第60話
電車に揺られること四〇分。
俺たちはプールがある遊園地の最寄駅へと着いた。それから駅の改札を出て、さらに五分程歩くと遊園地のチケット売り場へと着いた。
そして売り場にて一日レヂャーチケットを買い、施設内へと入場した。
施設内に入場した後、待ち合わせ場所を決めてから、それぞれの更衣室へと移動した。
「ふっふふ」
服を脱ぎ始めていると、横にいた佐伯くんが独り笑いをした。
「どうしたの?」
質問をすると、佐伯くんはこちらに視線を向けて口を開いた。
「ごめんね。 急に笑ったら驚くよね」
「まあ少し驚いたけど、何かしらの理由はあるんだろうなとはすぐに思ったよ」
「そんなに俺って分かりやすいのかな?」
「大体は想像付くからね」
分かりやすいと言うよりも、俺からしたら鬼頭さんが関係していると一目瞭然なんだよね。
楽しそうにしている姿が学校で一人の時とは全然違うから。
「そうなのか〜 確かに御影くんの想像通り、静香関連のことで笑ったよ」
「だよね。 その話を聞いてみたいけど、さすがに教えてはくれないよね?」
ダメ元で聞いてみた。
一応、個人情報になるから、佐伯くんにダメと言われたら諦めるしかない。……俺自身も秘密にしたいこともあるしね。
「全然問題はないよ」
満面の笑みを向けて、佐伯くんは答えた。
……いいのかよ!?
絶対に話してくれないと思っていたのに。
「それじゃあ…お願いしてもいいかな?」
「分かった」
佐伯くんはバスタオルを体に巻いて、ごそごそと着替えを続けながら口を開いた。
「実は静香が予告をして来たんだよね」
「予告?」
「そう。 今日の水着は期待しててね、とね」
佐伯くんの口角が段々と緩んでいくのが、横から見ていて分かった。
「佐伯くんって、意外と変態要素があるの?」
「ちょっ…いまの話の中で、どこから変態要素が出てくるの?!」
「その…何と言うか、水着の話をした後に嬉しそうな顔をしていたから」
「誰だって彼女から水着を期待しててねと言われたら、嬉しくなるのは当然でしょ」
……そんな必死に反論しなくてもいいのに。
「そうだね」
「自分には関係ない風に言っているけど、御影くんだって水着を予告されたら嬉しいでしょ?」
「それは嬉しいけど、人前で嬉しそうに話すのは恥ずかしくて出来ないな」
寧ろ、佐伯くんのように堂々と語れるようになりたいよ。……ほんと恥ずかしいのは苦手だから。
「俺だって、静香の話をするのは恥ずかしくて出来ないよ」
「………っえ? 俺とは普通に話しているのに?」
「それは御影くんだから話せるんだよ。 前にも言ったけど、お互いに秘密を持つ者同士だからね」
あっ…。あの半ば強引に納得させられて、こちらの秘密も話すことになった時か。
あの時の佐伯くんは何か探偵みたいで、色々と勘が働いていたんだよな。……数ヶ月しか経っていないのに、もはや懐かしさを感じる。
「それを言い換えたら、俺も何かあったら佐伯くんに話さないといけない感じだよね?」
「そこまでは強制しないよ。 まあ御影くんが話したいと言うなら聞いてあげるけど」
「遠慮させてもらいます」
強制されないのなら、俺は話さないの一択だ。
俺と結茜さんとの関係を他の人にペラペラと話すような人間にはなりたくないし、彼女は“幻の妹“でもあるから不祥事を出さないように気を付けないといけないから。
「それじゃあ、着替えも終わったから待ち合わせ場所に向かおうか」
「そうだね」
タオルと貴重品類を持ち、ロッカーに鍵を掛けて、俺たちは待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所に着くと、結茜さんと鬼頭さんの姿が見えなかった。一応、周囲を見渡してみたが見つからなかったので、まだ着替え中のようだった。
「もし静香が委員長にちょっかいだしながら着替えをしていたら、もう少し時間掛かるかもね」
待ち時間をどう潰そうか考えていると、佐伯くんが横から言ってきた。
