第40話

(どれが正解なのか、マジで分からなすぎる…)


 水着選びを始めてから三分が経った。

 未だに三人に似合う水着を選ぶことが出来ていなか———いや、紫音の水着はもう決めていた。


 そう、紫音の水着は反逆の意味を込めて、タンクトップ系の水着を選んだ。本当はお子様水着を選びたかったんだけど、さすがにサイズ感を考慮して辞めてあげたのだ。……俺って優しいな。


 そして中之庄姉妹の水着を選ぶことにしたのだが、あの姉妹に似合う水着が想像できなかった。


(参考になる雑誌もないし困ったな)


 中之庄姉妹改め羽衣姉妹はモデルの仕事で一度も水着のグラビアをしたことがない。ある雑誌の掲載号の時に事前に募集していた読者質問で聞かれたことがあり、『水着はNGなんです』と答えた。


 つまり羽衣姉妹の水着を雑誌で見ることは、一生ないということだ。……そう考えると、俺ってかなり役得だよな。


「そんなことを考えている暇があったら、早く二着の水着を選ばないと」


 気付けば既に五分が経っていた。

 俺は急いで直感的にお洒落だと思った水着売り場の場所へと向かった。


「女性物の水着は種類が多くて選びにくいな…」


 一つずつ見ていくとセクシーな魅力を引き出す水着や可愛さを引き出す水着など沢山あった。

 どれも素敵ではあるが、羽衣姉妹にはセクシーな水着は着せたくないと思った。……多分、二人ともかなり似合うとは思うけど、他の人には見せたくないという私利私欲だ。


 そうゆう訳で、俺は二人に似合うセクシーとは逆の可愛らしい水着を選ぶことにした。


◇◆


【 side 結茜 】


「ちょっと酷くない?! あのタンクトップの水着は絶対に私の水着だよね?」


 雪翔くんが水着を選びに行って数分。

 一つの水着を選んだことに対して、紫音ちゃんが駄々を捏ねていた。


 確かにあの水着を選んだ早さには私自身も驚いたけど、雪翔くんのことだから絶対に復讐とかの感情も混ざっているんだろうな…。


「紫音ちゃんにはセクシーな水着はまだ早いから、タンクトップで我慢しましょうね〜 」

「うぅ…ここで年齢の壁が阻んでくるのか」


 お姉ちゃんが宥めると、紫音ちゃんはぶつぶつ言いながらも納得をした様子だった。


「それに雪翔くんだって、紫音ちゃんのことを考えて選んだはずだよ」

「そうですね… それを考えたら、何だか色々と吹っ切れました。それにお兄ちゃんがお二方の水着を選び始めたので、そちらを見ましょう!」

「あらあら、紫音ちゃんたら」


 紫音ちゃんが雪翔くんの方を指を指した。

 お姉ちゃんはくすくすと笑みを溢しながら、雪翔くんの方へ視線を向けた。


(二人とも現金な人だな)


 そんなことを思いながら、私も二人の後に続いて視線を向けた。


「雪翔くんたら徐にセクシーな水着を避けているのが目に見えて分かるね〜」

「お兄ちゃんのダメなところですねぇ。お二方にはセクシーな水着じゃないとダメなのに」

「もう紫音ちゃんが見たいだけに聞こえるよ〜」

「バレましたか〜」


 お姉ちゃんと紫音ちゃんが楽しく話をしている中、私は雪翔くんの行動を観察していた。


(雪翔くんは可愛い水着を選んでいるつもりだけど、時々視線がセクシーな水着に行っているんだよなぁ〜)


