第46話

 生徒会役員選挙当日。俺と結茜さんは他の候補者とその応援者の人達と生徒会室へといた。

 何故生徒会室にいるかというと、選挙当日の朝に生徒会長から一日の流れが説明されるからだ。


 そして一日の流れだが、一限目からニ限目までを最後の演説タイムとなり、昼休みの一時間で選挙を終わらせる怒涛のスケジュールだった。


 ちなみに当落発表は翌日の朝になるらしい。


(ほんと詰め込みスケジュールなんだよな)


 他の学校などでは午後に最後の演説をやり、翌日の朝に投票をするらしい。……生徒会役員選挙って、大事な行事じゃないの?!


「それでは体育館に移動する」


 そんなことを思っていると、全ての説明を終えた副会長が移動することを言ってきた。


 副会長が生徒会室を出ると、候補者と応援者たちも後に続いて体育館に向かった。

 最後に俺たちだけになると、結茜さんが微笑しながら声を掛けてきた。


「雪翔くん、私たちも行こっか」

「そうだね。 だけど、随分と元気があるね」

「いよいよ私が選挙に落選をする日がやってきたからね!!」

「当選ならともかく、落選でここまで喜ぶ人は初めて見たよ」

「だって…望まぬ形での立候補だったし」

「そ…そうだね」


 そして俺たちも生徒会室を出て、皆んながいる体育館に向けて歩き出した。



 体育館に着くと、すでに全校生徒が集まっており、ステージ上には演説用の机と候補者たちが座るための椅子が用意されていた。


 ステージ上のセッティングを見て驚いていると、突然服の裾を軽く引っ張られた。


「結茜さん、どうしたの?」

「雪翔くん…色々と緊張してきたよ」

「結茜さんでも緊張することがあるんだね」

「ちょっと、それはどーゆうことかな〜?」

「単純にモデルの仕事をしていれば、人前で話をするのも慣れてそうだなと思って」


 モデルの仕事でも大勢のお客さんの前で仕事をする場合がある。例えば、ファッションショーとか。

 その時に司会者の方に質問をされたりして、質問に答えることもあるはずだ。


 結茜さんは軽く首を振りながら指を振った。


「甘いよ、雪翔くん。 確かにモデルの仕事でも人前で話をすることはあるけど、また話が変わってくるんだよ」

「えっ…と、どうゆうこと?」

「生徒会の演説は私の考えを全校生徒に伝えないといけない。モデルの仕事の時は司会者の質問に答えるだけでいい。つまり、私の考えを上手く伝えることに緊張しているの」

「アピール演説期間中はノリノリだったよね」

「あれは———そう、ヤケクソだよ!!」

「そ…そうなんだ」


 まあ結茜さんにも色々とあるんだろうな。

 とりあえず、“幻の妹“がヤケクソとか汚い言葉を使わないでほしいけど、多分俺の前だけだと思うから大目に見ておこう。


『生徒会役員選挙の候補者と応援者の方はステージ上に集まってください』


 すると体育館にアナウンスが流れた。


「おっと、これは明らかに俺たちに向けてのアナウンスに聞こえるな」

「ふふふ、確かに他の候補者はステージにいる感じだし、明らかに私たちだね」

「なら、急いで向かわないとだね。 とりあえず緊張は解けた?」

「雪翔くんと話をしたから、緊張は完璧に解けたよ!!」


 結茜さんはサムズアップをした。


「それじゃあ、ステージ上に向かおうか」

「だね!」


 そして俺たちは小走りでステージ上に向かった。



 ステージ上に着き、改めて副会長から説明を受けて生徒会役員選挙が始まった。


「それでは生徒会役員選挙を始めます。まず初めに生徒会長からの挨拶です」


 生徒会長が軽く挨拶をし、そして候補者たちに一言伝えると、一礼してステージ袖へと戻った。


 そして候補者たちの演説が始まった———


 演説の順番はくじ引きで決めており、結茜さんは最後に行うことになった。ちなみに鬼頭さんは四番目なので、結茜さんの前になる。……鬼頭さんの後だとやりにくそうだな。


 そう思いながら、候補者による演説が始まった。


 この候補者は書記を希望しているらしく、書記としての仕事を頑張りたい的なことや今後の目標などを語った。応援者の人も候補者のいい所を上げていき、全校生徒の反応もいい感じだった。


 次に二人目の演説が始まった。

 この候補者は広報を希望しているらしく、この学校をどのように近隣の中学校にアピールしたいかを詳しく語った。応援者は中学からの友達らしく、中学校時代に行っていたことを話していた。


 次に三人目の演説が始まった。

 この候補者は会計を希望しているらしく、会計に就いたらどんな改革をしたいかを話をした。応援者もまた改革できることを強く訴えていた。


 ちなみに結茜さんも会計の希望なのでライバル関係になるのだが、明らかにこの候補者の公約の方がウケが良さそうだと感じた。

 

 ……まあ落選することが本望だから、結茜さん的には嬉しいのかな。


 いよいよ四人目の鬼頭さんになった。

 鬼頭さんは書記を希望しており、持ち前のコミュニケーション能力で他の候補者よりかなり盛り上がっていた。その後の佐伯くんの演説で鬼頭さんの評価がかなり上がっていた。


(緊張してきた…)


 そして鬼頭さんと佐伯くんが終わったということは、次は俺たちの番だ。俺は深呼吸をしてから結茜さんの方に視線を向けると、小さくガッツポーズをして「よし…!」とボソッと呟いた。


 そのまま椅子から立ち上がり、結茜さんは演説用の机に向かった。……頑張れ。


 演説用の机に着くと結茜さんは深呼吸をし、


「初めまして。この度、生徒会役員の会計に立候補しました中之庄結茜と言います」


 全校生徒に向けて挨拶をした。


「私が会計に就いたら文化系と運動系の部費を均一にしたいと考えています。これはどの学校でもあることなのですが運動系の部費は遠征費や設備費などで多く出されますが、逆に文化系は何も成績を残せないので部費がほとんど出ません。これらを改革できたらいいなと考えています」


 結茜さんはアピール演説期間中と同じ内容に少しだけ補足を加えた形で発表した。


 これに対して、全校生徒の拍手はまばらだった。

 真面目に拍手しているのは文化系だと、大体の予測は付く。


 そして俺の順番になった。……緊張してきた。

 俺は結茜さんのイメージが下がらないように慎重に応援演説をして、その場を乗り切った。


「これにて候補者たちによる演説は終わりになります。投票は昼休みになりますので全員参加でお願いします」

 

 最後に副会長による投票についての説明が行われて、午前中の演説は終わった。


 そして昼休みになり投票が行われた。


◇◆


 そして翌日の放課後。

 

「う…嘘でしょ。 羽衣結茜ちゃんがこの学校に通っていたなんて…?!」


 いつもの空き教室にて突然やって来た生徒会長に結茜さんの正体がバレた。


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る