第二章
第33話
あれから一週間が経ち、事件はひとまず解決して、いつもの日常に戻っていた。詳しい詳細は長くなるので省くが、結論から言うとストーカーおじさんに接近禁止令が出されて、破った場合は禁固刑になるらしい。
それから七蒼さんが事務所に相談した結果、今回の件についてニュースになることはなかった。
それは結茜さんが専属モデルではないことと、一般人の俺がいたことが大きいらしい。
(普通だったらトップニュースになってもおかしくない事件だよな)
そんなことを考えていると、俺の席のところに鬼頭さんと佐伯くんがやって来た。
「ねぇねぇ、噂で聞いたんだけど———(委員長が変態おじさんに襲われかけた話ってほんと?)」
「 !? 」
ど…どうして、その話を鬼頭さんが知っているんだ…。さっきも言った通り、事務所によって情報統制はされていたはずでは?
「その驚き方を見るに、どうやら襲われた話は本当のことらしいね」
「そ…それは分からないな。 そもそも、その話はどこから聞いたのかな?」
「御影くん…嘘を付くのが下手すぎるよ。 それだと静香だけではなく、俺ですら嘘だと分かるよ」
自分でも分かっているよ…。いまの返しに関しては、明らかに動揺しすぎていたし。
てか、どこから聞いたの時点で事実だと認めているようなものじゃん。
「他言無用で頼む」
「任せて!委員長の秘密は絶対に守るから」
「俺も他言しないし、静香のことを見張っているから安心して」
色々と不安(主に鬼頭さん)はあるが、佐伯くんが見張ってくれるなら大丈夫だろう。
「確かにおじさんには襲われたけど、結茜さんには一つも危害はないから安心して」
「ほほう。 つまり現場には御影くんもいたと証言していますが、どう思いますかね解説の七音くん」
「そうですね…かなりの親密度にはなっていると考えられますね」
毎回とは限らないけど、この二人の実況と解説は一体何をしたいんだろう…。
そもそも、少しの話だけでここまで話を広げられる二人の発想力が凄いよ。
「それで御影くんはどうして現場にいたのかな?」
「詳しい話は出来ないんだけど、その日は結茜さんと一緒に帰宅していたから現場にいたんだよ」
仕事に関してはスタッフの方から情報解禁がされるまで他言無用と言われていた。その情報解禁が今月の下旬らしいので、今はまだ言えない。
「な…なんと! 一緒に帰宅していたらしいですよ!! 解説の七音さん!!」
「これは驚きの発言になりますね。 付き合ってもいない二人が一緒に帰宅とは…怪しいですね」
だから盛り上がりすぎだろ…。
それと佐伯くんは普通の男の子だったはずでは?鬼頭さんと一緒にいるとそんな風になるの?
やっぱり、バカップルなの?
「別に鬼頭さんが想像していることは、何もしていませんから。普通に用事で一緒にいたの!!」
「はいはい、分かったから。 それで変態おじさんとはどんな死闘が?」
「そんな生死をかけた勝負はしていないからね。普通に殴り掛かってきたおじさんを受け止めて、警察が来るのを待っていただけだから」
「なるほど…。御影くんは見た目に反して、実は戦いの技術があると。 七音も見習わないとね」
「ははは…。 その技術を身に付ける前に、俺は鍛えることから始めないとね」
肯定。この二人はバカップルだ。
「という訳で、鬼頭さんが気になっていた話はこれが全てだよ。 質問に関しては受け付けないから」
「無理矢理終わらせてきたね〜 まあ大体の内容は分かったから、今回は見逃してあげよう。 解説の七音さんもいいですか?」
「こちらも問題はありません。 あるとしたら、委員長がこちらをずっと見ていること気になりますね」
「………えっ?!」
結茜さんが見ている…?
恐る恐る視線を向けると———確かに結茜さんがこちらをジト目で見ていた。
(俺…何かしたかな…?)
そう思いながら、ゆっくりと視線を戻した。
◇◆
◇ side 結茜 ◇
いま、私はとてつもなく悩んでいた。
それはお姉ちゃんに言われた、『そろそろ名前で呼んであげたら』に関してだ。
その話をしてから一週間、何度か名前で呼んでみようと挑戦しようとしたけど———結果はダメだった。
(仕事とかなら余裕で出来るのに、何で御影くんのことになると出来なくてなるんだろう)
それにしても普段は誰も集まらない御影くんの席に、鬼頭さんと佐伯くんが集まるなんて珍しい…。
周囲も物珍しさに、数人が視線を向けていた。
「(まあカースト上位の鬼頭さんが目立たない二人といたら気になるよね)」
そもそも、鬼頭さんが佐伯くんと付き合っていることを知っているのは私たちだけだし。
(それにしても気軽に御影くんの場所に行けて、少し羨ましいな…)
放課後に空き教室にて二人で話はしているけど、教室でも普通に話しかけたい。委員長モードの時でも普通に話し掛けて問題はないとは思うけど、御影くんと話す時は素の私でいたいんだよな…。
でも…他の人達にはバレたくないしな。
「(とりあえず、名前呼びから始めよう)」
今日は放課後に空き教室に集合する予定だ。
その時に私は御影くんのことをゆ…雪翔くんと呼んで、余裕があったら教室で話し掛けたいことも伝えるぞ…。
(よし…頑張れ私。 私ならやれる)
私は心の中で自分を鼓舞しながら、御影くんの方に視線を向けた。
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