第51話
夏季休暇。学校などで、夏の一番暑い時期に設ける休暇なのだが、その前に学生には一大イベントがある。それは———
「いよいよ、来週から期末テストになる。 この期末テストで赤点を取ったものは、夏休み始めの一週間は補習があるからな」
そう期末テストがあるのだ。それにしても、ついこの間、中間テストやったばかりだよね。しかも期末テストは赤点を取ったら補習とか、かなり俺やばいかも。
中間テストでギリギリの教科があったのに、少し範囲が広い期末ではかなり危険だ。
「以上で話は終わりだ」
先生は挨拶を終えると、荷物をまとめて足早に教室を出て行った。
そして俺も帰りの支度をしていると、「ねぇ」と話し掛けてきた。視線を向ければ、鞄を持った結茜さんがいた。
「どうしたの?」
「雪翔くんは期末テストの勉強ちゃんとしてる?」
「えっと…期末テストの勉強は…」
「してないのね」
「………はい」
ちゃんとテストがあることは理解しているんだけど、何故か一向にやる気が起きないんだよね。
……これが俗に言う、現実逃避ってやつだな。
結茜さんがため息をつき、呆れた顔をしながら口を開いた。
「とりあえず、いつもの場所に行こうか」
「あれ? 今日って集まる日だっけ?」
「本当なら何もない日だったけど、雪翔くんの話を聞いていたら予定が変わりました」
「ということは…」
「これから空き教室で帰宅時間ギリギリまで、勉強会をやりたいと思います。今回も雪翔くんの苦手な教科を徹底的に教えるからね!」
マジか…。しかも苦手な教科ってことは英語や数学をやるってことじゃん。でも結茜さんの教え方は上手かったから、断る理由はないんだよな…。
「分かった。 よろしくお願いします」
「うむ、よろしい」
俺は荷物を素早くまとめて、結茜さんと共に空き教室へと向かった。
空き教室に着き、机を対面合わせにして座り、そして教科書を机の上に並べた。
「テスト勉強を始めるけど、英語と物理のどちらを先にやりたい?」
「とりあえず、英語でお願いします」
「おーけ! 英語の準備をするね!」
実際、どっちでも良かったんだけどね。
だけど英語の方だとスペルを覚えるのが難しいから、英語を優先させることにした。
結茜さんは準備を終えて、「それじゃあ」と言って言葉を続けた。
「まずは範囲内の英文を訳してみようか」
「それはいきなりすぎませんか…ね。 英文を読む前に単語が分からないんだけど」
「始まる前から弱気なのはダメだよ! 中間の時に英単語覚えたなら大丈夫だって! それに英文で単語を覚えた方が覚えやすいんだよ」
「そ、そうなんですね」
それは結茜さんだから出来ることで、俺にとってはかなりの難易度な気がするんだけど。
「てことで、この英文を訳してみよう!」
「………はい」
俺は指定された部分を訳すことにした。
これは———全く分からない。
中間の時に覚えた単語で少しだけ読める部分はあるけど、前後が分からないから何を書いてあるのかほんと分からない。
「あの…訳すことができません」
「もう仕方がないな〜」
結茜さんは嬉しそうに髪を掻き上げた。
「まずここは誰がどこで何をしているのかという形になっているの。訳すとAさんがホームで新幹線が来るのを待っているという感じになるの」
「なるほど」
「それで次の部分でどこに向かうのかが書かれていて、京都に向かうと書いてあるの。さて雪翔くん、この二つを合体させてみて?」
「Aさんが京都に向かうためにホームで新幹線が来るのを待っている…かな?」
「そうそう、ちゃんと出来ているよ!」
結茜さんが答えを教えてくれているから、ちゃんと出来るのは当然だよ。ほぼ答えがあるのに、これで出来なかったらやばいよね。
………それにしても、ほんと結茜さんは勉強を教えるの上手いと思うんだよな。
勉強が出来ても他人に教えられない人が多いいのに、結茜さんは完璧に要領よく教えてくれる。
そのおかげで中間テストも無事に乗り越えられたしね。
「一つ思ったんだけど、雪翔くんってテスト終わったら勉強したことを忘れるタイプ?」
「な…なんでそう思うの?」
「以前教えた単語が所々忘れていたり、急に読めなくなったりしているから」
結茜さん、正解だよ。
俺はテストが終わったら、興味ない教科に限って基本的に勉強したことは忘れるんだよ。……そのおかげで何度も苦労はしているけど。
「まあ…その…正解です」
「英単語とかに限らず、ほとんどの教科の基礎は暗記だから忘れたらダメだからね?」
「ごもっともな意見だと思います」
「てことだから、これから教えることは忘れずに暗記しましょうね」
「はい」
そして俺は英文の続きを訳すことにした。
◇◆
◇ side 結茜 ◆
いま、雪翔くんは私が出した課題を解くために必死に頑張っている。一度授業で扱った問題だからこそすぐに解けると思ったんだけど、ここまで英語がダメダメだったとは。……いや、中間テストの時から予感はしていたんだけどね。
「そろそろ訳すことは出来たかな?」
「一応、訳すことは出来たけど…合っている自信はないかな」
「一度は授業で取り扱った英文なんだからさ、大丈夫だよ〜!」
「それを言われると…恥ずかしいんだけど」
「ではでは、この結茜先生がちゃーんと訳せているか確認しましょう〜!」
いつか役に立つと思って鞄に仕込んでいた眼鏡を装着して、私は訳したノートに目を向けた。
(うんうん。 所々間違っている箇所はあるけど、ちゃんと解けてはいるね)
間違っている箇所を赤ペンで直してあげて、私は雪翔くんに視線を戻した。
「まだ危うい箇所は多いけど、ちゃんと落ち着いていれば解けているじゃん!」
「あ…ありがとう。 だけど結茜さんの言う通り、テストになるとテンパるんだよね」
「それは自力で克服してもらうしかないね。 あとは自信が上回るように勉強するか」
「そうだよね」
だけど雪翔くんの気持ちは分かるな。
大事な瞬間の時って、何故か頭の中が一杯になって何も分からなくなるんだよね。……私も何度かあったな。慣れるしかないんだよね…。
「とりあえず、英語は何度も繰り返しをしていこうね。それじゃあ、次は物理をやろ———」
「結茜ちゃーん!! 結茜ちゃんが表紙を務めた雑誌を持ってきたよー!!」
次の科目に移ろうとした瞬間、高瀬先輩が空き教室に入って来た。……海野先輩はいないのか。
(あっ、雪翔くんに雑誌渡すの忘れてた。 後日、渡しておかないと)
それにしても雪翔くんと楽しい時間(テスト勉強)を過ごしていたのに、何で邪魔者が入ってくるのかな…。
「いま忙しいので、本日はお帰りください」
「それは無理」
高瀬先輩は頬を膨らませながら、私たちの席にもう一つ机を付けて合わせて座った。
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