第43話
翌日の昼休み。俺は結茜さんと一緒に生徒会室の前に来ていたのだが———横にいる結茜さんはなかなか気が進まないようで、既に来てから五分は経っていた。
「流石に中に入らないと昼休みが終わるよ?」
「うん…分かっているんだけど、生徒会室に入るのって緊張しない?」
「確かに緊張するな。 生徒会室と聞いて、最初に思い浮かぶのがお堅いイメージだしな」
「あと生徒会メンバーがフレンドリーな人達だと嬉しいよね」
「その辺に関してはだ———」
「大丈夫だよ! この学校の生徒会はフレンドリーだし、生徒会長は優しい人だから!」
俺が『大丈夫だよ』と言おうとした瞬間、後ろから女性の声が聞こえてきた。振り向くと鬼頭さんと佐伯くんがいた。……俺の台詞取られたよ。
「鬼頭さん…俺の台詞を取らないでよ」
「御影くんって、変なところを気にするんだね」
「まあ御影くんがカッコつけようとしてて、静香に横取りされたから気になったんだよ」
「佐伯くん、俺は別にカッコつけてはいないのだけど…」
「なるほど! 御影くんのカッコいいところを奪ってごめんね、委員長!」
「そこで私に言ってくるのが、全く持って分からないのだけど?!」
「まあまあ、それよりも早く中に入らないと待たせている人達に迷惑がかかるよ?」
確かに生徒会室に呼ばれたのが選挙についての話だから、他の候補者がいてもおかしくはない。
そして昼休みが始まってから数十分は経っている。……中に入った瞬間に睨まれそうな予感。
「そうだね。 とりあえず、中に入ろうか」
「まあ…そうだね。色々と気になるけど…」
「それじゃあ、俺が開けるね」
「七音、よろしく〜」
佐伯くんが生徒会室の扉を開けると、室内には既に他の候補者らしき人が三名と椅子に座っている女性が二人いた。
(座っている人が会長と副会長かな)
そう思ったのには二つの理由があった。
一つ目が候補者らしき人達と対面に座っていたこと。二つ目が腕に腕章を付けていること。最終的な判断をしたのは腕章なんだけどね。
「一年の鬼頭静香と言います。集合に遅れてしまい申し訳ありませんでした」
鬼頭さんは一歩前に出て、座っている女性に向けて挨拶をしてからお辞儀をした。それに続き、佐伯くんも同伴者としての挨拶をした。
すると、結茜さんも一歩前に出て挨拶をした。
「一年の中之庄結茜と言います。 集合時間に遅れてしまい申し訳ありませんでした」
結茜さんが挨拶をした後、俺も佐伯くんと同じように同伴者の挨拶をした。
そして他の候補者たちも挨拶を軽くすると、座っていた女性が口を開いた。
「ようやく候補者が揃ったね。 私はこの学校の生徒会長を務めている高瀬あゆみだ。そして———」
「私が副会長を務めている
生徒会長の高瀬先輩と副会長の海野先輩が挨拶をすると、候補者達は大きな声で「よろしくお願いします」と返事をした。
「そう堅苦しくならないでくれ。 今日の目的は顔合わせと、軽い連絡事項についてだからさ」
「堅苦しい雰囲気になっているのは、あゆみが候補者たちを威圧しているからでしょ?」
「私は威圧なんてことはしていないよ!? 麻里の方こそ威圧しているんじゃないの?」
「あゆみ、君は一体何を言っているんだ?」
「そうやって、いつも麻里は話をはぐらかす!」
あれ…? 生徒会は堅苦しいイメージがあったけど、目の前で起こっている光景を見ると、そんなイメージはないのでは…と思ってしまった。
すると、候補者の一人が恐る恐る手を挙げながら生徒会メンバーに話し掛けた。
「あの…そろそろ連絡事項を聞きたいのですが」
「おっと、確かに時間が勿体ないね。 あゆみ、連絡事項を早く伝えてあげな」
「はぁ…分かったわよ」
生徒会長が候補者の目の前でため息を吐いていいのかよ…。そして高瀬先輩は視線を候補者たちに向けて、言葉を続けた。
「今回の生徒会役員選挙は二週間後で、一年生が就ける役職は会計、書記、広報の三職になる。生徒会長と副会長に関してだけど、私たちがニ年生ということもあるので、今回はありません」
なるほど…ここにいる五人中三人が生徒会役員になれるという訳か。上手くいけば、結茜さんの望み通りに落選することはできるな。
それにしても予定表を見た時から思っていたけど、立候補者によるアピールと選挙までの期間が短すぎるんだよな…。こーゆうのは一ヶ月くらいかけてやるものだと思うんだけど…違う?
「あの…教室を巡りはいつから解禁なのですか?」
「それは明後日から解禁だ。 もし他の候補者が教室で演説をしていたら、その候補者が終わるまで廊下で待つように」
「「「「「はい!」」」」」
海野先輩の言葉に元気よく返事をした。
「もし分からないことがあったら、私たちは生徒会にいるから気軽に聞きに来てね?」
「「「「「はい!」」」」」
高瀬先輩の言葉にも元気よく返事をした。
「それでは解散だ」
「皆んな、生徒会役員選挙頑張ってね!」
他の候補者たちは一礼して生徒会室を出た。
俺たちも一礼してから生徒会室を出た。
「雪翔くん」
「どうしたの結茜さん?」
「私たちが想像していた生徒会より、結構雰囲気がいい感じの生徒会だったよね」
「そうだね。 もしかして気が変わって、生徒会に入りたくなったの?」
「それはない。 だからこそ、私が落選するように雪翔くんには頑張ってもらうからね」
「出来る限りは頑張るよ」
そして俺たちは教室へと戻った。
◇◆
雪翔たちが生徒会室を出た後、あゆみと麻里は椅子に座り直して雑談をしていた。
「ふぅ…無事に説明が終わったね」
「今年の一年生の立候補者には、なかなか面白い人が二人もいたな」
「あの遅れて来た子たち?」
「あぁ、最初に挨拶をしたのが元気系で、次に挨拶をしたのが真面目系だ」
「あの二人が生徒会に入ったら、なかなか楽しいことになりそうだね。 他の生徒会のメンバーにも合わせたかったな〜」
「この場に二人がいたら話がややこしくなるから、逆にいなくて良かったと思うけど」
「ふふふ。 麻里ちゃんは厳しいね〜」
そう言いながら、あゆみは鞄から一冊の雑誌を机の上に置いた。
「あゆみ」
「どーしたの麻里?」
「一応、生徒会長なんだから、気軽に雑誌を机の上に広げるのは良くないと思うんだが」
「そんなこと言わないで〜!! 私はこの疲れを
「はぁ…なら、さっさと癒されろ」
「もちろん、そのつもりだから!」
そしてあゆみは残りの昼休みを使って、羽衣姉妹の雑誌を見て癒されていた。
「(中之庄と言ったか…あの子には何かしらの秘密がありそうだな)」
その光景を見ながら、麻里はふと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます