第42話
「私が生徒会役員選挙に立候補しないといけない理由が分からないのだけど…」
放課後になり、俺と結茜さんはいつもの場所に集まっていた。そして結茜さんは机にうつ伏せになりながら、脱力した声色で呟いていた。
それを隣で俺は苦笑しながら眺めていた。
「やっぱり委員長だから向いていると思われたんだよ。他薦の結果でかなり目に見えていたし」
「それでも他にも適任者がいそうじゃん?」
「他の人は思い付かなかったんだろうな」
「確かに立候補者二枠で私は分かるとしても、もう一人は鬼頭さんが選ばれていたしね」
「真面目系と盛り上がり系の二人だね」
「もう!真面目系は時間制限制なのに!!」
事の発端は六限目の終わり。今朝のホームルームで話していた通り、生徒会役員選挙の立候補者を決める話し合いが行われた。
そして話し合いをしていたのだが、なかなか他薦推薦が出ないので、先生が用意した紙に名前を書くことになった。……この時点で終わっているな。
全員が書き終わり、開封した結果———
結茜さんが20票、
鬼頭さんが10票、
と綺麗に二人だけに票が入ったのだ。
「それなら落選するように頑張るしかないね」
落選するように頑張るって何だろう。……自分で言いながらよく分かっていないけど、結茜さんの望みを叶えるにはそれしかないんだよな〜。
「そうだよね。 ということは、雪翔くんが落選する手伝いをしてくれるってことでいいのかな?」
「………えっ。 俺が結茜さんの手伝いをする?!」
「だって言い始めは雪翔くんだから、ちゃんと私が落選するように頑張ってくれないと」
「確かに言ったけど…落選させるのはかなり難しくと思うよ」
結茜さんを落選させるのかなり大変だと思う。上級生クラスは分からないけど、同級生の中だと割と真面目委員長で有名人だし、何なら生徒会に入ってほしいという声を何回か聞いたことがある。……まあ本人は知らないと思うけど。
すると、結茜さんは「簡単な方法があるわよ」と言って言葉を続けた。
「雪翔くんの応援演説の時にぐだぐだな演説をすれば、私の落選は間違いなし!」
「つまり、全校生徒の前で俺に恥をかけと?」
「恥をかけとは言っていないよ。 私が落選するように上手く演説すればいいだけだから」
「どっちにしろ、それは俺だけが恥ずかしい思いをするのだけど?!」
俺が結茜さんに対して反論していると、教室のドアが勢いよく開いた。
「故意に落選しようとすることは、私は認めないからね!!」
そう言いながら、鬼頭さんが教室に入って来て、そして結茜さんの元まで近寄ってきた。
佐伯くんも一緒にいて、お互いに会釈をしてから、鬼頭さんの後に続いて中に入った。
「大丈夫だよ。 私なんかより、鬼頭さんの方が生徒会にかなり向いているから」
「そ…そうかな〜 委員長に言われると、何気に悪い気はしないな〜」
「でしょ? だからこそ、私の分まで鬼頭さんには頑張ってほしいのよ」
結茜さん、本当に生徒会役員になりたくないんだな(苦笑)普通の人が見たら委員長はいい人に見えるけど、俺から見たら必死に嬉しさを顔に出さないように我慢しているように見えるし。
「そうだね! 委員長と共に戦って、私が生徒会役員になってもいいかもね!」
「そうそう、私と戦って———そうじゃなくて、鬼頭さんだけの一人勝ちでいいじゃない」
「ダメだよ! 生徒会役員は生徒たちの投票なんだから、決して辞退するとか考えたらダメだよ?」
なるほど、辞退するというやり方もあったか。
ただ普通の辞退は既にできないから、演説の時に辞退する発言をするしかないな。
「もちろん、そんな辞退をするなんてことは考えていないわよ。先生を困らせるだけですし」
あれは嘘だな。絶対に演説の時に辞退をすることを考えている。ただ先生を困らせたくないに関しては本音だろうけど。
「そうそう、ただでさえ面倒くさいを連発していたんだから、次辞退者出たら職務放棄しそうだよ」
「職務放棄って…鬼頭さん、それは言い過ぎだと思うけど?」
「御影くんは担任のことを分かっていないね〜 担任はね、仕事をサボる為に色々と試行錯誤をしているんだよ。 その現場に私達遭遇したもんね、七音?」
「そうだね。 屋上行きの階段で先生がため息をつきながら、スマホで動画見ていたね」
マジかよ…。これは校長先生にバレたら厳重注意では済まされないだろうな。
てか、二人が屋上行きの階段を登ったことが、とても気になるのだけど。
「二人とも屋上に行って何をするつもりだったの? ま…まさか口では言えないことを?!」
「ちょ、それは飛躍しすぎだって委員長。 ただ、私たち屋上で話をするだけだったの。邪魔が入ったけら無くなったけど」
「何の話をするつもりだったの?」
「特に意味もない話だよ? 委員長と御影くんも特に意味もない話をする時があるでしょ?」
特に意味もない話…か。
思い出すのが意味がある話ばかりで、何も思い出せないな。てか、この数ヶ月だで意味がある話が増えたな…。
結茜さんの方に視線を向ければ首を傾げていたので、結茜さんも思い付かなかったのだろう。
「あれ、もしかして御影くんないの?」
「その……何というか」
「委員長も何もない感じ?」
「黙秘させていただきます。 そして、この話はここまでで終わりです」
「七音〜 委員長が構ってくれないよ〜」
「はいはい、だけど要件を伝えに来たはずなのに、何もしない静香も悪いと思うよ」
佐伯くんは抱き付いてきた鬼頭さんの頭を撫でながら宥めた。そして佐伯くんに言われて、鬼頭さんは顔を上げて「忘れてた」とてへっ、とした。
「それで要件とは何ですか?」
「実は明日の昼休みに生徒会室に立候補者の人達が集まることになったから。 ちなみに同伴者は一枚なら許されるらしいよ!」
「 !? そんな話聞いていませんよ?!」
「先生がね、忘れてたから伝えておいてと、さっき頼まれたからね〜」
「「先生…」」
「という訳で、明日は忘れずに来てね!」
そう言い残して、鬼頭さんと佐伯くんは教室から出て行った。
「結局、私が落選する話が有耶無耶になった気がするのだけど」
「とりあえず、その件は後日考えるとして、明日生徒会室に行かないとだね」
「雪翔くんと一緒だから渋々行ってあげるよ」
「うん…分かっていたよ。 俺が強制的に一緒に行くことは…」
「よろしくね、私の応援者の雪翔くん!」
「……はい」
そして俺たちも帰路に着くことにした。
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