第28話
《 side 結茜 》
(こんなに雰囲気が変わって、カッコよくなるなんて聞いてないよ。 不意打ちすぎるでしょ…)
私は撮影をこなしながら、先程のことを思い出していた。控え室で衣装に着替えた私は、御影くんの変身姿をとても楽しみにしていた。
そしてスタジオに戻って来たら———そこには普段とは違った姿の御影くんがいた。
元々、顔立ちはいい方だし、プロのヘアメイクさんにメイクをしてもらうからカッコよくなるとは思っていたけど、私が想像していた五倍はカッコよくなっていた。
(絶対に顔が赤くなっていたよね)
そもそも、先に御影くんが感想を言うのが悪い!!あの姿で『カッコいいですね』なんて言われたら、誰だって嬉し恥ずかしくてなるわ!!
「結茜ちゃん、今日も最高に輝いているけど、よそ見はダメよ〜 隣の男の子が気になっていたとしても、視線は常にカメラ目線よ」
「すみません!! すぐに修正します」
「だけど、今回だけは特別よ。 結茜ちゃんのお友達らしいし、それに新たな一面が見れそうだしね」
「ちょっ?! 変なことを言わないでくださいよ」
「ほら、いい表情をするじゃない〜 雪翔くんも結茜ちゃんの笑顔を参考にしてね」
「えっ…その…分かりました」
「私の笑顔を参考にするより、御影くんが最高だと思う笑顔をしてね。その方が読者も惹かれるから」
「………分かった。 挑戦してみるよ」
その笑顔だよ…。雑誌の表紙でその笑顔が掲載されたら、皆んな目を惹かれて絶対に買うよ。
だって、その笑顔に私は少し惹かれてしまったんだから。……だけど、これに関しては恋愛感情ではないはずだ。これを恋愛感情と認めたら、私は単純な女になってしまう。それだけは絶対に嫌だ!!
「うんうん、雪翔くんも最高の笑顔になってきたね〜 この調子で雪翔くんは結茜ちゃんを後ろから抱きしめてみようか」
「………っえ?! だ…抱きしめるって、あの抱きしめるですか?」
「そうよ〜 結茜ちゃんは慣れているから全然問題ないよね?」
「そ…そうですね。 専属ではありませんが、プロなので問題ありませんよ」
問題大有りだよ!!あのカッコいい御影くんに抱きしめられたら、否定していたことが肯定されそうなのですが?!
(落ち着け…結茜。御影くんはクラスメイトで、私の秘密を知る者。そう、ただのクラスメイト)
よし、平常心に戻ったな。とりあえず、もう一度深呼吸をした。
「御影くん。 さあ、抱きしめてもいいわよ」
「そ…それじゃあ、失礼します」
御影くんはそっと抱きしめてきた。
抱きしめてきたんだけど———私の体に触れないように少しだけ空間が出来ていた。
(何回か手を繋いだことはあるけど、もしかして女性に触れるのが苦手なのかな?)