 ということで、視線を向けたセクシーな水着は雪翔くんの好みだと勝手に解釈することにした。

 この解釈により、私が選ぶ水着の選択肢も変わってくることになる。……もちろん雪翔くんが選んだ水着も買うから、合計で二着になるね。


「ここでリボンデザインの水着かー 確かにセンスはあるけど、それは違うでしょ」

「私はあの水着好きだよ? 結茜ちゃんもリボンデザインは好きだよね?」

「うん、可愛いから好きだよ」

「あれ…?お二方は雑誌の撮影で水着はNGでしたよね? どこで着たんですか?」

「家族旅行の時に着たんだよ〜 ね、結茜ちゃん」

「うん」


 確かに家族旅行で着たけど、あの時の私はまだ中学生だったから全然似合っていなかったな…。

 ……リベンジとしてもう一度挑戦したいな。


「なるほど、家族旅行ですか…」


 紫音ちゃんは腕を組みながら、何かを考える素振りをしていた。あっ、これが雪翔くんが言っていたよからぬことになるのかな。


 そんなことを思っていたら、どうやら予想が的中してしまったようだ。


「私、お兄ちゃん、そしでお姉ちゃんたちの四人で、いつか旅行をしたいですね!」

「流石に四人での旅行はだ———」

「いいわね〜 四人での旅行なんて、とても楽しそうだね〜!!」


 反対意見を言おうとするも、お姉ちゃんに遮られ、私の言葉は掻き消されてしまった。


「それでは旅行の件はお兄ちゃんに内緒で内密に進めることにしましょう」

「そうね。 雪翔くんにはサプライズとして発表するのが一番だね! 結茜ちゃんも分かった?」

「………分かった」


 どうやら私はお姉ちゃんと紫音ちゃんには押し負けてしまうようだ。今日だけで二回も実感したから、絶対に間違い無いと思う。


 そんな話をしていたら、あっという間に10分が経ち、雪翔くんが戻ってきた。


◇◆


「お三方お待たせしました。こちらが俺が選んだ水着になりますので試着をお願いします」


 俺は三人にそれぞれに選んだ水着を手渡した。


「タンクトップの水着なんて試着する意味ないから、私は試着するのやーめた」

「雪翔くんが選んだ水着とっても可愛い〜! 私の魅力が溢れちゃうよ〜」

「これが雪翔くんが私に似合うと思った水着…」


 三者三様なことを言いながら、紫音を除いた二人は試着室へと向かった。


「それにしても、お兄ちゃんにしてはまあまあ頑張った方だと思うよ」

「俺のことを褒めるなんて、紫音にしてはかなり珍しいな」

「そりゃ、ね。 一応、お兄ちゃんにとっては無理難題を押し付けたつもりだったからね」

「やっぱり、初歩じゃないのかよ」


 まあ最初から分かっていたけどさ、無理難題を乗り越えた俺は最強になったと考えてもいいと?

 ……いや、慢心は良くないな。


「でもちゃんと選んだ水着だから、あの二人にはとても似合っているから大丈夫だよ。 私の水着にしてはね、私の水着にしては」

「はいはい、紫音の水着も今度選んでやるよ」

「ありがとう!」

「現金な人だな」


 そして試着室のカーテンが開くと、魅力的な水着を着た二人が現れた。


「雪翔くん…。変なところは…ないかな…?」

「雪翔くん、とっても可愛い水着をありがとうね〜! 最高の感想を頂戴ね!」


 結茜さんはチラチラこちらを見ながらもじもじし、七蒼さんは元気よくカッコつけていた。


「変な所は一つもありませんよ! 俺が言うのも変ですが、とっても可愛くてドキドキします…ね」

「あ…ありがとう。 かなり嬉しい…よ」

「ねぇねぇ、二人だけの世界に入らないでよ!私の感想も早く頂戴〜!!」

「七蒼さんも素敵で可愛いですよ!」

「それだけ?」

「その…ドキドキしますよ」

「なんか結茜ちゃんの時より軽く感じるけど、まあ良いものが見れたからいいか」


 二人は試着室のカーテンを再度閉めた。


 何だったんだ…?

 ちなみに俺が選んだ水着は二人とも種類が違う。

 結茜さんの水着はフリルデザインの水着で、七蒼さんのはワイヤー入りの水着になる。

 決め手となったのは、やはり過激ではないと言う点だな。


「それじゃあ、私たちは他にも水着を見てくるから、お兄ちゃんは休憩していていいよ」

「そうか。 なら、俺は端の方で休んでいるよ」

「ほいほーい!」


 紫音は着替えを終えた中之庄姉妹と店内を見て回り、数十分程したら袋を持って戻ってきた。


 そして施設ビルの通り付近を少しだけ散策をし、その日は解散となった。

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