第53話
結茜がお出掛けしている休日に、七蒼は自宅にある人物を待っていた。その人物とはある作戦を話し合う為に、結茜がいない日に呼ばれた。
———ピンポーン
待つこと数分。室内にインターホンの音が響いた。それを聞くと七蒼は椅子から立ち上がり、インターホンの受話器を手に取って話し掛けた。
「待っていたよ、紫音ちゃん!!」
「遅くなってごめんなさい」
七蒼が話し掛けると、受話器の向こう側から待ち人である紫音が申し訳なさそうに謝っていた。
「全然大丈夫だよ!」
そう言い、七蒼はエントランスの鍵を解錠した。
そして待つこと一分。今度は玄関口からインターホンが鳴り、七蒼は直で玄関に向かった。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「そんな堅苦しいのは無しだよ! いつもみたいに七蒼お姉ちゃんと呼んでね!」
「分かりました。 改めて、今日はよろしくお願いします七蒼お姉ちゃん」
「はーい! それじゃあ、中へどうぞ!」
七蒼に促されて、紫音は室内へと入った。
室内に入ると紫音は椅子に座り、七蒼はキッチンでカップに紅茶を入れ、それぞれの目の前にカップを置いてから椅子に座った。
そして紅茶を一口啜ると七蒼は口を開いた。
「早速だけど、作戦会議を始めようか」
「そうですねと言いたい所ですが、作戦会議と言われても私は詳しいことは何も知らないですよ?」
「そうだったね。 雪翔くんに情報が漏れることを心配して、詳しいことは一つも言っていなかったね」
「では、その詳しい話とやらをお願いします」
真剣な表情で紫音は言った。
「今回、紫音ちゃんには夏休み期間中に協力してもらいたいことが二つあるの」
「二つですか?」
「うん! 一つ目が夏休み期間中に一泊二日で雪翔くんにこの家に泊まってもらおうと思っているの」
「なるほど…七蒼お姉ちゃんの言いたいことは分かりましたよ」
何かを察した紫音は口角を少し上げ、そして「つまり」と言葉を続けた。
その納得した表情を見て、七蒼は首を傾げた。
「七蒼お姉ちゃんが御影家に泊まりたいということですね。 そして中之庄家に泊まったお兄ちゃんは、結茜お姉ちゃんといい雰囲気にさせようと考えているんですね」
「う、うん。 その考えで間違いはないけど———紫音ちゃんの理解力に驚いたよ〜」
「私はお兄ちゃんとお姉ちゃんたちのことは全てお見通しなのですよ!」
ドヤ顔で言い切る紫音。
それに対して七蒼は苦笑しながらも、やっぱり紫音ちゃんは頼りになるなと思ってしまった。
「それで二つ目は何ですか?」
「二つ目は日程は決まっていないけど、海水浴行く話あったでしょ?」
「その為に、この間水着を水着を買いに行きましたもんね!」
「その時に結茜ちゃんには一肌脱いでもらおうと考えているの」
「もしかして…結茜お姉ちゃんがお兄ちゃんに夜這いを…?!」
「それは魅力的だけど違う〜!!」
紫音の提案に一瞬だけ反応してしまった七蒼。
だけど、ここで肯定してしまったら結茜ちゃんに迷惑を掛かると思って、すぐに否定した。
「私が言いたいのは、結茜ちゃんには海水浴で雪翔くんに告白をしてもらいたいと思っているの!!」
「あ〜 そっちの方でしたか。 私ったら、かなりの早とちりをしてしまいましたね!」
「もう紫音ちゃんは理解力があるのに、偶に暴走する時があるから気を付けないとだね」
「気を付けます! それで結茜お姉ちゃんは告白する勇気はあるのですか?」
紫音の言い分は分かる。
この告白を成功させるには結茜自身が行動を起こさないといけない。例え、七蒼が煽ったとしても、それで結茜が行動するとは限らない。
「勇気の有無は分からないけど、告白する気はある感じだよ。 この間覚悟を決めた顔をしていたから」
「あれだけ否定していたのに、ついに告白する覚悟を決めましたか〜 だけどお兄ちゃんが告白を受け入れてくれるか、ですね…」
「雪翔くんだって、結茜ちゃんのことを好きでしょ? なら、すぐに受け入れてくれるよ!」
「それが出来れば苦労はしていないですよ… トラウマの過去が無ければ良かったのですけど」
「雪翔くんにトラウマがあるの?」
今まで関わってきて、そんな雰囲気は雪翔から一つも感じてこなかった。だからこそ、紫音から発言されたことに驚いた。
それを聞き、紫音はしまったと思ったのか、口元を手で覆い隠した。
「その…詳しい話は私からは言えません。 これに関しては、お兄ちゃんのプライベートに関わるので」
「確かに雪翔くんの知らないところで、雪翔くんの過去を聞くのはマナー違反だよね。 だけど、それで結茜ちゃんの告白に障害が生じるのは…」
「実際、トラウマというものは自分自身で乗り越えるしかないので、お兄ちゃんには頑張ってもらいたいですね」
「そうなんだね。 とりあえず、私たちは遠目から見守ってあげるしか出来ないのかもね」
「そうですね」
二人で協力すれば告白は必ず上手く行くかもしれない。だけど、それは仮初の告白みたいなもので、本当に本人の気持ちになるのか怪しいものだ。
だからこそ、二人は見守ることにした。
「これで夏休みに関する話は終わりだけど、紫音ちゃんお腹空いていない?」
「小腹が空きました…ね」
時刻は午後15時。 この時刻になれば少し小腹が空く時間になるものだ。だからこそ、七蒼は紫音に聞いたのだ。
「この間、とっーても美味しいクッキーを買ってきたんだけど、紫音ちゃんに食べてもらいたくて!」
「是非、いただきます!!」
「ふふふ。 紫音ちゃんは食いしん坊さんだね〜」
少し待っててね、と言ってからキッチンへと向かい準備を始めた。そしてお皿にクッキーを盛り付けて、紫音の目の前にお皿を置いた。
紫音はクッキーを一つ摘むと口に運んだ。
「七蒼さんの言う通り、このクッキーとっーても美味しいです!!」
「気に入ってもらえて良かった! いっぱいあるから、沢山食べてね!」
「ありがとうございます!!」
そして紫音と七蒼は結茜が帰ってくるギリギリの時間まで話をしていた。
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