第39話
水着売り場は地下一階の特設会場にて販売されている。その特設会場には会期ごとに様々な展示などもしており、夏は主に水着売り場になっている。
そして現在、俺は女子三人に連れられて水着売り場の中にいた。そう…水着売り場にいるのだ。
先程も言った通り夏は水着売り場になっていると言ったが、販売されているのが女性物の水着だけしかない。男性物の水着は一着もないのだ。
周囲を見渡せば多少は男性もいるけど、いるとしても彼氏や姉弟という感じに見える。
「あそこの三人可愛いね〜!」
「スタイルえぐ!? それに二人の横にいる女の子も可愛い」
「その後ろにいる男はなんだ? まさかストーカーとかになるのか?」
「絶対にあの二人はモデルさんか何かだよ!」
ちらほら聞こえてくるのは、中之庄姉妹と紫音を褒める声と何故かストーカー扱いをしてくる声。
そのストーカー。の話をしているのは売り場外にいる男性達で、痛い視線を向けていた。
……どこをどう見たら、俺がストーカーに見えるんだよ。本物のストーカーはこんなにも冴えなくて、弱々しい雰囲気は出ていなかったぞ。
「お兄ちゃん、散々なことを言われているね」
「でも、そう見られるのも仕方がないよね〜」
「もし怪しまれたくなかったら、雪翔くんは私たちの近くにちゃんといるのよ?」
「その…分かりました」
ストーカー扱いにはならないかもしれないけど、別の意味で男性陣から睨まれる予想ができた。
(そもそも俺は外で待っていれば良かったのでは?どうせ水着関連にアドバイスとかできないし)
そう思ったが、何故か左に結茜さん、右に七蒼さん、そして後ろには紫音が陣取っていた。まるで俺をここから逃がさないぞと、無言の圧力を感じた。
「何か言いたそうだね?」
「いえ…何もありません」
そう答えると結茜さんは微笑みながら頷き、俺の腕を掴んだ。この行動をきっかけに、俺は逃げることを諦めて従うことにした。
「結茜ちゃん、紫音ちゃん、この水着見て〜」
「七蒼お姉ちゃんにとてもお似合いの水着ですね」
「大和撫子が着ていい水着ではないでしょ…」
「あら? 過激な水着を選ぼうか迷っている!幻の妹ちゃんはいいのかしら〜?」
「そ…それは関係ないでしょ。 それに私が過激な水着を選ぶとは限らないでしょ」
「そうは言っても…ねぇ、紫音ちゃん」
「はい! 先程から結茜お姉ちゃんの視線は、過激な水着を見ていますよ!」
「っ…!! そんな視線を向けていないよ!!」
いや…その話で盛り上がるのはおかしいからね。
あと俺は先程過激な水着の件は、全力で否定しましたからね。……普通の水着でいいんだからね。
「そんなことより、早く水着を選ぼうよ!!」
「そうね〜 ここは数着なら試着可能らしいから、可愛い水着を雪翔くんに選んでもらいましょう〜」
「いいですねぇ〜 お兄ちゃんのセンスが問われる、かなり重要な役目になって」
「ちょっと、何で俺が三人の水着を選ぶことになるの?! それに俺は…その…(スリーサイズとか知らないし)」
「そうだよ!! 自分の水着は自分で選ばないとダメだよ!! 雪翔くんだって困っているし」
「いやいや、お兄ちゃんが困っているのはお二方のスリーサイズが分からないからで、案外水着選びには満更ではないんですよ」
し…紫音?! 君は何を言っているのかな!?
俺が水着を選びに満更でもないと…?
無理無理無理。俺はセンスがないし、レベルが高い姉妹をコーディネートできませんよ!!
「俺がコーディネートできる訳ないだろ。それを紫音が一番分かっているだろ?」
以前、結茜さんは俺が選んだ服を買ってくれたが、あれはお世辞で買ってくれたはずだ。
「そうなんだけど、初歩の水着で選ぶセンスを磨いてもらいたいなって思ってね」
「どこが初歩なんだよ! 水着に関しては最高レベルで難しいだろ」
「そんな風には私は思いませんけどね。もう一度聞きますけど、お二人はこの提案に乗りますか?」
紫音はもう一度二人に問い掛けた。
そんな提案を乗るわけ
「もちろん〜! その提案を乗るわよ〜!」
「まあ…悪くないとは思うよ」
乗るのかい!!
それにさっきと言っていることが違いますよね、結茜さん?紫音に押し負けないでくださいよ…。
「二人とも紫音に合わせなくても大丈夫ですからね? 結茜さんだって本当は俺に選んでもらうのは嫌でしょ?」
「嫌というか……」
「結茜さん、少しお耳を借りますね」
渋っている結茜さんに、紫音が耳元で話し始めた。何を話しているのかよく分からないが、紫音の話を聞く度に結茜さんは頷いている。
……これは嫌な予感がする。
「という訳で、結茜さんも賛成でいいですよね?」
「しょうがないな〜 雪翔くんに試着用の水着を選ぶ権利を上げよう」
「結茜さん?!」
一体、紫音に何を吹き込まれたんだ?
絶対によからぬことを言ったことは確定だけど。
「それでは満場一致になったので、これからお兄ちゃんには水着を選んで来てもらいます!」
「俺はまだやるとは一言も言っていないぞ」
「制限時間は10分。最低限のルールを守って選んで来てね!それではスタートです!!」
俺の話をスルーされたまま、紫音はスタートの合図を出してきた。
(はぁ…仕方がないか)
俺は大きなため息を吐きながら、店内を歩き始めた。
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