第37話

「それで最初はどこに行くんだ? いきなり水着売り場に行く感じなのか?」


 施設ビルへと入り、俺は紫音に最初の目的地を尋ねた。いつもなら主導権は俺になるのだが、今回に限っては紫音の付き添いみたいな形なので、何も分からない状態だった。


「目玉の水着を最初に行くわけないじゃん〜 これから行くのは屋上庭園だよ〜!!」

「屋上庭園で何かやっているのか?」

「な…なんと!! コスプレイベントがやっているんですよ〜!! お兄ちゃん好きでしょ?」

「確かに好きだけど、そんな情報をよく紫音が知っていたな」

「えっ…それはさ、その…SNSだよ」


 怪しい…。視線をずらして、はっきりとしない言い方。明らかに何か隠しているのは分かる…が、それが何なのかは俺には分からない。


(しかもスマホを何回も確認しているし)


 それでも気にしていたら埒が明かないので、とりあえず保留にすることにした。今回の主導権は紫音が握っているから、多分だけどすぐに分かると思ったからだ。


「まあいいや。 とりあえず、屋上庭園に向かうとするか。あと11時過ぎだし、混んでそうだな」

「だけど沢山のコスプレを見れるから、お兄ちゃん的には役得でしょ?」

「そうだな」

「お兄ちゃんは素直じゃないな〜」

「知らん」


 俺は紫音の言葉を適当に返答し、中央にあるエスカレーターで四階の屋上庭園へ向かった。



 エスカレーターで四階に上がると、ガラス張りの部屋からコスプレをしている人達が見えた。

 その人達を見ながら俺たちは扉から外に出て、改めて周囲を見渡した。


「おぉ〜!! さすがアニメの街だから、コスプレしている人達はレベルが高いね〜!」

「実際、ここに来ている人たちは大型コスプレイベントとかに参加している人もいるからレベル高いのは当然だよ」

「なるほど〜!! お兄ちゃんって勉強はダメダメなのに、こーゆうことに関しては博識だよね」

「博識ではない。 これで博識だって言ったら、ちゃんとした人に怒られるから」

「そんな人たちがいるんだ〜 とりあえず、色々見たいから適当に回ってみる?」

「ほんと自由人すぎるよな」

「あんがと」


 褒めてないよ…と思いながら、俺たちは時計回りに回ることにした。周囲をゆっくり歩いていると、最近有名なVtubarやイラストレーターのオリジナルキャラのコスプレなどが多数見受けられた。


「お兄ちゃん…コスプレに関しては詳しくはないけど、かなり楽しいね!! 何というか…目の保養」

「それに関しては同意できる。 可愛いコスプレイヤーを見ていると、ほんと目の保養だよな」

「そんなことを言って、お兄ちゃんには超激かわの結茜お姉ちゃんがいるのに大丈夫なの〜?」

「紫音が告げ口しなければ、何も問題はないから大丈夫。そのニヤニヤに裏がなければの話だけどな」

「それはどうかね〜」


 紫音はさらにニヤニヤを強めながら言った。

 要するに———告げ口するんだろう。

 バッドエンドの予感がする。


「んで、あそこに凄い団体がいるんだけど」


 相変わらず話が飛ぶな…。

 そう思いながら、紫音が指差す方に視線を向ければ、特撮ヒーローのコスプレをした団体がいた。


 おぉ…去年の戦隊もいれば、最新の戦隊までいるじゃん。 かなりクオリティーが高いから、かなりの金額を要したんだろうな。


「あれはコスプレイベントに必ずいる団体だ。 毎年話題の中心になっているんだよ」

「そりゃあ、あれだけ目立つ格好をしていたら話題に上がるとは思うけど、予算は大丈夫なのかね?」

「それは俺には分からないけど、色々とやり繰りをしてコスプレをしているんだよ」

「やっぱり、大人はお金持ちなんだね。 私もお金持ちになりたいよ…」

「夢を語るのはいいけど、決して怪しいバイトや危ないことはするなよ」

「分かったよ〜!!」


 色々と心配だなと思いつつも、紫音に色々言ったところで何も通じないので見守ることにした。


 すると紫音が肩を叩いてきた。


「お…お兄ちゃんの好きな美少女戦士だ!!」

「でかい声で言うなよ… 恥ずかしいだろ」


 紫音の言う通り、目の前には美少女戦士のコスプレをした女性が二人いた。


 一人は牡羊座のコスプレ。

 もう一人は俺の推しの獅子座のコスプレ。


 どちらもクオリティーが高いが、特に獅子座のコスプレイヤーさんは色々と目立っていた。

 その人はとても足が長く、身長も目測で180cmはあると思われる。


「あの右側の人、スタイルいいしモデルさんみたいだねー!!」

「原作再現と言ったら大袈裟になるけど、スタイルに関しては凄い似ているよ」

「お兄ちゃん釘付けになっているじゃん〜」

「推しのコスプレなんだから、釘付けになるのは当然だろ」

「それじゃあ、写真を撮ってもらいなよ」

「遠慮しとく。 そもそも写真を撮るにはお金を払わないといけないから無理だ」


 最近は色々な対策の為にお金を払ってから、コスプレや撮影を行うことを義務付けられている。

 一昔前ならカメラマンとかは自由だったのに、厳しい世の中になってしまったな…。


「そうなんだ。なら、ちゃんと目に焼き付けておくか、結茜お姉ちゃんに頼むしかないね」

「そこで結茜さんが出てきたことが驚きだよ」

「でも頼んだら、コスプレしてくれそうだよね?」


 まあコスプレしてくれるとは思うけど、最初にやるとしたら推しの水瓶座の美少女戦士だろうな。

 ……うん、想像しただけでも似合っているわ。


「そうだな」

「とりあえず結茜お姉ちゃんたちに会ったら、コスプレをしてくれないか打診してみようね!」

「その打診がいつになるのか知らんがな」

「ふふふ。 きっと、すぐになるよ」


 意味不明な微笑みに首を傾げながらも、俺たちはお腹が空いたのでレストラン街に移動することになった。昼食を食べる場所は決まっているらしい。


「あの姿は…?!」


 そして一軒のレストランに着くと———その待合席には結茜さんと七蒼さんが座っていた。

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