第36話
あっという間に休日になり、私はお姉ちゃんと一緒に都心まで遊びに来ていた。
そして都心まで来たのには二つの理由がある。
一つ目がお姉ちゃんが前々から気になっていたコスプレイベントを見るため。
そして二つ目が一番重要で、夏に向けて新規の水着を買うこと。今年は本気で水着を選ぶつもりなので、大きなデパートがある都心が最適なのだ。
(まあ去年も本気で水着を選んではいたけど、今年に限っては色々と話が変わってくるしね)
という訳で、いま私たちはとある施設ビルの屋上庭園に来ている。ここではお姉ちゃんご所望のコスプレイベントが開催されていて、お姉ちゃんは周囲を見渡しながら目を輝かさせていた。
本当なら先に水着を選びたかったけど、今回はお姉ちゃんが水着を買ってくれるらしいので譲った。
決して、水着代が浮いたラッキーとは一つも思っていないからね!!
「まだ午前中なのに、もうコスプレしている人がいるんだね〜!! まるでモデルの仕事みたい」
「モデルの仕事とは一緒にならないとは思うけど、確かに多いね」
時刻は午前10時半過ぎ。まだ人が集まるピークには早い時間だとは思うけど、既にコスプレをしている人達がちらほらと見受けられた。
「ねぇねぇ、あのコスプレは何のコスプレをしているのかな?」
「あれは…美少女戦士の衣装だね」
「美少女戦士って、結茜ちゃんが好きなアレ?」
「そうそう———って、何でお姉ちゃんが私の好きなアニメのことを知っているの?!」
「何でって言われても、結茜ちゃんは隠しているつもりだとは思うけど、部屋にグッズを置いていたりしたら分かるよ」
私がアニメ好きなのを知っているのは一部の人だけだ。ましてやモデルの時に聞かれる趣味の時でも、アニメとは一言も答えていない。だからこそ、お姉ちゃんが知っていたことには驚いたけど……それは納得だわ。
確かに部屋の中はグッズは置いてあるけど、あまり目立たないようにしまっている。もし部屋に入った時に見られたのなら、あのコースターを貰った時だろうな…。
「私がアニメ好きなのは他の人には秘密だからね?」
「あらあら。 これが広まれば、もしかしたらアニメに関連する仕事が貰えるかもしれないのに?」
「くっ…。それはそうなんだけど…」
それで仕事が貰えるのなら、大々的に告白してもいいとは思うけど———幻の妹で不良美少女がアニメ好きって、イメージが崩れそうでしょ。
ギャップ萌えでいいと言う人もいるかもしれないけど、個人的には秘密にしておきたいんだよな。
「やっぱり、秘密にしておく。 アニメ関連の仕事をやるなら、自力で取ってやる!!」
「ふふふ。 なら、お姉ちゃんも色々と協力してあげるね!」
「お姉ちゃんの協力は信用できないから、とりあえず、その件については保留にさせてもらうね」
「そんな〜!!」
「ほら人も増えてきたから、まだまだ回らないと時間が勿体無いよ」
そう言って、私は移動を始めた。
お姉ちゃんは「待ってよー」と言いながら、後ろを追いかけてきた。
そして少し歩くと、今度は戦隊ヒーローのコスプレをした団体を見つけた。
「わぁ〜!! あの団体も凄いね!!」
「皆んなで集まって合わせることを、確かコスプレ合わせって言うんだよね」
「皆んなで同じのをやるの楽しそうだよね!!」
「まあ楽しいだろうね。 どの衣装もクオリティーが高くて、本物に見間違えそうだし」
その団体が身につけているコスプレはどれもクオリティーが高く、一瞬本物に見える程だった。
実際、戦隊ヒーローを見ていなかったお姉ちゃんにとっては、着ている衣装が本物だと思っているんだろうな…。
「あれ劇中で実際に使われた衣装だと思ったけど、あの人達の手作りなんだ凄い〜」
やっぱり、本物だと思っていたよ。
まあお姉ちゃんらしいけどね。
「だけど手作りだからこそ、かなりお金が掛かっているんだろうね」
「そうだよね〜 それで私も何かしらのコスプレをしてみたいけど、何がいいかな〜?」
「お…お姉ちゃんがコスプレ?!」
「そんなに驚くこと?」
「いや、だって驚くでしょ」
お姉ちゃんからコスプレって言葉が出るのは、本当に驚きだった。……だけどコスプレイベントに興味がある時点で気付くべきだった。
「まあ…それはいいとして、お姉ちゃんが似合いそうなコスプレは考えておくよ」
「やっぱり、結茜ちゃんは頼りになるね〜!」
「だーかーら、ここでくっついたら目立つからやめて!! いくら変装していても、何かしらでバレる可能性があるんだからね」
「むぅ〜!! 少しくらいいいじゃん〜!!」
「だーめ!」
私はお姉ちゃんを無理やり剥がして、他の場所も見て回ることにした。そして一時間ほど見回り、私たちは次の目的地の場所へと移動した。
◇◆
「やっぱり、俺が紫音の水着を選ぶのはおかしいと思わないか?」
現在、俺と紫音は都心の施設ビルに向けて、駅から歩いていた。そもそも都心まで来たのは、紫音がいきなり水着を見に行きたいと言ったことが始まりだ。
(センスのない俺が水着を選ぶなんて、どう考えても無理があるよ)
そして俺に水着を選べなんて言う始末。
俺の妹には羞恥心というものがないのかな?
「そんなことを言っていたら、いつまで経っても女の子にアドバイスをできる男になれないよ」
「女の子にアドバイスをすることが、まず訪れることはないだろうね」
例え、結茜さんと一緒にお出掛けをしたとしても、結茜さんがアドバイスをしてきそうだし。
「まあ普通は訪れないよね。ふ・つ・う・は」
「その強調はなんだよ」
「気にしなくていいよ。 てことで、早く見たいから急ごう!!」
「はぁ…仕方がないな」
俺と紫音は施設ビルへと入った。
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