確かに鬼頭さんは結茜さんに対して色々と興味がありそうだったから、着替えの時はちょっかいを出している可能性はあるな。
「それじゃあ、俺たちは熱中症対策の為に自販機で飲み物でも買って飲んでいようか」
「プールに入る前に熱中症になったら大変だしね」
自販機の元に行き、各々の飲み物を買って水分補給をした。……水分が体に染みる。
そして日陰に移動し、結茜さんたちが来る待っていると背後から肩を叩かれた。
後ろを振り向くと、二人の女性が立っていた。
「君たちカッコいいね! もし時間があるなら、少しだけお姉さんと遊ばない?」
茶髪でスタイル抜群のお姉さんは優しか微笑んできた。
「お姉さんたちがお昼も奢るよ?」
黒髪でこちらも負けずのスタイル抜群のお姉さんは、茶髪のお姉さんに肩を回して聞いてきた。
これは世間一般で言うところのナンパだな。
で、女性から来ているから逆ナンになるな。
……逆ナンされるほど、俺はカッコいい雰囲気を持っていないのに。
すると、お姉さんたちは俺と佐伯くんの左右に一人ずつ横に並んできた。……逃げ場がなくなった。
「君の名前は何て言うのかな?」
佐伯くんの方に黒髪のお姉さんが言った。
「その…俺には彼女がいるので、すみません」
「そうなんだ… だけど彼女に秘密で私と密会するのはどうかな?」
「それでもダメです!!」
黒髪のお姉さんは「フラれたか〜」と、肩を竦めながら苦笑していた。
さすが、佐伯くんだ!!鬼頭さんのことを一途に思い続けていて、男として尊敬するぞ!!
そして———次は俺がお断りをする番だ。
先程から背中に柔らかい感触を感じるが、その誘惑には負けないぞ。
「自分も彼女と来ていますので、お姉さんたちのお誘いには乗れません」
……勝手に結茜さんのことを彼女だと言ってしまい、ごめんなさい。
そう告げると、茶髪のお姉さんは後ろから手を回して密着度が高くなった。
「そんなつれないことを言わないでさ、お姉さんと遊ぼうよ〜 とっても楽しいよ〜?」
そんな裏切る行為をしたら、結茜さんに何をされるか分からないだろ…。この状況を見られたとしても俺は終わるけどね。
……まずは離れて貰わないと。
佐伯くんも心配そうな視線を向けているし。
「遊びませんから!! あと離れてください!!」
「こんな美貌のお姉さんに抱き付かれているのに、そんなことを言っていいのかな〜?」
お姉さんはさらにぎゅっとしてきた。
「そもそもの話、ここでナンパする行為は禁止されているはずですよ? 俺たちがスタッフに伝えたら、もしかしたらお姉さんたちは出禁になりますよ?」
「う〜ん… それは困るな。私たちの夏は始まったばかりだから、ここで出禁になるのはね」
「それはきついから、一旦離れてあげな」
黒髪の女性が言った。
すると茶髪の女性は「は〜い」と言って、密着していた腕をゆっくりと離した。
「それじゃあ、連絡先を交換しない? これならナンパにはならないでしょ?」
どうにも諦めきれないのか、茶髪の女性は胸の前で腕を組みながら聞いてきた。
……だから、それもナンパなんですよ。
あと誘惑されても、俺は頷きませんからね。
「なりますよ…。 なので、連絡先を交換することはありません」
「どうしたら、私と遊んでくれるのかな〜?」
「遊びませ———」
再度、俺が断ろうとすると、背後から怖い声が聞こえてきた。
「お待たせしました。 それで、こちらの密着しようとしている女性は誰かな、私の彼氏くん?」
「私もとても気になるから聞きたいな〜」
後ろを振り向くと、鋭い眼光で俺と茶髪の女性を交互に眺めている結茜さんがいた。鬼頭さんに至って、相変わらずのほほんとして聞いてきた。
諸事情によりこれから不定期更新になります。
ブクマをしてお待ちください。
よろしくお願いします。
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