第34話

 放課後になり、俺は空き教室に向けて階段を登っていた。元々、不定期の集まりだったが最近は週三日は固定になった感じになっている。


 そうして三階に着き、空き教室のドアを開けると室内はとても静寂だった。


(結茜さんはまだ来ていないようだな)


 俺は室内に入り、いつもの席に鞄を置いてから席に座った。そして結茜さんを待ちながら、スマホゲームをやることにした。


 それから十五分ほど経ち、教室のドアが開いた。


「お待たせ。本当ならすぐに行くことが出来たんだけど、先生に捕まってプリントを運ぶ手伝いをすることになったの」

「それは災難だったね。 でも学校での結茜さんは真面目な印象で通っているから、頼られるのは当然だと思うよ?」

「そうなんだけど…」


 結茜さんは苦笑しながら、制服を着崩していく。

 そうして、あっという間に不良モードになった。


「前にも言った通り、私は目立ちたくないの。委員長モードなら間違いなく目立たないと思ったのに、逆の意味で目立ちそうで…私は怖いよ」

「でも委員長が真面目で先生から頼られることはごく普通のことだし、それで目立つ人もいる。過去にそれで嫌なことがあったけど、今の結茜さんには見方が少なくとも三人はいることを忘れないでね?」

「そう…だね。もし私が一人になりそうになっても、御影くんや佐伯くん、そして鬼頭さんが助けてくれそうだね。 鬼頭さんは少し不安だけど」

「それに関しては同意見だ」


 鬼頭さんはクラスのカースト上位だが、誰とでもフレンドリーになれる性格だ。だからこそ、その場において価値のある方に味方する可能性もある。


 ……あとは佐伯くん次第もありそうだけど。


「それで話は変わるんだけど、朝のホームルーム前に鬼頭さんと佐伯くんが席に来ていたよね?」

「来ていたね。 そして結茜さんがこちらをずっと見ていたらしいね」

「そ…それはいいとして、二人と何の話をしていたの?」


 一番気になることが流された…。

 まあいっか。


「それが聞いて驚いたんだけど、鬼頭さんがこの前の事件のことを少し知っていたんだよ」

「えぇ…お姉ちゃんが事務所に報告して、色々と情報規制をされたはずなのに…」


 どうせ隠したところで、鬼頭さん本人から伝わると思ったので、素直に言うことにした。


 それを聞いた鬼頭さんは何とも言えない表情で、鬼頭さんの情報収集能力に驚いていた。


「規制を掻い潜って情報を手に入れるとは…鬼頭さんはほんと侮れないね」

「それが事実だとして、以前この教室に来たのは私たちのことを調べに来た説が出てくるんだけど」

「………」


 いや…それは流石にないでしょ。

 事件の話は近所の人が見ていれば、簡単に手に入ることだ。だけど、ここでの集まりは知られないように細心の注意を払っている。


「それはないでしょ…?」

「だよね…そこまで有能だったら、もはや探偵とかになった方がいいレベルだよ」

「探偵…か。 確かに向いてそうかも」


 探偵姿の鬼頭さんを想像したら、意外としっくりときて思わず微笑してしまった。


「そしたら佐伯くんは有能な助手とかになるのかな?」

「いや、佐伯くんは有能とは真逆の無能な助手の方がいいね。そして無能だからこそ、有能な鬼頭さんを手助けできるんだよ」

「それはそれで色々と面白いことになりそうだね」


 現段階であの二人は実況と解説をしているし、探偵と助手の演技とか見てみたいな。

 保証は出来ないけど、俺個人としては絶対に面白いと思うんだよね。


 すると結茜さんがもじもじしながら、俺に話し掛けてきた。


「あ…あのさ…」

「急に改まった態度をしてどうしたの?」

「その…私たちが出会ってから数ヶ月経ったことだし、そろそろ私もな…名前で呼ぼうかな…と思いまして…」

「名前で呼ぶ? 俺は結茜さんのことを名前で呼んでいるよ?」

「そうなんだけど…その…私が御影くんのことをゆ…雪翔…くんって呼びたいんだよね」

「なるほど。俺の名前を呼びたい———俺の名前を?!」


 確かに俺のことは未だに苗字で呼ばれている。

 そもそも俺が結茜さんのことを名前で呼ぶことになったのは、七蒼さんの押しに負けたからだ。

 その時に七蒼さんは俺のことを名前で呼ぶ提案を結茜さんにはしていなかったあくまでも御影兄妹のみに適用された話だ。


 そんな中での結茜さん本人からの、俺のことを名前で呼びたいは…本音を言えば最高だな。


「その…他にも理由は様々あるんだけど、親密度を高めるには名前呼びから始めたいな…と思って」

「それは以前話をしていた、恋愛感情が生まれたと受け取ってもいいのでしょうか?」

「何で敬語?!」

「いや、何となく敬語の方がいいかなと」

「違和感マシマシだからタメ口に戻して。 あと恋愛感情に関しては、絶対に認めたくないから!!」


 えぇ…。その強気の否定はどうゆうことだ?!

 認めたくない=認めたと言っているようなものだよな?だけど言及すると話が拗れそうだし、一旦は保留にしておこう。


「分かったから、少し落ち着いてね」

「ふぅ…」

「それで名前呼びに関しては、俺は構わないよ。寧ろ、俺が名前で呼んでいるから気にせずに呼んでもよかったのに」

「それは…御影くんが驚くと思ったから」

「まあ驚くとは思うけど、理由を聞けばすぐに了承したと思うよ。 それと名前で呼ばないの?」

「………御影くんって意地悪だよね」

「そんなことないよ」


 結茜さんは深呼吸をした。

 そして視線を俺の方に向け、口を開いた。


「ゆ…ゆき…雪翔くん」

「どうしたのかな、結茜さん?」

「これからは教室でも話し掛けてもいいかな?」

「それに関しても俺は構わないけど、結茜さんが仲良くしている姿を見られたくなかったのでは?」

「そうなんだけど… 三人が仲良く話している姿を見ていたら羨ましくなって…」


 それは別名嫉妬というのでは?

 それにしても結茜さんが嫉妬か…。幻の妹に嫉妬してもらえるなんて、この世界で俺だけなんだろうな〜。


「何ニヤニヤしているのよ」

「いや、気にしないで。 それで結茜さんがいいなら、さっきも言ったけど俺は構わないよ」

「ありがとう。 それじゃあ、タイミングを見て突撃するから、その時は頼んだよ?」

「突撃するのね…(苦笑) 分かった」


 それから一日撮影体験の振り返りや鬼頭さんと佐伯くんの話をしたりしてから帰路に着いた。

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