第44話

 その日の夜。ベッドでくつろぎながら漫画を読んでいると、横に置いていたスマホが震えた。

 誰だろうと思いながらスマホの画面を確認すると、画面には中之庄結茜と書いてあった。


(あれ…? 電話をする予定はなかったはずでは?)


 そんなことを思いながら、俺は結茜さんからの着信に出ることにした。


「もしもし、どうしたの結茜さん?」

『作戦会議をするよ!!』

「作戦…会議?」

『そうそう! どうやって私が生徒会役員選挙で落選するかな作戦会議をだよ!!』

「な…なるほど」


 確かに作戦会議をするのはいいことだと思うけど、夜にしかも電話になるのは予想外だわ…。


「それで結茜さんはどうやって落選をしたいと考えているの?」

『やっぱり不自然なく、クラスメイトも納得がいくような落選がいいよね。 一応、他薦で選ばれたわけで不真面目だと、私のイメージが下がるから』

「落選したいと考えている人が、自分のイメージを大切にしたいって…矛盾していないか?」

『だからこそ、皆んなが納得出来るような落選方法を考えないとダメなんだよ』


 声しか聞こえないはずなのに、向こう側で結茜さんがドヤ顔をしているのが見える。


 それにしても、皆んなが納得してくれるような落選方法か…。どうせ適材適所的な感じで選んだ可能性があるし、落選してもイメージは下がらないし納得はしてくれると思うんだけどな。


「ちなみにだけど、投票前に行われる全校生徒の前でやる演説で話すことは決めた?」


 候補者の同伴者による応援演説も当選の鍵となるが、一番大きいのはやはり候補者の演説だ。

 ここの演説で全校生徒の半数を納得させれば確実に当然になると思うが、今回はその逆を目指さないといけない。……結茜さんの演説次第で、俺の応援演説も変わるようなものだ。


『……決めてない。だって、いまの学校生活に不満がある訳ではないし、どうせ公約した所で実行できる人なんてほとんどいないでしょ?』

「それはそうだけど…モデルをやっている人が言っていいことなのか?」


 モデルの仕事でも公言をして、それに向けて活動をしていくことがあるはずだ。


『モデル業での公言と生徒会での公約とでは、実現できる差が大きいんだよ。モデルなら頑張れば実現できるけど、学校だと生徒会長や校長先生とかの許可が必要になるじゃん?』

「まあ学校を変えようとするなら、確かに校長先生の許可は必要になるね」

『そう考えると、何も思い浮かばないんだよね』

「そ…そうだよね」


 てか、このままだと結茜さんは簡単な公言を言うことになって、普通に落選するのでは?一応、同伴者として応援演説用に俺も何か考えるけど。


『とりあえず、公約の方は頑張って考えておくけど、雪翔くんもちゃんと考えておいてね?」

「もちろん、そのつもりだよ」

『さすが、雪翔くんだね! あと何度も言うけど、私が当選するような演説は絶対にダメだからね?』

「ちゃんと記憶しているから安心して」

『信じているからね!!』


 すると、結茜さんに『少しスマホの画面を見て』と言われたので、俺は画面を耳から離した。

 そして画面を見ると———画面にはパジャマ姿の結茜さんが映っていた。


「ゆ…結茜さん?! その…俺なんかが結茜さんのパジャマ姿を見てもいいの!?」

『最近の雪翔くんは自分を卑下しすぎだと思うよ?それにこれは雪翔くんにやる気を出してもらう為の報酬だからね』

「ほ…報酬ですか」

『だからこそ、今回の負け選挙をお互いに頑張って乗り切ろうね!!』

「そ、そうですね」


 ここまでされたら、本気で落選できるように頑張らないとダメだな。……それにしても、結茜さんのパジャマ姿可愛かったな。


『それじゃあ、第一回目の作戦会議はこれにて終了だね! 夜遅くにごめんね! おやすみ〜』

「おやすみ…って、 第一回目ということは、この作戦会議は次もあるの?!」


 その答えを聞くまでもなく、結茜さんはスマホの電話を切った。



◇◆



◇ side 結茜 ◇


「おやすみ〜」


 雪翔くんと電話を終えて、私はスマホを充電器に挿した。そしてベッドに寝転んでいると、お姉ちゃんが自室に入って来た。


「結茜ちゃん〜! 電話していた声が聞こえたけど、誰と電話をしていたのかな〜?」

「お姉ちゃん…部屋に入ってくるのはいいんだけど、せめてノックをしてほしいんだけど」

「だって、部屋をノックしても結茜ちゃんは無視をするじゃん〜?」

「ちゃんとした用事なら無視はしないけど、大体意味もない用事が多いじゃん」


 まあ真面目な用事の時もあるから、一概には言えないんだけどね。


「それは気の所為だって。 それで雪翔くんにパジャマ姿を見せるなんて、結茜ちゃんやるじゃない〜」

「もしかして、ドアの前で聞き耳を立ててた?」


 お姉ちゃんに言われて、急に自分がした行動に恥ずかしくなった。それを隠すようにして、私はお姉ちゃんにジト目を向けながら返答した。


「もちろん!こんなにもレアな状況を見逃す訳にはいかないよ!!」

「お姉ちゃんは聞き耳を立てていただけでしょ」

「そうだよ〜 こんなにも砂糖多めの状況を聞けたから、お姉ちゃんはかなり満足しました!なので、ブラックコーヒーでも飲んでくるね!」


 そう言って、お姉ちゃんは部屋を出た。


(詳しい話をしていないのに満足したとか、確実に最初から最後までドアの前で話を全部聞かれていたことになるな… )


 そう思いながらも気を取り直して、私はあまり興味が湧かないような公約を考えることにした。

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