第55話
「それで話は戻るけど、夏休みの海水浴はいつに行く?」
そう聞くと、鬼頭さんは自分のチョコパフェを一口食べて幸せそうな顔を浮かべた。
結茜さんはショコラケーキを食べていたフォークを止めて、目を大きく見開いた。
「やっぱり二人とも来るんだね」
「もちろん!! だけど海水浴がダメなら、私たちとはプールにする?」
「プールか…」
結茜さんはボソっと呟きながら、俺の方に視線を向けてきた。
どうしようか、と言いたいのだろう。
そうだな…。海水浴には俺たちの他に紫音と七蒼さんがいるから、鬼頭さんたちとはプールの方がいいかもしれないな。
「俺は大丈夫だよ」
「雪翔くんが大丈夫なら、私も大丈夫だよ」
俺の返事の後に結茜さんが返事をすると、鬼頭さんはじーっと見つめてきた。
「最近思うんだけど、委員長と出掛けたい時は必ず御影くんの返事がないとダメだよね」
「そ…そんなことはないよ!?」
結茜さんは必死に否定した。
その否定を、鬼頭さんは首を横に振って反論した。
「そんなはずはない! 七音も思うよね?」
「確かに最近の委員長の行動は、御影くん基準になってきているかもね」
「佐伯くんまで何を言っているのかな?」
優しい微笑みを佐伯くんに向けた。
と、同時に俺の足に急に痛みを感じた。
足元に視線を向ければ、結茜さんが俺の足を踏ん付けていた。……これは私のフォローをしなさいと言うことか?
だけど現状のことを考えれば、あながち間違ってはいないだろう。……それにしてもフォローって言っても、何を言っても地雷になりそうなんだよな。
とりあえず、話題を変えることにした。
「それでプールはいつ行く?」
「おっ! 急にやる気を出してきてどうしたのかな〜?」
「別に特別な意味はないよ。 ただ予定を早く決めてほしいなと思って」
「ふ〜ん…」
鬼頭さんはニヤケながら、俺の方に視線を向けてきた。
「まあいいけど。 んで、やっぱり行くなら土日のどっちかがいいよね〜」
「何故、土日?」
「土日だと人が多そうだよね」
「静香、土日がの理由を教えてくれない?」
「もちろん!」
鬼頭さんは人差し指を立て、言葉を続けた。
「土日を選んだ理由はただ一つ! それは土日だと花火大会が開催されるからだよ!」
あっ…花火大会の存在を忘れていたわ。
確かに遊園地のプールには花火大会が行われる所が多い。……花火とか何年も見ていないから、久しぶりに見たいかも。
結茜さんの方に視線を向ければ、ボソっと何かを呟いていたので耳を傾けた。
「(花火大会…行きたいな)」
どうやら結茜さんも行きたいようだ。
「どうかな?」
鬼頭さんは首を傾げながら聞いてきた。
「仕方がないわね。 鬼頭さんの言う通り、土日のどちらかにプールに行きましょう」
「俺は静香の行く所なら、どこへでも着いていくよ」
「もう七音ったら、恥ずかしいこと言わないでよ〜!」
鬼頭さんは佐伯くんの腕をぽかぽかと叩いた。佐伯くんは優しい微笑を向けていた。
すると結茜さんが声を掛けてきた。
「雪翔くんも花火大会に行くよね?」
「もちろん。 俺も久しぶりに花火大会に行って、花火を見たいと思ったし」
そう答えると、結茜さんは嬉しそうな表情を浮かべた。……この笑顔をされたら、断ることは出来ないよな。
それに友達との花火大会は人生で初めてだから、心のどこかでワクワクしている自分がいる。
「いまから花火大会が楽しみだね」
「だね! あと、さっき久しぶりって言ってたけど、雪翔くんが最後に行ったのはいつなの?」
「確か、あれは…小学生五年の頃だったかな」
その辺の記憶が曖昧なのだ。
だけど中学生の時には行った記憶が無いから、小学生の頃であっているはずだ。
「それだと五年振りくらいになるんだね。 五年も経つと花火大会のバリエーションも増えてそうだね」
「確かに増えていそうだけど、俺は特大の花火やプールの近くでやるナイアガラが好きだったな〜」
特大の花火は夜空に打ち上がった時に幻想的に広がるのが綺麗だったし、ナイアガラに関しても最初から最後まで目が離せない。
「今度の花火大会でもあるといいね!」
「そうだね。 折角だし、結茜さんにもオススメの花火を見てもらいたいしね」
「そんなに期待値上げてもいいのかな〜?」
結茜さんは口角を上げながら、肘でグイグイしてきた。
「大丈夫!」
それに対して、俺は自信を持って返答した。
「おやおや〜 こちらがイチャイチャしている時に、それら側でも何やら面白いことになっていますね」
鬼頭さんがニヤけ顔を浮かべながら言ってきた。
てか、自分でイチャイチャしていた事を認めたよ。本当に隠す気なくなってきているよな…。
「何も面白いことはありませんよ。 普通に雪翔くんと花火大会の話をしていただけだから」
「その花火大会の話で盛り上がっていたじゃん〜 私の目は見逃さなかったよ〜!!」
「いやいや、佐伯くんと戯れていたから見逃すも何も、まず見れていないでしょ」
鬼頭さんは指を振りながら口を開いた。
「御影くん、それは違うよ。 私は戯れながらも視線を常に二人の方に向けていたのさ! っね、七音」
「確かに視線を俺の方ではなく、御影くんたちの方に向いていたね」
「鬼頭さん…貴方の視野の広さには驚きだわ」
ほんと耳も半分地獄耳ぽいし、視野まで広いとなると、鬼頭さんの前では下手なことが出来ないな。
俺は結茜さんの言葉に頷いた。
「ふふふ…だからこそ、この視野の前では何もかもお見通しなのだよー!」
鬼頭さんはドヤ顔で言った。
「ご忠告ありがとう。 それを踏まえて、今後は対策をさせてもらうね」
「えっ…ちょっと、対策しないで〜」
「……」
「七音〜 委員長が無視するよ〜」
鬼頭さんは涙目になりながら、佐伯くんに軽く抱きついた。
佐伯くんは頭を撫でながら口を開いた。
「今のは静香が悪いから、とりあえず大人しくしていようね?」
「………分かった」
「という訳で、委員長もいいかな?」
「まあ何がどういいのか分からないけど、佐伯くん次第で考えてあげるわよ」
「ありがとう」
いまの話の内容的に佐伯くんが鬼頭さんの監視を怠らないなら、今回の件は考え直そう的なことを言っているんだろうな。
……あれだけの会話でここまでの話をしているかもしれないんだから、この二人は凄いかも。
その後、俺たちはプールの予定をさらに詰めていき、粗方決まったところで解散となった。
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