気がないように見えた。雪翔くんなりに色々と思うことがあるのだと思うけど、あれは彼が悪いわけじゃない。あとで何か奢ってあげよう。
それよりも、この現状を見られているのがとても恥ずかしい。確かに水着に関しては雪翔くんに喜んで欲しくて、あれから新しいのをもう一着買いに行ったけど、これは私が望んだことではない。……感想はちゃんと聞きたいからね!
「そこの二人、先にプールに向かっていなさい」
私は右手でプールを指差して、二人に向けて強制的に命令をした。
「えっと… 先に行こうか」
「そうだね」
二人は何とも言えない笑みを浮かべながら、踵を返してプールへと向かった。
それを見届けた私は、鬼頭さんの両手を掴み、そのまま無理矢理剥がした。そして踵を返して、私は鬼頭さんの両頬を両手で挟んだ。
「おふざけにも程があると思うんだけど、鬼頭さんはどう思っているのかな〜?」
「そお…にゃんといいみゃすあ…」
「反省はしているのかな?」
「ひゃい。ひゃんせいいていみゃす」
それを聞き、私は頬から手を離した。
多分、反省はしていないと思うけど、二人を待たせるわけにはいかないから。
「ほら、私たちもプールに行きましょ」
「……はい。 (とても柔らかくて至福だった…)」
「聞こえているわよ」
心の声をダダ漏れにするということは、余程やられる覚悟があるらしいね。
私は鬼頭さんの左胸を軽く掴んだ。
「とりあえず、二人の後を追いかけましょうか」
「そ…そうですね。 あと胸を掴むのはやめてほしいのですけど…」
「罰ゲームです」
そして移動するために左腕に移し、先にプールへと向かった二人の後を追いかけた。
◇ 雪翔side ◇
「焦った…」
プールに向かいながら、俺はボソッと呟いた。
「まさか逆ナンされるとは思わなかったよね」
佐伯くんは苦笑しながら言った。
「ほんとだよ。 結茜さんたちに、あらぬ誤解を生む所だったよ」
「だけど委員長はいい人だよね。 御影くんの為にあそこまで対抗心を燃やしてくれて、御影くんは愛されているんだね」
「愛されて…って、俺と結茜さんはそんな関係ではないからね?」
「………これだと委員長も大変だね」
朝の妹と同じような発言に聞こえた。
実際、言っていることは違うが、意味合いはほぼ同じだとは思う。……よく分からないな。
首を傾げていると、佐伯くんは言葉を続けた。
「それに引き換え、静香と来たら…」
佐伯くんはため息をついた。
確かに鬼頭さんは助けることや結茜さんの加勢をすることなく、ただ一歩引いて傍観していたな。
彼女である鬼頭さんが助けてくれなかったら、彼氏である佐伯くんは辛くなる気持ちは分かる。
そう考えると、結茜さんは強いな。
さすが、モデルをやっていることはある。
「鬼頭さんは常に傍観者でいる感じなの?」
「毎回ではないんだけど、他の人で面白そうなことがあったら傍観者でいるね。 二人の時はお互いに助け合ったりするんだけどね」
「なるほど…」
今回は結茜さんが俺のことを助ける雰囲気を出していて、それを面白そうだと感じた鬼頭さんは一歩引いたということか。……その事実を知ったら、結茜さん怒りそうだな。いや、既に怒っているから免れる場合もあるか。
それから少し歩いていると、目の前に大きなプールとウォタースライダーが見えてきた。
「さすが休日なだけあって人混みが凄いな」
「これ以上行くと二人と合流出来ない可能性あるから、ここら辺で待つことにしようか」
「そうだね」
プールに着いたが、人混みが多くて合流出来ない可能性があるので入り口付近で待つことにした。
それにしても、この人混みだと数人は結茜さんのことを気付く人がいそうな気がする。
さっき見た時、明らかに不良美少女モードだったので、隠す気ないのかと一瞬思った。
「七音〜!」
「雪翔くーん!」
そんなことを考えていると、背後から俺と佐伯くんの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
後ろを振り向けば、結茜さんと鬼頭さんがゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。
「あそこの二人可愛すぎるだろ!」
「声掛けてみるか?」
「あんなに可愛いんだから彼氏がいるだろ。 俺たちなんかじゃ、相手にされないぞ」
同時に周囲の男性客の視線を釘付けにさせていて、彼女さんに耳を引っ張られている人もいた。
……てか、結茜さんのこと意外とバレないな。
「お待たせしました」
結茜さんは小さく会釈をしてから言った。
「全然待っていないよ。 寧ろ、俺の所為で結茜さんに迷惑を掛けたからね」
これは本音。あの逆ナン事件がなければ、もう少し早めにプールに入っていただろう。
横に視線をチラッと向ければ、佐伯くんと鬼頭さんが楽しく話をしていた。
「あの…雪翔くん」
名前を呼ばれたので視線を戻せば、結茜さんが少し恥ずかしそうにしながら何かを言いたそうにしていた。……なんだろう?
「どうしたの?」
俺が一言声を掛けると、結茜さんは一つ深呼吸をしてから、視線をこちらに向けて口を開いた。
「こ…この水着はどうかな?」
「……」
それを聞き、俺は結茜さんの水着に目を向けた。
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