第59話
「忘れ物はないな」
今日は俺、結茜さん、佐伯くん、鬼頭さんの四人でプールに行く約束の日。
その為に持ち物を確認していたのだが、事前に用意はしていたのですぐに終わった。
「待ち合わせ時間までは…余裕があるな」
部屋の時計を確認すると午前八時。
待ち合わせの時間は午前九時に駅前なので、三十分程余裕はあった。
部屋にいてもやる事がなく暇なので、荷物を持ってリビングに移動することにした。
「あれ? お兄ちゃんが早起きしているなんて珍しいね」
リビングに入ると、俺に気付いた紫音が声を掛けてきた。
そして持っていた鞄に目を向けると、飲み物を一口啜ってから言葉を続けた。
「どこかに出掛けるの?」
「遊園地のプールに出掛けてくるよ」
「だーれーと行くのかな〜?」
何かを察したのか、紫音は楽しそうしながら聞いてきた。
「その…」
これは…素直に答えてもいいのか。
紫音は七蒼さんと裏で何かを企んでいるのに、結茜さんと出掛けると言うのは…。
厳密には二人きりではないけど。
「お兄ちゃん、早く教えてよ〜」
紫音は頬を膨らませた。
「はぁ…分かったよ」
俺は話をする為に、紫音の隣に移動した。
「プール行くメンバーだけど、紫音が考えているような二人きりではないからな」
「……えっ。 私、そんなことは一つも考えていないけどなぁ〜?」
紫音は斜め上を見ながら言った。
この様子は絶対に考えていたな。
先に先手を打っておいて良かった。
「嘘つけ…。 とりあえず、今回は四人で行くことになるんだけど、その内の一人は結茜さんだから」
「やっぱり、結茜お姉ちゃんはいるんだね!」
「何で嬉しそうな表情をしているんだよ…」
「だって、お兄ちゃんと結茜お姉ちゃんが一緒に行動しているのは、妹として嬉しいから」
「ごく普通の友人関係としてなら、遊びに行くのも当然だろ?」
すると紫音がジト目でこちらを見つめると、直後に大きなため息をついた。
「お兄ちゃんはダメダメだね〜」
「何で妹にダメ出しされないと行けないんだよ」
「それは———自分で考えないとダメだよ」
そう言って、紫音は飲み物を一口啜った。
一体何だったんだ…? 俺と結茜さんは友人関係で間違いないし、それの何が間違っているというんだ?……よく分からないな。
それから数十分程考えていると、紫音が俺の肩を軽く叩いてきた。
「考えているところ悪いんだけど、待ち合わせ時間は大丈夫なの?」
そう言われて視線を時計に向けると、時刻は八時四十分を回っていた。
家から駅前までは歩いて十五分程なので、もう家を出ないと間に合わない時間になっていた。
「やば…!? もう行かないと!!」
俺は椅子から立ち上がり、荷物を持って急いで玄関まで向かった。
「鍵は私が閉めてあげるよ!」
「助かるよ。言い忘れていたけど、今日は帰りが遅くなるから夕飯はいらないから」
「ほ〜い!」
そして俺は待ち合わせ場所の駅前に向かった。
走ること一〇分。時間ギリギリに駅前に着き、改札口に行くと三人の姿が見えた。
「お待たせ…しました…」
俺は息を切らしながら三人に挨拶をした。
「雪翔くん遅刻ギリギリだよー!!」
「息切らしているけど、大丈夫?」
「御影くん、おはよう」
結茜さん、鬼頭さん、佐伯くんの順に口を開き、それぞれ挨拶をしてきた。
いや、結茜さんに至っては挨拶というよりも、少し怒り気味かな。
「色々あって家を出るのが遅れて、ここまで走って来たからね」
「その話、とても詳しく聞きたいのだけど!!」
鬼頭さんが目を輝かせながら近づいて来た。
「全然面白くないよ? 俺と妹の日常会話だし、あと個人情報的なことがあるから、鬼頭さんと佐伯くんには聞かせることは出来ないかな」
「ってことは、委員長には話せることなの?」
鬼頭さんは首を傾げて言った。
「まあ話せることには話せるけど…」
結茜さんの方をチラッと見ながら言った。
「ふ〜ん、委員長には話せることなんだ〜」
「妹もそうだけど、何で俺が結茜さん関連の話をすると、皆んなニヤけ顔になるんだよ」
「それに関しては詳しくは言いたくはないね〜 いまの状況が一番楽しい時期だしね〜」
腕を組みながら、頷く鬼頭さん。
佐伯くんが手を挙げて言う。
「そろそろ電車が来る時間だから、話の続きは電車の中でしない?」
「だね! 一本乗り過ごすと、次来るまで五分以上は待つことになるしね!」
「この蒸し暑さの中で待つのはきついな」
「私も暑いのは嫌だな」
満場一致になったので俺たちはホームに降り、そして数分程待つと電車が来たので乗り込んだ。
電車内は休日ながらも少しスペースが出来ているが、座席は全て埋まっていた。……まあ四人分の席が空いていなかったら、座れないけどね。
そして俺は結茜さんの方に視線を向けた。
着いた時は呼吸を整えるのに精一杯で気付かなかったけど、今日の結茜さんは委員長モードと不良美少女モードの間の雰囲気だった。
「そんなにジロジロ見られたら、さすがの私でも恥ずかしいのだけど」
そしてジト目を向けてきた。
「ごめん。 今日の結茜さんは色々とモードが混ざった格好をしているなと思ってね」
「それは騒がれたら大変だからね。 だけどカツラはプールで邪魔になるから、精一杯の抵抗として委員長モードの眼鏡なんだよ」
精一杯の抵抗の眼鏡は分かるけど、それに対して他の部分が目立ちすぎるんだよな。
髪色は茶髪、上半身は五分袖のストライプシャツ、下半身はデニムジーンズ。
これは別の意味で騒がれそうだけど———カッコ可愛いので言葉を飲み込むことにした。
……まあ俺が守ればいいだけの話だしね。
「な…なるほど」
「絶対にプール会場まではバレたくないからね!」
「それに関しては、会場に着いてからもバレないようにしてほしいかな」
折角、四人で楽しく遊んでいるのにナンパ男とかが近寄って来たら不愉快だからね。
「ふっふふ。 もはや堂々としていれば、一般人にはバレることはないかもね!」
「それだと逆にファンにはバレますと言っているようなものだよな?」
結茜さんはサムズアップして言う。
「まあ普通にしていれば大丈夫だよ!」
何が大丈夫なのか分からないけど、結茜さんがそれでいいと言うなら俺は何も言わない。
そしてプールの最寄り駅まで、それぞれ会話をしながら時間を潰した。
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