第54話

 あっという間に期末テストが終わった。

 出来栄えを聞かれれば、まあ赤点は取らない程度の点数は取れたとは思っている。


 そして現在、俺は結茜さんと佐伯くんと鬼頭さんの四人で夏休みの予定を立てるために、近くのファミレスに来ていた。


「それにしても、委員長は外にいる時は美少女モードにはならないんだね」

「なりませんよ。 ここで羽衣結茜を出したら、騒ぎになって大変でしょ?」


 結茜さんの言い分は正しい。ここで羽衣結茜の格好になれば、かなりの騒ぎになってお店にも迷惑になる。そして羽衣結茜が男といたと噂されれば、週刊誌のネタになる。


 週刊誌に載ることは、絶対に起きてはいけないことだ。


「なるほど!」


 鬼頭さんは納得したようで、ドリンクバーで取ってきた飲み物を一口啜った。  


「それで夏休みの予定だけど、いつ海水浴に行こうか?」

「な…何故、貴方たちと一緒に海水浴に行くことになるの?!」

「俺も初耳なんだけど!?」


 元々、海水浴に行くのは俺と紫音、そして中之庄姉妹の四人で行く予定だったはず。

 だけど鬼頭さんの発言から予想するに、俺たちの海水浴に着いて来るような口振りだ。


 佐伯くんの方に俺は視線を向けた。


「この間、二人で秘密の話をしていた時ら全て聞こえていたらしいんだよね」

「あの時は『気になる』と言っていたけど、実際は全部聞こえていたんだね…」

「それは…辛い」

「その話を聞いて私は思いました。 委員長の素敵な体に身に纏った水着を見たいと!!」


 うん。これに関しては一つ分かることは、鬼頭さんは変態要素があることだ。


「佐伯くんの彼女にこんな事を言うのは悪いんだけど、鬼頭さんって変態要素あるよね?」

「その…最近の静香は欲望に忠実でね」


 佐伯くんは頬を掻きながら苦笑した。


「そ…そうなんだ。 一体、鬼頭さんに何が起こったんだろうね?」

「とりあえず、俺から言えることは百合の方には走らないでほしいってことかな」

「大丈夫だよ。 佐伯くんという最高な彼氏がいるんだから、百合にはならないよ!」

「だと良いんだけどね」


 二人で顔を合わせながら微笑の笑みをしていると、不満そうな声が聞こえてきた。


「ちょっと、二人の会話の内容酷くない? 私が変態やら百合に走るとか走らないとかで、勝手に盛り上がらないでほしいのだけど」

「いやいや、結茜さんの素敵な体って表現だけで、変態要素あるでしょ」

「ごめんって。 でも、さっきの静香の話した内容だと、そう考えてしまうのは仕方がないでしょ?」

「まあ七音は彼氏だから大目に見てあげるとして、御影くんは見逃せないな〜」

「………っは?!」


 何も変なことを言っていないのに、何故見逃せないことになっているの?!

 それとは別に結茜さんは何故か睨んでいるし…。


「どうして見逃せないかというと、それは私のことを変態扱いをしたからです!」

「佐伯くんの百合発言はいいのかよ…」

「さっきも言ったけど、七音は彼氏だから大目に見てあげているの。 だけど御影くんに関しては———これは私が言うことではないね」


 鬼頭さんは結茜さんに視線を向けた。

 そして視線を向けられた結茜さんはコクリと頷き、俺の方に視線を向けて口を開いた。


「雪翔くん。私が睨んでいる理由は分かる?」

「その…分かりません」


 それを聞き、結茜さんはため息をついた。


「もう少し感を良くしないとダメだよ。それで睨んでいた理由なんだけど、まるで私の体を変態扱いしたように聞こえたからよ」

「そんなつもりで俺は言っていないよ?!」

「だとしても、聞いていて複雑な気持ちになったのは事実なのよ」

「それは…ごめん」


 確かに結茜さんへの配慮が足りていなかったと思う。だからと言って、足まで踏むのはやりすぎだと思うのは俺だけかな…?


 そう思っていると、突然結茜さんは口元を緩ませて、そして耳元に近寄って囁いてきた。


「(だけど…雪翔くんの為にトレーニングをして、体を絞っているから少しは期待しててね…)」


 耳元から離れると、再度微笑して飲み物をストローで一口啜った。


 いまのは一体…何だったんだ。

 足を踏みながら睨んできて怒られたと思ったら、今度は小声で甘い言葉を囁いてきて。


 ……これがツンデレというやつなのか?

 もしそうなら、ツンデレ結茜さんもいいかも。


「またしても二人して秘密の会話をしている〜!! 今度は何の話をしていたのー?」

「どうせ、私が話していたことは全て聞こえていたのでしょ?」

「今回に限っては本当に何も聞こえなかったよ。 七音も全く聞こえなかったよね?」

「確かに委員長の話し声は、こちら側には全然聞こえなかったよ」

「う〜ん…」


 腕を組みながら考える素振りをする結茜さん。

 そして一つ頷くと、俺の方に視線を向けた。


「この二人の会話を信用してもいいと思う?」

「多分、信用しても大丈夫だと思う。 根拠としては雑音の中で小声を聞き取るのは難しいから」

「なる…ほど」  


 そして一つ頷き、今度は二人に視線を向けた。


「分かった。 今回は信用してあげるけど、もし前回みたいに盗み聞きするようなことをしたら、今度は罰を受けてもらうからね?」

「その罰とは…?」

「それは———ひ・み・つ・だよ」


 優しい微笑みを向ける結茜さん。

 その微笑みは口元は笑っていたけど、目はとても笑っているようには見えなかった。


 鬼頭さんも何かを察したのか、ただ返事をせずに頷くだけだった。その姿を見て、俺は佐伯くんと顔を見合わせながら相変わらず苦笑していた。


 そして———注文していたデザートが届いた。


 

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