第58話

「……生クリーム飽きた……」


 カップル限定パフェを食べ始めて五分程経ったとき、結茜さんがボソっと呟いた。


 パフェの生クリームの量は普通に比べたら多いけど、二人で頑張れば食べきれる量ではある。それでも飽きてしまうのは味が濃いからである。


 実際、俺も生クリームには飽きてきていた。


「結茜さん、果物と一緒に生クリームを食べれば新鮮に感じるかもよ?」

「本当かなー?」


 結茜さんは半信半疑の視線を向けてきた。


「俺も試してみるから一緒に試さなさい?」

「分かった」


 そう頷くと、結茜さんは器の端に引っ掛かっていたメロンを手に取り、スプーンで生クリームを乗せた。

 俺も続いてオレンジを手に取り、そして生クリームを乗せた。


 そしてお互いに視線を合わせ頷き、それぞれの果物を口に運んだ。


「……」

「……」


 数秒程、果物と生クリームを味わい、もう一度結茜さんと視線を合わせた。


「……これオレンジケーキだわ」

「こっちもメロンケーキだったよ…」


 そしてお互いに苦笑した。


「よくよく考えたら、二つともケーキであるから絶対に合うに決まっているよね」

「なんか、馬鹿な提案したみたいで恥ずかしい…」


 段々と恥ずかしくなり、俺は手で顔を覆った。


「全然恥ずかしいことはないよ! それに私だって気付かなかったからお互い様だよ」


 指の隙間から視線を向ければ、結茜さんは優しい微笑みを向けていた。

 

 そしてパフェの器に人差し指を向けながら言葉を続けた。


「それよりもパフェの中にあるアイスが溶け始めているから早く食べよ!」


 結茜さんに言われてパフェに目を向ければ、器の中間にあるバニラアイスが溶け始めていて、下にあるチョコブラウニーに染みていた。


 パフェの中にあるアイスは溶け始めが美味しいんだよな…。他の素材にバニラアイスが染み渡り、生クリームとはまた違った食感を味わえる。


「そうだね。 一旦、アイスのある中間までを目標にして食べて行こうか」

「だね! 目標があれば、生クリームにも負けずに食べ進めることが出来そうだし!」


 結茜さんは微笑しながらスプーンを持ち、再度彼女側にある生クリームに挑戦していた。


 俺も苦笑しながら「そうだね」と頷き、そしてスプーンを持ってこちら側にある半分を食べ進めた。

 

 それから食べ進めていき、アイスとチョコブラウニーの場所に到達すると、ふと結茜さんが口を開いた。


「そーいえばさ、雪翔くんが私の家に一泊する話は聞いた?」


 そう聞きながら、結茜さんはチョコブラウニーにアイスを乗せて口に運んだ。


「一応、その話は紫音から聞いたけど……そもそも俺の知らないところで話が進んでいたんだけど」


 ついこの間、夕飯を食べている時に紫音が何かを思い出したかのような表情をすると、すぐにニヤリと口角を上げて伝えてきた。


 その時に伝えられた内容は初耳だったこともあり、すぐに理解が出来なかった。……持っていた唐揚げが皿に落ちたんだよな。


「私もさ、お姉ちゃんに伝えられるまで何も知らなかったんだよ」


 どうやら結茜さんも被害者らしい。


 ということは———


「この件は紫音と七蒼さんの二人が中心になって計画されている可能性が高いね」

「だよね。 そもそも計画しているなら、ギリギリまで秘密にするべきだと思うの」


 結茜さんはこちらにスプーンを向けてきた。


「だけど紫音や七蒼さんは秘密にすることはなく、俺たちに話をしてきた」

「絶対に裏があるよね」


 そう言って、もう一度結茜さんはチョコブラウニーを口に頬張った。


 結茜さんの言うことには一理ある。

 あの二人が何の脈絡も無く伝えてくるはずがない。絶対に裏があって、それを実行するにあたって伝える必要があったのだろう。


 そうなると、結茜さんには詳しく伝えそうだな。


「これは俺の勝手な憶測だけど、近々結茜さんにだけ続報が伝わると思う」

「私だけ? それって、何か意味あるのかな?」


 結茜さんは首を傾げた。


「これも憶測に過ぎないけど、その…水着を見せたいことと関係あると思って」


 なるべく周囲の人に聞こえないように小声で結茜さんに伝えた。……お洒落なお店で水着の単語はまだ恥ずかしさが残るな。


「な…なるほど。 確かにその考えは間違ってはいないと思うけど、一泊するということは……」


 何を想像したのか結茜さんは急に顔を赤くした。


「どうしたの?」

「な…何でもない!!」


 そう言って、結茜さんは器の端にあった最後のメロンを手に取って口に運んだ。


「あっ!! 最後のメロンを食べたな!!」

「ふふっ…早く食べないのが悪いんだよ〜!」


 結茜さんはドヤ顔で言い、そのままメロンを齧った。


「はぁ…俺はオレンジで我慢するよ」

「雪翔くんはオレンジが似合っているから、オレンジは雪翔くんにあげるよ」


 オレンジが似合っているって…どうゆうこと?

 俺はオレンジ色は似合わないと思うんだけど。


「ごめん。 ちょっと、何を言っているのか分からないんだけど」

「あはは。 私も何を言っているのか分からないや」


 頬を掻きながら彼女は言った。


「それで一泊する話は受けるつもり?」


 そして表情を戻すと、聞きながら首を傾げた。

 

「まあ結茜さんがいいなら、俺は受けるつもりだけど。 結茜さんはいいの?」


 一応、中之庄家に泊まる話なので、結茜さんも納得した形で泊まりたい。……それに女性の家だから、問題とか起きたら大変だしね。


「まあ…私は別に構わないけど。 お姉ちゃんも家にいる・・・・ことだし」

「そうだよね。 それならご好意に甘えさせて泊まらせてもらおうかな」

「紫音ちゃんも来れるといいね!」

「どうだかね〜 憧れの姉妹と泊まれるから来る・・かもね」


 俺たちはパフェを食べ終え、そして結茜さんはおかわりと言ってケーキを取りに行った。


 その後ろ姿を見ながら、また一つ夏休みの予定が出来たことに俺は少し嬉しくなっていた。

 

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