第38話

「ゆ…結茜さん?! それに七蒼さんまで?!」

「ゆ…雪翔くん?!」

「こんにちは、雪翔くん!」


 紫音に連れられて一軒のレストランに行くと、その待合席には中之庄姉妹が座って待っていた。

 すぐに紫音に視線を向けると、紫音はゆっくりと視線をずらし、そして七蒼さんに挨拶をした。


(何回もスマホを確認していたのは、まさかこの時のためだったのか…?)


 明らかに七蒼さんも、この状況を理解している様子なので確定だろう。一方、結茜さんは目を大きく見開いているので、俺と同じく何も知らずに巻き込まれた可能性が高い。


 とりあえず、結茜さんに話し掛けることにした。


「こんな場所で会うとは偶然だね」

「そ、そうだね。 だけど、お姉ちゃんたちにはめられた感が否めないんだよね」

「俺もそう思うよ。 いきなり紫音が水着を見たいって言った時点でおかしいと思えばよかった…」

「雪翔くんたちも水着を見に来たんだね〜 私たちも夏に向けて新規水着を見に来たんだよ〜」

「予定まで同じとは———これは二人にはめられた可能性がますます高くなってきたな…」


 それにしても結茜さんの水着か…。どれを着ても似合いそうだし、どんな水着を選ぶのか少し楽しみだな。一応弁解をしておくけど、そーゆう目線で結茜さんを見ようとはしていないので。


「まあ、今更後悔しても遅いから諦めよ」

「それも…そうだね」


 俺たちは遠い視線を向けながら苦笑した。


 すると話を終えた紫音と七蒼さんが話し掛けてきた。


「お兄ちゃん、七蒼お姉ちゃんたちとお昼を食べて、水着選びを一緒にすることになったから」

「はっ…?! 何でそんな話に?!」

「そうゆう訳だから、結茜ちゃんもいいよね」

「お姉ちゃん…私は呆れているよ」

「………紫音ちゃん、何を頼もうかね〜?」

「そうですね〜」


 二人は俺と紫音さんの話を無視して、席の近くにあったメニューに視線を向けた。


「無視かよ…」

「雪翔くん… すでに私たちは蚊帳の外にいるらしいから、尚更諦めるしかないよ」

「くっ…いつも紫音に主導権を握らせると、碌なことにならないよ」

「私も同感だよ」


 もう一度、俺と紫音さんは遠い視線を向けて、今度は大きなため息をついた。

 そして店員さんに呼ばれた俺たちは店内へと入店して、四人掛けの席へと案内された。席順は俺と紫音が隣同士で、対面には中之庄姉妹が座った。


 それから店員さんを呼び、それぞれの注文をして、料理が来るまで雑談することになった。


「ずっと気になっていたんですけど、結茜お姉ちゃんはいつ頃からお兄ちゃんのことを名前で呼び始めたのですか?」

「し…紫音?! そんな事は気にしなくていいだろ」

「これに関しては譲れないよ。 私にとってはかなりの一大事になるからね」

「そんな大袈裟な… 結茜さんも気にしなくていいからね?」


 視線を向けると、結茜さんは少し顔を赤くしているように見えた。……何故、顔を赤くするの。


「あらあら、結茜ちゃんは恥ずかしくなってしまったのね〜 それなら、代わりに私が教えましょう」

「お…お姉ちゃん?!」

「だって反論しないし無言を貫くなら、お姉ちゃんとしては教えてあげたいでしょ〜」

「だからと言って、私の了承を得ないで話すのはダメでしょ… 私の人権はないのかな?」

「結茜ちゃんとお姉ちゃんは一心同体。 なら、結茜ちゃんのことを話しても問題ないでしょ!」


 優しく微笑みかける七蒼さんに対し、結茜さんはただ茫然としていた。

 それを見て大変そうだなと思いつつも、俺も紫音に似たようなことをされていたのでどこか同感できる部分もあった。


 結茜さんが呆然としたまま返事が返ってこないので、七蒼さんはチャンスと思ったのか話し始めた。


「結茜ちゃんが名前で呼び始めたのはついこの間からなんだよ〜」

「な、なんと!! 初々しいですなぁ〜」

「そうなんだよ! こんなにも結茜ちゃんが素で恥ずかしがるのは滅多に見られないよ」

「いいものを見せてもらえて良かったね、お兄ちゃん!」


 紫音は膝で俺の腕を突いてきた。


「まあ…それはな。 それよりも、七蒼さんの話が詳しすぎて驚いていますよ」

「それはね、私が結茜ちゃんのことを焚き付けたからなの〜 あれが無かったら、結茜ちゃんは永遠に名前で呼ばなかったかもね〜」


 そうだよね結茜ちゃん?、と七蒼さんは隣にいる結茜さんに話し掛けた。


「………多分」


 結茜さんは一言いい、そして頬を膨らませた。

 ……膨れっ面の結茜さん可愛いな。


「それで詳しかったのですね」

「七蒼お姉ちゃんは優秀ですね!」

「いや〜それほどでもないと思うけどね〜」


 俺は結茜さんと視線を合わせて、「(褒めてないのに)」と思いながら苦笑した。

 そして店員さんが注文した料理を運んできて、それぞれの前に料理を置いた。

 

「それで雪翔くんはどんな水着が好みなのかな?」

「 !? 」


 おかずを食べていると、七蒼さんが狙ったように質問してきた。その質問に驚き、俺はむせてしまった。


「急に変な質問をしないでくださいよ」

「別に変な質問はしていないよ? ただ雪翔くんはどんな水着が好きなのかな〜だと思って」

「それがおかし———」

「お兄ちゃんは過激な水着が好きなんだよね!」


 俺が反論をしようとした瞬間、紫音に口を押さえられ、そして虚偽の報告をした。


「紫音、嘘を言うにも度が過ぎているぞ!?」

「それで雪翔くんはどんな過激さが好きなの?」

「七蒼さん?!」

「紫音ちゃん、もっと詳しく教えて!!」

「結茜さんまで?!」

「横槍が入りそうなので、簡潔に話しますね」


 うん…。もうどうにでもなれ。俺は諦めたよ。

 二人とも紫音の話が嘘だと分かっていて、話を聞いてくれているはずだと信じるしかない。


「七蒼お姉ちゃんや結茜お姉ちゃんのスタイルでお色気マシマシの大人の水着などが好きですねぇ〜」

「なるほど…雪翔くんは見かけによらず、欲望がかなりあったのね〜」

「お姉ちゃんなら出来そうだけど、私には到底出来そうにないよ…」

「大丈夫です!! 結茜さんはとても魅惑的です!」

「紫音ちゃんの言う通り、結茜ちゃんにはその魅惑的な美貌があるじゃない〜」

「そう…だよね」


 あの…嘘だと分かって、紫音のお遊びに付き合ってくれているんですよね?

 話を聞く限りだと、本気で信じているように聞こえているのですが?……一応保険はかけとくか。


「紫音の話は嘘で、俺は似合っていればどんな水着姿でも好きですからね?」


 俺は三人(主に中之庄姉妹)に向けて言ったが、話を聞いている雰囲気はなかった。


 そして俺は蚊帳の外にいたまま食事を終えて、俺たちは本題の水着売り場へと向かった。

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