第24話

「お兄ちゃん、朝だよー!!起きてー!!」

「し…紫音。普通に起こしてくれ…」


 朝から最悪の目覚めをした。

 普段なら時計のベルで起きるのだが、今日はベルが鳴る前に紫音に起こされた。


 普通に起こしにくるならまだいいのだが、紫音は有ろうことか俺の上に飛び乗ってきたのだ。何故、飛び乗ってきたのが分かったのかというと、心地よい睡眠の時にお腹に衝撃がきて目を開けたら、腹の上に乗っかっていたからだ。その瞬間で理解したよね。


「でもスタイル完璧な美少女の妹にお腹の上に乗っかられて、お兄ちゃん的には嬉しいでしょ〜?」


 ニヤニヤしながら、顔や自慢のスタイルを強調してくる紫音。


(腹の上で変なことをするなよ)


 俺は視線をずらして、紫音に話し掛けた。


「実の妹に欲情する訳がないだろ。どうせなら、紫音よりもスタイル完璧で美人な人がいいよ」

「そんなことを言われて、私はとても悲しいよ。 あっ…涙が出てきた」


 紫音は手で目元を隠しながら涙声で言ってきたが…これは嘘泣きに決まっている。


 そもそも涙が出てきたと自分から宣言しないし、目元を手で隠すのも怪しすぎるだろ。


「嘘泣きはやめろ」

「あっ、バレた?」

「バレたも何も、紫音は分かりやすいんだよ」

「そんなに分かりやすいのか〜 バレないように特訓しないとだな〜」

「特訓する意味はないと思うが、とりあえず降りてくれないか?」

「仕方がないな〜」


 紫音はお腹の上から降りたので、そのまま俺は起き上がった。


「それでお兄ちゃんが求めるスタイル完璧で美人な人って、誰のことを想像して言ったのかな?」

「……」

「沈黙するということは、あの人を想像したということでいいのかな〜?」

「誰のことだよ」

「結茜お姉ちゃんに決まっているじゃん」

「なんで結茜さんが出てくるんだよ」


 ただ沈黙をしただけで、俺の想像した人が結茜さんになるのはおかしいだろ。違う人を想像した可能性だってあるのに…。例えば、有名な女優とかな。


「だって、結茜お姉ちゃんが全ての項目に当てはまるんだもん。そうか〜お兄ちゃんは結茜お姉ちゃんに欲情してしまうのか〜」


 確かに当てはまるよ。結茜さんはスタイル完璧で美少女だ。だけど欲情する訳ないだろ。


「それはない。結茜さんにそんな邪な気持ちを持つ訳がないだろ」

「それじゃあ、羽衣姉妹の水着姿が来たとしてもお兄ちゃんは見ないんだね〜」


 紫音はニヤニヤしながら聞いてきた。


 それは反則的な質問だろ…。

 羽衣姉妹の水着姿は絶対に見たいに決まっているだろ!!そんな理由で見れなくなるのは———俺には無理だ!!


「それは見る」

「結局、見るんかーい!」

「個人の自由なんだから、別にいいだろ… ほら、学校に遅れるから支度するぞ」

「仕方がないな〜」


 紫音はやれやれという感じに部屋を出て行き、俺も制服に着替えてからリビングに向かった。



◇◆



 朝のやり取りで疲労困憊になりながらも、無事に学校に着いた。下駄箱で上履きに履き替え、教室まで向かった。教室に着くと、既にクラスメイトは集まっていて、雑談している人が見受けられた。


(気が重いな)


 いつもなら普通に教室に入って、授業の準備をするのだが、今日はなかなか入れずにいた。


 それは———鬼頭さんとの挨拶の約束だ。


 二日前の激辛料理店で、鬼頭さんが『朝の挨拶は基本』とか言って、挨拶を求めてきた。


(ほんと辛いな)


 そんなことを思っていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。振り向くと、鬼頭さんが微笑しながら手を振っていた。


「き…鬼頭さん」

「御影くん、おはよう!」


 鬼頭さんの口元は笑っているが、目の奥では「挨拶返しは?」と言っている気がした。


 催促の圧力をやめてほしいな…。


「その…鬼頭さん、お…おはよう」

「はい、よく出来ました! だけど私が挨拶をしたら、すぐに挨拶をできるようにしましょうね」

「それは努力するけど、なんで親目線の言い方になっているんだよ」

「御影くんが努力をしているのを見ていると、何だか応援したくなるんだよね。それが友達目線ではなくて、親目線みたいな感じで」

「理屈は分からないけど、友達目線での応援でお願いします」

「分かったよ〜!」


 本当に理解してくれたのか…?色々と不安はあるけど、いまは見守るしかないか。

 これだと鬼頭さんに対して、俺も親目線になっている気がするな…。まあいいか。


「それよりも、さっきから委員長がこちらを見ているんだけど…凄い睨んでいない?」

「睨んで?」


 鬼頭さんに言われて教室内に視線を向けると、確かに結茜さんがこちらを見ていた。


(確かに睨んでいるよ…しかも優しい笑顔を向けながら手を振っているし…怖すぎるだろ)


 俺は結茜さんに手を振り返すと、次に結茜さんは手招きをしてきた。

 

「結茜さんに手招きされているんだけど、行くのがとても怖いんだけど」

「ふふふ。 だけど委員長の場所に行かないと、さらに怖いことになるかもよ〜?」

「そうなんだよね… 頑張って行ってくるよ」

「行ってらっしゃい〜!」


 鬼頭さんに見送られながら、俺は自席に鞄を置き、結茜さんの元へ向かった。


「結茜さん、おはよう」

「おはよう、御影くん。それで、どうして呼ばれたか分かるかな?」

「その…分かりません」


 結茜さんが機嫌を悪くしている理由が思い浮かばない。……マジで理由はなんだ?


「御影くんを呼んだ理由は…知らない間に鬼頭さんと仲良くなっていることよ」

「………っん?」

「だから勉強会の時より、鬼頭さんとの親密度が上がっている気がするのよ!! どうして!!」

「どうしても何も…」


 一緒に戦った戦友になったから?

 あの激辛料理店での一件が、俺と鬼頭さんのとの関係が大きく変化したんだろうな。


「色々あって、仲良くなった感じ。そして朝の挨拶をしないといけないことになった」

「うん…ちょっと理解に苦しむけど、この前の激辛料理店と関係がありそうだね」


 感が鋭いな…。まあメールでも色々と気になるこがあるとは言ってたな。


「その…そうですね」

「分かった。その話を詳しく———」

「よーし、席に座れ〜」


 結茜さんが話している途中で、教室の前方から担任の先生が入ってきた。


「とりあえず、この件に関しては放課後に続きを話すから、終わり次第すぐに来なさいよ!」

「はい」


 終わり次第…か。同じクラスだから、ほぼ結茜さんと同じタイミングで出ないと怒られるな…。


 そんなことを思いながら、俺は席へと戻った。

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