第57話
店内に入ると目の前にはバイキングのケーキが陳列されていて、右側には客席が広がっていた。
そのまま店員の案内で席に通されて、俺たちはその席へと座った。そしてメニュー表の説明をすると店員はお辞儀をしてスタッフルームへと戻った。
「いろんなセットがあるんだね〜!」
早速、メニューを開いて見ていた結茜さんが目を輝かせながら呟いた。
それを聞き、俺もメニューを見せてもらうと確かにセットメニューは三つほど書いてあった。
一つ目がケーキバイキングセット。
これはケーキバイキングとドリンクバーが付いているよく見るセットメニューだ。
二つ目が入り口で見かけたカップル限定ケーキバイキングセット。これに関しては見たまんま通りにカップル専用のパフェが一つ付いてきて、あとはケーキバイキングと同じ内容だ。
三つ目がコラボケーキバイキングセット。
文字通りにアニメやアニソン歌手などとコラボしたメニューに加えて、ケーキバイキングと同じだ。
そして共通されるのが時間制限で三つとも90分制となる。
「雪翔くんはどのメニューにするか決めた?」
結茜さんがメニューを見ながら聞いてきた。
その質問に答える為に、メニューを指差しながら俺は答えた。
「普通のケーキバイキングセットにするよ」
「次の機会は無いかもしれないのに、本当にケーキバイキングセットでいいのかな?」
……それ以外に何があるというのだ?
カップル限定は無理だし、コラボセットに関しては興味ないコラボだから……ケーキバイキングセットしか残らないんだよな。
「それしか選択肢ないからね」
「本当にいいのかな? この私がいる時しかカップル限定のパフェを食べれないんだよ?」
食い気味に結茜さんが聞いてくる。
これは…結茜さんがカップル限定のパフェを食べたいだけなのでは?だけど入り口では興味ないと言っていたけど———聞いてみるか。
「単刀直入に聞くけど、結茜さんが限定パフェを食べたいだけなのでは?」
そう聞くと、結茜さんは罰が悪そうに視線をずらし、そして口を開いた。
「そ…そんなことはないよ。 ただ雪翔くんがパフェを食べたそうにしていたから」
「そんな視線を俺はいつどこでしていたのかな?」
「列に並んでいたとき」
「俺はパフェなんかに視線を向けていないぞ」
「だけど店内の様子を見るフリをして、カップルたちが食べていたパフェを見ていたじゃん〜」
それは男性の客が少ないなと思って眺めていたから、結茜さんの言っていることは間違っている。
「それは違う。 店内の様子を見ていただけだし」
「もう雪翔くんは素直じゃないな〜」
「いや、これが頑固とか関係ないから」
「それじゃあ、カップル限定ケーキバイキングセットを頼んでもいいかな?」
お願い、と手を合わせながら微笑んできた。
はぁ…仕方がないな。
本当は普通のケーキバイキングが良かったけど、結茜さんに頼まれたら断れないな。
「はいはい。 結茜さんの好きなように注文してもいいよ。 俺はそれに従いますから」
「本当にいいんだね?」
俺は肯定の意味を込めて頷いた。
そして結茜さんはベルを鳴らして店員を呼んだ。
「お待たせしました。ご注文をお伺いします」
店内さんはハンディ機を操作しながら聞いた。
「カップル限定ケーキバイキングセットを二つお願いします!」
「かしこまりました。 こちらのセットですがパフェはお一つだけになりますが宜しいでしょうか?」
「それは一つのパフェが大きいってことですか?」
「はい。二人で取り分けるサイズになっていますので、普通のサイズよりは大きいですね」
「それなら、大丈夫です!」
「かしこまりました。 それでは、いまから90分間ごゆっくりケーキバイキングをお楽しみください」
店内さんはお辞儀をしてスタッフルームへと戻っていった。
注文を終えた結茜さんはメニューを机の端に立てかけると、視線をこちらに向けてきた。
「それじゃあ、交互にケーキを取りに行こうか」
「なら、先に結茜さんからいいよ」
「ありがとう!」
結茜さんは微笑して答えると、その場から立ち上がりケーキが陳列されている場所へと向かった。
それから数分程経ち、結茜さんがお盆にケーキを乗せたお皿と飲み物が入ったコップを乗せて戻ってきた。
「お待たせ。 魅力的なケーキが沢山あって、どれを選ぼうか悩んだよ」
結茜さんは苦笑しながら言った。
だけど、結茜さんが持ってきたお皿には五種類程のケーキが乗っているので欲張りセットだなと思ってしまった。……全部で何種類あるのか分からないけどね。
「それじゃあ、俺も取りに行ってくるよ」
「いってらっしゃい〜!」
結茜に見送られながら、俺はケーキが陳列されている棚へとやってきた。
陳列されているケーキは全部で一〇種類程で、結茜さんが半分を取ったことは一目瞭然だった。
(本当に欲張りセットだったよ)
そんなことを思いつつ、俺はお盆とお皿を取ってケーキを選ぶことにした。
どのケーキも結茜さんの言う通り魅力的で美味しそうなので、確かに選ぶのは難しかった。
そして数分程経ち、俺は四種類のケーキをお皿に乗せ、飲み物を取って席へと戻った。
席へと戻ると、結茜さんは二種類のケーキを既に食べていた。……我慢出来なかったのか。
それをスルーして、俺は話し掛けた。
「結茜さんの言う通り、美味しそうなケーキが沢山あって悩んだよ」
「ふぁよえ!」
口にケーキを入れたまま返答したので、何を言っているのか分からなかった。
それよりも“幻の妹“が行儀悪いことをしてはダメだろ。委員長の姿でも墓穴を掘って、羽衣結茜だとバレたら大変だし。
「ちゃんと飲み込んでから話をしてね」
結茜さんは頷くと、ゆっくりとケーキを咀嚼し、最後に飲み物で飲み込んだ。
「魅力的なケーキが多かったよね!!」
「その魅力に負けて、結茜さんは全一〇種あるケーキを半分も取ってきていたもんね」
「そうなんだよ〜 選べなくて沢山取ってきたよ」
満面の笑みを浮かべる結茜さんに、少し意地悪なことを言うことにした。
「そんなにケーキを食べて、モデルの仕事に支障は出ないのかな?」
決して、悪気があって言っている訳ではない。
ただ一人のファンとして心配しているだけだ。
結茜さんは頬を膨らませながら睨んできた。
「雪翔くん。 好きな物を好きなだけ食べて何が悪いの? それに体重管理に関しては、ちゃんと計算しているから心配はないよ」
「そ…そうなんだ。 さすがモデルさんだね」
そんな訳あるか!! 体重管理をしていても、絶対に誤差が生まれるはずだ。
その誤差をなくす為に、結茜さんがジムで必死に運動している姿が想像できる。
「お待たせしました。カップル限定のパフェになります」
すると、店員さんがパフェを持ってやって来た。
そしてパフェを机の真ん中に置き、専用のスプーンをそれぞれの前に置くとお辞儀をし、踵を返してスタッフルームへと戻った。
「生クリームの量が凄いな…」
「とっーても美味しそうだね!」
それぞれ感想を言い、俺たちは本番のパフェに取り掛かることになった。
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