第25話

 放課後。帰りのホームルームが終わったと同時に、俺はいつもの集合場所へと向かった。

 そして集合場所に着き、扉を開けると教室には誰にもいなくて静かだった。


(結茜さんより先に着いたのは初めてだな)


 それもそのはずだ、結茜さんは教室でクラスメイトの女子たちから話し掛けられていたからだ。

 とりあえず俺は椅子に座って、結茜さんが来るのを待つことにした。


 五分後———


「私が早く来なさいって言ったのに、私自身が遅れてごめんね。質問する人が多くて」


 そう言いながら、結茜さんが教室に入ってきた。


「全然大丈夫だけど、今日は質問する人が多くて大変そうだったね」

「そうなんだよね。 テスト返しも関係していると思うんだけど———そう言えば、御影くんはテストの結果はどうだった?」

「えっと…」


 いきなりテストの話ですか…。

 確かにテスト返しがあったから話題に上がるのは分かるけど、それでもいきなりすぎるよ…。


「無事に赤点は回避できたよ。だけど詳しい得点に関しては……黙秘します」

「黙秘されると、余計に点数が気になるんだけど」

「それでも俺は黙秘しますよ。 結茜さんの方は…って聞かなくても、いつも通りか」

「当然。学年順位もいつも通り上位に入れたから、目標は達成したよ」

「流石ですね」


 俺の順位に関しては…下から数えた方が早い。

 だからこそ、あまり人に伝えたくない。


「そんなことはないよ」


 結茜さんは微笑すると、すぐに顔を真顔に戻して言葉を続けた。


「朝の話の続きだけど、激辛料理店で何かあったのかな?」


 来たか…。朝からどう伝えようか悩んでいたのだけど、結局何も思い付かなかった。

 ……やはり嘘を付かないで、正直に話した方がいいのかもな。


「確かに激辛料理店で色々あったよ」

「その話を詳しく聞かせてもらおうじゃない」

「とりあえず、コースターを先に渡しておくね」


 俺は鞄からコースターを取り出して、結茜さんに手渡した。結茜さんはコースターを受け取ると、銀袋から中身を確認して、固かった表情が緩くなるのが分かった。


「ありがとう〜!! 推し置き場の場所に保護して綺麗に飾っておくね!!」

「大事にしてね」

「我が子を嫁がせる言い方だね」

「今日の結茜さん、例えが独特だよね」

「そんなことはないよ。 てことで、激辛料理店と鬼頭さんの親密度の関係を教えてもらおうか」


 結茜さんの言葉に頷き、俺は口を開いた。


「コースターを貰いに激辛料理店に行きました。俺は激辛料理が苦手だけど、コースターの為に頑張ろうと思った瞬間、鬼頭さんが現れました。以上」

「簡潔にまとめると、鬼頭さんが並んでいる場所に現れたんだね。(説明口調なのが気になるけど)」


 最後の方は聞き取れなかったけど、あまり俺には関係ないことだろう。


「それで色々あって一緒に料理を食べることになったから、グッズが貰えるコラボ料理を頼んで貰ったの。その結果、鬼頭さんが水瓶座が当たったの」


 一応、契約の話は伏せることにした。

 まあ契約の内容が結茜さんの写真だから、本人には伝えられないんだよな。


「てことは、私の水瓶座を当ててくれたのは、鬼頭さんになるっていうこと?」

「それで間違いないよ。 鬼頭さんがいなかったら、結茜さんに推しを渡さなかったね」

「なんだろ… 推しが貰えたことは嬉しいんだけど、鬼頭さんが当てたことが複雑…」


 結茜さんは渋い顔をして、そして何かを思ったのかハッと俺の方に視線を向けてきた。


「もしかして、鬼頭さんに私がアニメオタクだってことがバレてしまったのでは?!」

「その辺りは大丈夫だよ。 結茜さんの推しである水瓶座を貰う時、鬼頭さんには俺が欲しいと伝えてから。だから結茜さんがアニメオタクだってことは、鬼頭さんにはバレていないよ」

「よかった…」


 結茜さんは安堵の表情を浮かべた。


「だけど御影くんがかなりのオタクだって、鬼頭さんに認識されたことになるよね?」

「まあ俺は大丈夫だよ。 オタク認識されたはずなのに、鬼頭さんが距離感は近付いてきたから」

「佐伯くんって彼氏がいるのに、御影くんとの距離が近いのは…許せないな」

「でも鬼頭さんは元々距離感近い人だから、きっと変な噂にはならないんだよ」

「そうなんだけど、私にも色々あるのよ(御影くんが私以外の人と話しているのを見たくないとか)」


 これは俗に言うヤキモチというやつか?

 ……いや、結茜さんに限ってヤキモチはないか。

 後半部分が聞き取れていれば、確信できるんだけどな。


「そ…そうなんだね。 とりあえず、鬼頭さんとの親密度が上がった話はこんな感じだね」

「御影くんって、私の知らないところで、関係性とか色々進展しているよね」

「そんなことはないと思うけど? そもそも仲がいい人が結茜さんと鬼頭さんと佐伯くんの三人だけだし。 その中でも一番仲良いのは結茜さんだよ?」


 その言葉を言った瞬間、結茜さんは満面の笑みを浮かべてきた。


「それは嬉しいな! いつまでも永遠の一番でいられるように、私も色々と進展させたいな」

「色々と進展って…それって、つまり…」


 要するに俺と結茜さんが恋人同士になると言っているようなものだ。色々と進展だから———その先もきっとあるに違いない。


 すると、結茜さんは顔を赤くした。


「か…勘違いしないでよね。私は御影くんに対して、まだ恋愛感情が芽生えていないからね」


 ですよねー。数秒前に考えていたことが、段々と恥ずかしくなってくるじゃん。

 まあ結茜さんに恋愛感情を芽生えさせることは、かなりのハードモードだしね。


「とりあえず、好感度を下げないようにすることを心掛けることね。好感度次第では、恋愛感情の新芽が生えてくるかもしれないよ」

「だから例えが独特なんだよな…。 それで現在の好感度はどれくらいなの?」

「……教えるわけないでしょ?」


 ほんの少しの沈黙の後、結茜は首を傾げながら言った。


「教えてくれないと、これからの行動が難しくなるんだけど」

「あのね、好感度を気にしすぎて変に行動すると、余計に好感度は下がるんだからね? それを気にせずに普通に過ごしながら、好感度が上げていくのが近道なんだよ」

「だけど———」

「言い訳はご無用!! そして質問はこれにて終わり。私は帰宅する」


 結茜さんは鞄を持ち、足早に教室を出て行った。


 本当に質問をさせてくれないじゃん。

 それに何か不都合なことがあると、結茜さんはすぐ逃げるな…。と思いながら、俺も帰路に着いた。

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