だけど、今回は雑誌の撮影だから、そんなことを言っていられない。
「御影くん、撮影だから密着しないとダメだよ」
「で…でも、触れるのはダメでは」
「雪翔くん〜 思い切って抱きつこう〜!」
「ほら、カメラマンさんもこう言っているし、抱き付きなさいよ」
ほんと早く抱き付いてきなさいよ…。折角、平常心に戻ったのに、また動揺が来てしまうでしょ。
「それじゃあ、し…失礼します」
御影くんは恐る恐る密着させていった。
「ゆ…結茜さん、大丈夫ですか?」
「全く問題ないわよ。 それに撮影なんだから、変なことを想像したらダメよ」
「変なことは一つも想像をしていませんから!!」
「ふふふ。 それなら大丈夫ね」
「二人とも撮影を中断していることを忘れないでね?」
「忘れていませんよ」
「中断してすみません」
「結茜ちゃんは相変わらずね。 雪翔くんはとても礼儀正しいわね〜 それじゃあ午前中の撮影を一気に進めて終わらせるわよ〜」
「「お願いします」」
色々な感情が湧いているけど、いまは撮影に集中しよう。だって、私はプロのモデルだから。
◇◆
《 side 雪翔 》
午前中の撮影を終えた俺は控え室にて、結茜さんと一緒に昼食を食べていた。昼食はお弁当になるのだが、四種類のメニューから選ぶ方式だった。
その中で俺は海苔弁当を選び、結茜さんは鮭のお弁当を選んでいた。
「午前中までの撮影を終えたけど、雑誌の撮影をやってみてどう?」
「なかなかハードだな…って思ったよ」
「午前中で根を上げていたら、午後の撮影はもっと大変になるよ」
「そんなに大変になるの!?」
「よく考えてみて。 午後からお姉ちゃんが参戦してくるんだよ? 両手に花の状態の撮影があるんだよ」
……確かに抱き付くだけでも一苦労していたのに、両方から抱き付かれたらやばいな。邪なことを考えないようにしないと。
「両手に花って言われたら普通は喜ぶ人が多いけど、俺は緊張しすぎて表情が固くなりそうだよ」
「御影くんは素人だから仕方がないけど、なるべく表情は柔らかくしてね?」
「頑張ってみるよ」
「それでも固さが取れなかったら、私がくすぐってあげるから安心してね」
「お手柔らかに頼みます」
結茜さんはウキウキした表情をしているが、俺はくすぐりが苦手だから意地でも表情を柔らかくしようと決意した。
「それより七蒼さんが参戦するだけで大変になるって言ってたけど、七蒼さんは撮影を押すタイプの人なの?」
「まあ撮影は押すことはあるけど、大変って言ったのは両手に花の方だからね?」
「そっちでしたか。 確かに俺にとっては大変になりますね」
「女性に苦手意識があるかもしれないけど、撮影の時は我慢してね?」
「その…頑張ります」
確かに女性に苦手意識はある。だけど、最近は結茜さんのおかげで慣れてきたけど、苦手意識はそう簡単にはなくならないものだ。
それから俺たちはお弁当を食べ進めていくと、控え室の扉からノックをする音が聞こえた。
ちょうど、午後の撮影が始まる三十分前だ。
「誰だろう?」
「スタッフさんとかじゃない?」
「とりあえず、返事をしないとだね」
結茜さんが「開いていますよ」と返事をすると、ゆっくりと扉が開いた。
そして———
「結茜ちゃーん!! お姉ちゃんが来たよー!!」
と元気よく言い、七蒼さんが室内に入ってきた。
「お姉ちゃん…その挨拶をやめてほしいのだけど」
「私はかなり気に入っているのに〜 雪翔くん的にはどう思う?」
「そ、そうですね…」
ここで俺に振られるとは…。確かに結茜さんの気持ちも分かるけど、七蒼さんの挨拶も元気があって悪くはない。……二つ名のお淑やかの大和撫子のイメージからは掛け離れるけど。
「元気があっていいとは思いますが、結茜さんが嫌がっているので控えめにしましょうね」
「控えめ…そうね、結茜ちゃんに嫌われたくないから、控えめにしましょう」
「御影くん…お姉ちゃんに控えめは禁句だよ。全く控えめにはならないから、もし言うなら「絶対にやめましょう」と言わないとダメだよ」
「な…なるほど」
「二人とも酷いな〜」
七蒼さんは頬を膨らませた。
「何も酷いことを言っていないから」
「結茜ちゃんが冷たいよ〜」
「きっと、お姉ちゃんの気の所為だよ」
「ほら、結茜ちゃんが冷たいことを言う〜!!」
駄々っ子の七蒼さん…とてもレアだ。
この光景を紫音に送ったら、かなり称賛されそうだけど名誉を守るためにやめておこう。
結茜さんはため息をついた。
「お姉ちゃんは早く打ち合わせをしてきなさい」
「うぅ…結茜ちゃんの意地悪。 雪翔くん、午後の撮影はよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そして七蒼さんは控え室を出た。
「さてと、私たちも撮影の準備を始めるためにお弁当を食べ終えないとね」
「そうだね。 撮影に遅れたら大変だからね」
俺たちはお弁当を急いで食べ終えて、歯磨きで歯の汚れを落としてからスタジオへと戻った。
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