第52話
ここに高瀬先輩が来てから10分経った。
この間にも結茜さんが先輩を教室から追い出そうと色々と頑張っていたのだが、それを拒否して先輩も追い出されないように頑張っていた。
てか、高瀬先輩は本当に生徒会長なんだよね?
まるで子供みたいな姿で駄々を捏ねていたから、一瞬生徒会長か疑ってしまったよ。
それでも壇上に上がって演説している姿は生徒会長なんだよな。……オンオフ激しすぎるでしょ。
結茜さんはため息をつき、こちらに視線を向けて口を開いた。
「とりあえず目の前にいる先輩は無視して、私たちはテスト勉強の続きをやろうか」
「そうだね」
苦笑しながら返答し、俺は英語を鞄にしまって物理の教科書とノートを開いた。
「ちょっと、二人とも酷くない? 私が目の前にいるのに無視するなんて〜?」
「仕方がないじゃないですか。 私たちはテスト勉強をしているのですよ」
「普段から復習と授業を聞いていれば、テスト勉強は少しだけすれば簡単に点数を取れるよ?」
ま…マジかよ。確かに高瀬先輩は常に成績はいい方だったけど、それだけで点数を取れていたとは。
……とても俺には真似出来ない方法だな。
「それが出来るのは一部の人だけですよ。 ここにいる雪翔くんには到底出来ませんから!!」
ゆ…結茜さん。それは俺の心に深刻なダメージを受ける言葉なのですが…。
「確かに御影くんにはまだ出来そうにないね」
高瀬先輩までも…。二人とも辛辣しますよ。
もう二人の会話を聞いているだけで 泣きたくなりそうだから、物理の勉強に集中しよ…。
「なので、高瀬先輩は生徒会室に戻ってください」
「生徒会室には麻里ちゃんがいて、雑誌をゆっくりと読めないから戻らないよ」
「それなら、別の場所で読んでくださいよ」
「それもダメ! さっきも言ったけど、結茜ちゃんが表紙で載っている雑誌を本人と見たいから!」
「そのこだわりは何ですか? それに他人と一緒に自分の雑誌を見るのは……複雑なんですけど」
「だって、本人がいるんだから撮影当時の話とかを聞きたくなるじゃん?」
「なりません!」
高瀬先輩の押しが強いな。だけど結茜さんも必死に反論はしているけど、これは結茜さんが負けるんだろうな…。
「なら、この表紙に写っている男の子は誰? 他の雑誌でも見たことないし、ネットで検索してもどこにも情報が出てこないんだよね〜」
「 !? 」
雑誌の表紙に目を向けると見たことある服装と髪型———間違いなく一日撮影体験の時の写真だ。
いつの間に雑誌が発売されていたのか…。それにしても、何度表紙を見ても俺に見えないな。
「当然出てくる訳ないよ。 その雑誌に載っているのは一般人を採用しているからね」
「そうなんだ〜! でも一般人の人なのに結構カッコいいよね!!」
やばい…少し口元が緩みそうだ。当時の俺は半信半疑になりつつ撮影したけど、結茜さんファンの人から褒められるのは少し照れま———って、痛?!
突然、右足の脛あたりに強い衝撃を受けた。
目の前にいる結茜さんに視線を向けると、頬を膨らませながらこちらを睨んでいた。
「確かにカッコよかったですけど、それはプロのヘアメイクさんのおかげですよ」
「急に機嫌悪くなってどうしたの?」
「何でもありません」
「それならいいんだけど———それでこの男の子は誰なのか教えてくれないの〜?」
「守秘義務がありますので無理ですね」
「むぅ〜!! それじゃあ、雑誌を見せた時に驚いていた御影くんは知っている?」
「し…知りませんよ」
「え〜!! なら、何で驚いていたの?」
何で…って。 その雑誌に写っているのが俺ですとは言えないし、何て答えればいいものか。
頭を悩ませていると、ガラガラと教室のドアが開いた。そして外にいたのは海野先輩だった。
「あ〜ゆ〜み〜? 生徒会の仕事をサボって、こんな所で何をしていたのかな?」
「ま…麻里ちゃん。 その…私は表紙に写っている男の子が誰なのか気になって…」
「あゆみが言っていることは事実かな?」
海野先輩がこちらに視線を向けて聞いてきた。
「半々ですね。 ですが、九割は生徒会の仕事をサボる為だと言っていましたね」
「ゆ、結茜ちゃん?! それ虚偽報告だよ?!」
「なるほど。 御影くんも同意見かな?」
「えっと…」
返答に言い淀んでいると、高瀬先輩は「嘘を言わないよね」と視線で訴えてきて、結茜さんは「私のことを支持するよね?」と満面の笑みを向けていた。……高瀬先輩のことを守りたい気持ちはあるけど、結茜さんには嫌われたくない。
なら、結論は決まっている。
「結茜さんと同じ意見です」
「うぅ…後輩二人がいじめてくるよ…」
「馬鹿なことを言っていないで、さっさと生徒会室に戻るぞ」
海野先輩は高瀬先輩を立ち上がらせ、そして襟を掴んで教室の扉の前まで移動した。
「それじゃあ、あゆみが邪魔をしたな。二人ともテスト勉強を頑張ってくれ」
「結茜ちゃん、今度絶対に問い詰めるからね!!」
と言い残して、先輩たちは生徒会室に戻った。
残された俺と結茜さんはというと…
「……」
「……」
「……」
「……」
長い沈黙が続いていた。
きっと脛を蹴られたことと関係しているとは思うけど、何故蹴られたのか分からない。
そのことに頭を悩ませていると、結茜さんが口を開き、その沈黙を破った。
「雪翔くんは高瀬先輩にカッコいいと言われて嬉しかった?」
「きゅ…急にどうしたの?!」
「だって、その言葉を聞いた時、雪翔くんの口元が緩んでいたから…」
これは…ヤキモチでは? 高瀬先輩は雑誌の表紙の人にカッコいいと言っただけで、俺に向けては言ってはいない。……まあ表紙に写っている本人ではあるけど、あの時の俺は別人だと考えているしな。
そしたら脛を蹴られたことも納得がいく。
だからといって、ヤキモチで脛を蹴るのはやめてほしいな。……別の方法はなかってのかな。
「確かに口元は緩んでいたけど、それは結茜さんのファンの人に認められたからだよ。 一般人の人が結茜さんと一緒に撮影したと聞いたら、不満が多いのが普通だと思っていたから」
「そう…私の早とちりだったのね。 それなのに脛を蹴ってごめんね。 痛かったよね?」
「大丈夫だよ! これでも脛も鍛えているから!」
本当は痛かったです。だけど結茜さんの不安を和らげることが出来るなら、これくらいのことは我慢は出来る!
「ふっふふ。 なら、また脛を蹴ってもいいかな?」
「蹴られる理由が分からないのだけど?!」
「冗談だよ〜! とりあえず、残り一時間しかないから物理の勉強をやろうか」
「う…うん」
結茜さんの冗談はとても冗談に聞こえないんだよな…。そう思いつつ、俺は物理の教科書とノートに視線を向けた。
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