第35話

 就寝準備を終え、リビングでゆっくりしていたら、急にお姉ちゃんが後ろから抱き付いてきた。


「ゆ〜あ〜ちゃん。 ちゃんと学校で雪翔くんのことを名前で呼ぶことは出来たのかな〜?」


 そんな質問をしながら、お姉ちゃんは私の頬をツンツンと突いてきた。……さすがに鬱陶しい。


「とりあえず、後ろに抱き付きながら頬を突くのをやめてほしいんだけど」

「そんなことを言わないでよ〜 結茜ちゃんの柔らかい頬から離れるなんて考えられないんだから〜」

「永遠に質問に答えなくてもいいんだね」

「それは困るな〜 お姉ちゃんはとても気になって夜しか眠れなかったんだから〜」

「ちゃんと寝てるじゃん」


 お姉ちゃんはてへっ、としながら一旦離れて、そして私の横に座ってきた。


「それで名前を呼ぶことは出来たのかな?」

「呼べたけど…まだ恥ずかしくて苗字で呼びそう」

「それはダメだよ。自分から名前で呼びたいって言ったんだから、苗字で呼ぶのは禁止だからね?」

「マジ…か」

「逆に疎遠になったり、縁を切ったりするようなことになったら苗字呼びでもいいけど———結茜ちゃんにとってその二つは嫌でしょ?」


 それは嫌だ。みか…雪翔くんとは大人になっても付き合いのある友人同士がいい。


 ……これは、あくまでも一つの例であって、私と雪翔くんがけ…けっ…結婚する未来だってあるかもだし。


 それに私はまだ雪翔くんに恋愛感情を持っていないから、これからの行動次第で未来は分岐するんだろうね。


「これからも雪翔くんとずっと仲良くしていたい」

「だよね! だからこそ、これからの結茜ちゃんの行動次第で変わるんだよ」

「それは分かっているんだけど…何でお姉ちゃんが嬉しそうにしているのかが分からない」

「よく考えてみなよ。結茜ちゃんが雪翔くんと結婚してくれたら、紫音ちゃんは私のことを七蒼お姉ちゃんと呼んでくれるし、雪翔くんも義理の弟にもなる。 これを最高と言わないで何になるの?」

「なんで、私と雪翔くんが結婚する前提で話が進んでいるの?!」


 ちょい待て。どうして私が雪翔くんと結婚する話になっているの?!まだ付き合う段階にもなっていないのに、話が飛躍しすぎだよ!?


「二人の仲を見ていたら、絶対に結婚まで一直線だと思うんだけどな〜」

「それはお姉ちゃんの見解でしょ? 当事者の私たちには、まだまだ未来の話すぎるからね? そもそも付き合うとも限らないし」

「そうなんだね〜 なら、いい報告を早く聞けることを楽しみにしているよ〜」

「はいはい、分かりましたよ」


 私は軽く流しながら返答した。

 これ以上、まともに話をしていたら余計にややこしくなると思ったからだ。


 そして喉が渇いたのでキッチンに行き、カップに紅茶を入れて、席へ戻った。

 ソファーに腰を下ろし、紅茶を一口啜っていると、お姉ちゃんが再び話し掛けてきた。


「お姉ちゃんは結茜ちゃんにプレゼントを買ってあげたいと思いました」

「唐突にどうしたの?」

「結茜ちゃんの頑張りに対して、何かしてあげたいと思った結果がプレゼントだったの」

「別に気にしなくてもいいのに」

「それはダメだよ。 という訳で、週末に水着を買いに行こう!」

「………何故、水着?」

「そ・れ・は…夏が目前に迫っているから!! 六月から水着戦争は始まっているのよ!!」


 確かに夏は目前に迫っている。それにモデルの仕事をしているから、お姉ちゃんが言っていたことは当然知っていた。……ていうか、お姉ちゃんノリノリすぎるでしょ。


 それにしても水着か…。いままではお姉ちゃんと二人で行っていたけど、今年はどうなるんだろうな…。きっと鬼頭さんに誘われて一緒に行くことになりそうだし、その付き添いで佐伯くんと雪翔くんもいそうだな…。


(これは水着を本気で選ぶしかないのでは?)


 そう思い、私はお姉ちゃんにガッツポーズをしながら返答した。


「行こう!色々と言いたいことはあるけど、水着だけは本気で選ばないと!!」

「結茜ちゃんがこんなに本気になるなんて…お姉ちゃんは嬉しいよ。 結茜ちゃんに似合う水着を選んで、皆んなを悩殺させようね!」

「それはお姉ちゃんにも言えることだよね?」


 私もそこそこ胸はあるけど、お姉ちゃんも負けず劣らずの胸をしている。あの胸を押し付けられたら、世の男たちは我慢できるのかな…?


「ふふふ。 なら、一緒に悩殺できる水着を選ばないとダメだね!」

「でも露出が多いいのはなるべく避けないとだね。 邪な考えを持ったナンパ男が沢山寄ってくるかもだし」

「その時の為に、雪翔くんと紫音ちゃんを誘うんだよ〜!」

「確かに雪翔くんはかなり頼りになるけど、紫音ちゃんには危ないことをさせないでね?」

「もちろん、そんな危ないことはさせないよ! ということで、雪翔くんの水着の好みを紫音ちゃんに聞いてくるね〜!」


 そう言って、お姉ちゃんはリビングを出て自室へと戻っていった。

 このままリビングで連絡してもよかったのにと思いながら、雪翔くんがどんな水着が好みなのか少し気になっていた。

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